全然想像と違ったんだけど
「⋯⋯ねぇ、ここに人が住んでいる家があるってマジ?嘘じゃなくて?」
紙に書かれている住所に向かって歩いているのに、まるでお化け屋敷でも歩いているかのような恐怖心に襲われる。シュヴィの店に行った時とはまた違うものに感じる。あそこは飢えた人間が居る、路地裏といえばとな路地裏だが、ここは幽霊やゾンビが平気で出てきそうな路地裏だ。
(うぅ⋯⋯。意識したらなんか背中から寒気が⋯⋯。なんで町にこんな路地裏があんの?)
「もともとは、魔法使いとかが住んでいる地域だったんだよ。だけど、色々実験で出来た副産物が蔓延り始めたから、皆出て行ったらしいよ。今はほとんど誰も住んでないんじゃないかな。それはそうと、シャナ、怖いの?」
「はぁ!?別に!?全然怖くないけど!前世でも、普通に一人で出るっていうホラースポットとか行ったことあるし!?お化けとは全然マブダチだし?てか?寧ろレレルの方が怖がってんじゃないの~?ほらほら直に言いなよ怖くて仕方ありまちぇ~んって」
「あの、そこのお二人さま」
「うぎゃーーーー!?!?!?」
突然の声に驚いて飛び跳ねた私は、勢いのままにレレルの後ろへと隠れる。そして、彼の服をぎゅ、と掴む。そんな私を一瞬見やった彼は、私にしか見えないくらいに小さく噴き出した。そのせいで私の心は余計に搔き乱されたが、目の目の女の子には気付かれていなかったらしく、あわあわと可愛らしい動作で慌てていた。
「あ、驚かせちゃってごめんなさい!でも見て、私は幽霊じゃない⋯⋯とは言えないけど、少なくとも身体は幽霊じゃないから!ほら、安心!呪わない!友好的!」
「⋯⋯確かに」
レレルの背中から、こっそり彼女の身体を覗き見る。確かに、その身体は幽霊では無かった。しかし、人間でもないように見える。彼女の手首の関節に、違和感がある。
「⋯⋯まさか、人形?」
「身体は、そうですね。でも、魂は人間なんですよ。まぁ、死んじゃってるんですけど。それより、お二人は何用でこちらへ?マトローナに会いに来たんですか?」
「マトローナ?」
「僕達が探してる魔導士だよ。ほら、貰った紙に書いてあったでしょ?マトローナ・ペニート」
「いや、私まだ字読めないんだって」
そう、喋っている言葉は理解出来るが、何故か文字は読めないのだ。
(転生モノ一生の謎だよな。いや、そもそも転生すること自体がおかしいか)
「えっと、僕達、マトローナさんに用事があるんだけど、お家とかって知ってたりしますか?」
「勿論!私はロナちゃんのところでお世話になっていますから!今ご案内しますね」
「ありがとうございます。⋯⋯ほらシャナ行くよ。いつまで怖がってるつもりなの?」
「いや?別に怖がってなんかいないけど?」
「怖いですよね~。分かります」
「別に怖くないけど!?」
見知らぬ女の子にまで同情されてしまい、最早羞恥心で死んでしまえそうなくらいだ。
「別に、怖くないし⋯⋯」
「はいはい、行くよ~」
私は、二人に引きずられるままに、路地裏を奥へ奥へと進んでいった。
***
「⋯⋯ねぇレレル?別にこれはぜんっぜん私が怖がってるとかではないんだけどさ、アンタは幽霊とか苦手じゃないわけ?」
「うん、全然。天使も似たようなもんだし。まぁ、僕は人間と天使のハーフだから、百パーセント天使ってわけじゃないんだけど。天界に行ったことも無いし」
「へ、へぇ?」
(今、すっげぇ重要なこといっぱい言わなかった?)
その思いが喉を出かかったところでどうにか抑える。
「お二人共、着きましたよ。ここです」
彼女の言葉に、私達は建物を見上げる。こじんまりとした、作品の中でよく見かけるような魔女の家、という印象だ。
(なんか、薬品の匂いしてきそうだな。入った瞬間爆発しないかな)
「入りましょうか。マトローナにお二人のことご紹介します⋯⋯って、あれ?よく考えたら、名前知りませんね?どうやって紹介すれば⋯⋯?」
「あ、名乗るのが遅れてごめんなさい!私は番塲叉那といいます。こっちは、一応奴隷のレレル」
「ご紹介に預かりました、レレルといいます」
「あぁ、これはどうもご丁寧に。私は、リリ・グレンフェル。わけあってこんな身体ですけど、どうぞ仲良くしてください。それじゃ、今度こそ入りましょう!」
「は、はい⋯⋯!」
(まさか人生で生魔女とご対面できる日がくるなんて⋯⋯!考えてみたら結構テンション上がるな⋯⋯!!)
ジルクも一応魔導士らしいが、あれはそれらしい部分を全く見せなかったからノーカンという扱いにする。
「ロナちゃーん?戻ったよー。居る~?」
リリさんがドアを開けて早々、部屋に声を響かせたが、どこからも反応は返ってこなかった。
「あれ~?また地下に籠っているのかな?おーい!ロナちゃーん?」
しかし、返事は無い。
「⋯⋯よし。こうなったら奥の手を使うしかないか」
リリさんは深く息を吸い込み、胸ポケットから羽ペンを取り出した。そして、大きく息を吸い込む。
「⋯⋯今なら!私の私物羽ペンを、特別に銀貨二枚でプレゼントー!!」
「ほしいでしゅ~!!」
「うわぁ!?」
積み上げられた本の中から、勢いよく女性が飛び掛かってくる。その人は、綺麗なスライディング土下座をかましてみせた。その対象は当然リリさんだ。彼女は呆れた顔で、その女性を見下ろしていた。
「お願いします!りりたそ!そのペンを、何卒、何卒!この私めに!!家宝にしますので!」
そんな綺麗な土下座を無視して、リリさんはくるりと私達の方に振り返った。
「お二人共、こちらがかの偉大な六大魔導士の一人、マトローナ・ペニート様です。こんななりですが、功績もたくさんあって、一応歴史に名を刻む凄い人なんですよ」
「う、うん⋯⋯」
(全然そうは見えない⋯⋯)
彼女は、今も尚地面に額をこすりつけ、ペンを懇願しているようだった。
「もう。ロナちゃん、いつまでそうしているの?お客様が来ているんだよ」
「ふぇ!?む、無理!今すぐ帰ってもらって!?私、りりたそ以外の奴ら全員半径三メートルに入れたくない!王宮の人は十メートルって決めてるからもしそうならほんともう帰ってもらって!?あぁ、でもりりたそにそんな雑務押し付けるわけにはいかなぁい⋯⋯。うつ。ここは拙者が一肌⋯⋯無理だよー!!!積んだ?これ積んだか!?バグだ、人生のバグだ!運営!今すぐ調整求む~⋯⋯!」
(うるっせぇな⋯⋯)
「もう。そう言わないの。せっかくこんな辺鄙なところまで来てくれたんだから、ご挨拶しないと!王宮の人じゃないから出来るでしょ。ほら、私が手繋いでてあげるから、一緒に頑張ろっ」
リリさんのその言葉に、部屋がしんと静まり返る。その静寂を破ったのは、マトローナさんだった。
「ごめん。尊すぎてラグが起きてた。とりあえず金貨百枚積めば良き?」
その言葉に、リリさんの周りの空気がピリついた、ような気がした。
「⋯⋯ねぇ、ロナちゃん。この前、私と約束したよね?私をアイドルとして見るのは構わないけど、お客様にはちゃんと誠実な対応をしよう、王宮の人にロナちゃんのお客様の対応をさせないって」
「し、しましたな~⋯⋯。で、でも、私、人間力は現在育成中でして⋯⋯。それに、王宮から出されてるお仕事はちゃんとこなししてるから問題は⋯⋯」
「言い訳しない。お客様の対応も仕事のうち」
「⋯⋯はい」
そうして、ようやく納得したらしいマトローナさんは、私達の方に振り向き、俯きがちに口を開き始めた。
「えと、その、マトローナ・ペニート、と申します⋯⋯。えと、その、私なんかに、な、なんのご用事でしょうか⋯⋯」
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まだ序盤にしてはキャラが着々と増えてきてますが、レレルと叉那以外は一旦個性強すぎるモブ程度に思ってもらって大丈夫です。そんくらいの方が多分楽しいと思います。横文字多すぎると疲れるよね




