頭に血が上る
『右の部屋に入ってください。私の部屋です』
階段に上がってすぐに聞こえたその指示に従い、私達は右側の部屋に飛び込んだ。そして、部屋に入ってすぐに、一番最後に入室したレレルが扉に鍵を掛ける。
「何事!?ねぇ、なにが起こったの?」
「多分、騎士が捜査に来たんじゃないかな」
「騎士って、私を捕まえに来たとかそういう?」
私の問いに、レレルは静かに頷く。
「確証は無いけど、多分ね」
私が俯いたのと同時に、ずっと手に握っていた謎の機械が振動し始めた。
「うお。今度はなに?」
『恐らく、キアンの通信機です。貸していただけますか?』
「え?は、はい⋯⋯」
よく分からないながらも、私は彼女に機械を手渡した。機械を受け取ったフィアナさんは、慣れた手つきでボタンを押し始めた。
『⋯⋯これでよし』
「なにをしたんですか?」
興味本位でそう聞けば、フィアナさんは機械から顔を逸らし、こちらに視線を向けた⋯⋯ような気がした。顔が全方位ベールに覆われて見えてないから、審議は定かでは無い。
『少し設定をいじっていたんです。これで、キアンの声が聞こえるようになって、こちら側の音は拾えないようになったはずです』
「つまり、下の状況を確認出来るようになったってこと?」
『そういことです。ほら、そろそろ来たんじゃないんですか?』
フィアナさんのその言葉に、私もレレルも、通信機に耳を傾ける。機械からは、キアンさんの声ではなく、厳格そうな男性の声が聞こえてきた。
「手配捜査だ。こちらに、赤目に罰印が付いた女は来なかったか?」
「おやまぁお疲れ様です。そんな方は見ていませんよ。それにこんな大人数で来られても、うちは可愛らしいお洋服と、美しい店主しかいませんよ。分かりましたら、お引き取り願えますでしょうか。お客様を逃がしてしまいます」
キアンさんは、怯えた様子もなく、冷静に対応しているようだった。
(キアンさん。なんで、私のこと⋯⋯)
私の顔を覗き込んでいた彼が、フード越しの私の瞳を見逃していたとはとても思えない。なにか考えがあってのことだろうか。疑心と心配が募りつつも、通信機に耳を傾ける。
「もし異世界人を庇っているのなら、業務執行妨害として連行させてもらうぞ」
「あら、何故がそんなことをする必要がおありで?騎士様に盾突くなんてそんな恐ろしいこと、私には出来そうもありません」
「黙れ」
「ガハッ⋯⋯」
なにかの衝撃音が聞こえたと思ったら、今度はキアンさんの呻き声が聞こえてきた。
「い、今の⋯⋯!!」
大声を上げそうになった口を必死に手で抑える。
(どう考えても殴られた音と声したんだけど!?それでも騎士なわけ!?)
「あはは⋯⋯。いきなり民間人を殴りつけるだなんて、騎士道精神に背くのでは?」
「目的の為に手段を講じている暇は無い。⋯⋯吐け。異世界人はここにいるんだろ?」
「はは、随分とせっかちな騎士様だこと。他の方も同じ意見ということかしら?」
キアンさんは声を張り上げてそう問いかけるが、返事らしきものは聞こえてこなかった。
「あらあら。民の声にも答えられないだなんて、この国の騎士様も随分と落ちぶれたものね。あぁ、それとも?あのアンシオ・シントンの教育の賜物かしら?だとしたら素晴らしいわね。これ程民を舐め腐った騎士をこんなに育成出来るなんて、最早一種の才能といえるんじゃないかしら」
「黙れ!!」
また、耳を塞ぎたくなるような衝撃音が聞こえた。それも、今回は何度も。その度に、聞こえるキアンさんの声が、私の脳裏に焼き付いていく。
「アンシオ様を侮辱するな!!あの方は素晴らしい方だ!騎士として落ちぶれていた俺達のことを救ってくれた!あの方を非難する者は誰であろうと許さない!!」
「随分とアイツを慕っているみたいね。全員、人を見る目が無いんじゃないかしら。あぁ、今まで箱入りで育ってきた貴族のお坊ちゃま達には分からないかしらね」
「お前⋯⋯!!ただの服飾店風情が調子に乗るなよ。このことはアンシオ様に報告させていただく!精々震えいろ!!では、我々はこれで失礼する!!」
騎士のそんな言葉が聞こえた後、たくさんの足音が立ち去っていくのが聞こえる。それを聞いた私は、レレルとフィアナさんと顔を見合わせ、頷いた。二人の「もう大丈夫だろう」の意思を受け取り、私達はゆっくりと一階に降りて行った。
***
『キアン!!』
階段を降りてすぐに、フィアナさんがキアンさんに飛びつく。彼も、それを否定せずに、フィアナさんを受け止めた。
『キアン!!血!すぐに手当しないと!』
「大丈夫よこのくらい。一応、元騎士見習いだったんだし」
『でも、キアンは普通の人間でしょ!?ほっといたら死んじゃうよ!』
フィアナさんは、随分と心配そうに彼に訴えかけている。しかし、当の本人は無関心のように見える。しかし、私の目に血で服が真っ赤に似れているように見える。ついでに床も真っ赤に見える。
(絶対大丈夫じゃないでしょ⋯⋯)
「安心なさい。手当Hはちゃんとするわよ。でも、別にアナタ達が気にすることじゃないわ」
キアンさんは強がってるようでもなく、平然とそう言いのける。
「⋯⋯でも、流石に少しキツイわね。今日はもう休みにするわ」
「それがいいですよ。私達ももう帰りますから」
「そう?ごめんなさいね。結局、服についても何も決められなくて。悪いけど、明日にまた来てもらえるかしら」
「はい、大丈夫ですよ」
「それじゃ、また明日。⋯⋯と、あぁそうだわ。ついでにアレも渡しておかないとね」
そう言いながら、キアンさんは机の引き出しから一枚の紙を取り出し、そこになにかを書いていった。そして、その紙を私に渡してくる。その紙を受け取って内容を読む。
「さっき言った魔導士の住所よ。辺鄙な場所にあるから、もし行くなら道中気を付けて」
「あぁ。腕のいいらしい魔導士」
「そうよ。変な奴だけど、悪い奴ではないから、よかったら友達になってあげて。きっと力になってくっるはずよ」
その時、キアンさんの身体が少しふらついた。
『キアン!?』
「大丈夫よ、このくらい。けど、少し視界が歪んできたわ。やっぱり現役は違うわね⋯⋯。頭はバカだけど、拳はバカじゃなかったみたいだわ⋯⋯。流石に少し舐めてたわね⋯⋯」
『そ、そんなこと言ってないで、早く手当しよう!?ほら、頑張って立って。奥の部屋行くよ。あ、それではお二人共!また明日!道中お気をつけて!』
「あ、は、は~い⋯⋯。キアンさんもお大事に~⋯⋯」
フィアナさんは、キアンさんの背中をぐいぐいと押して、カウンター後ろの扉へと姿を消していった。そんな二人を見送るように、私達は、軽く手を振る。
「⋯⋯とりあえず、僕達も出ようか」
「⋯⋯そうだね」
レレルと微妙に目を合わせたのち、私達はキアンさんのお店を後にしていった。そして、私達は、その足でそのまま魔導士に会うべく、怪しげな路地裏へと歩を向ける。
(そういえば、キアンさがんんで私を庇ったのか結局聞けなかったな。まぁ、明日でいいか)
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キアン・ゴロノヴァフについて
首都の商店街でひっそりと服飾店を経営している美人店主。自身が美しいことを自覚しており、常に美の研鑽を積んでいる。いつかワタシの美しさで世界が滅ぶんじゃないかと思っているくらいには自分の美しさに参っている。夢は自分の美しさでこの国を滅ぼすこと。
プロフィ〜ル
年齢 29歳
身長 181cm(+ヒール5cm)
趣味 ショッピング、美術鑑賞
特技 刺繍、褒めること
好きなもの オシャレ、絵画、チーズケーキ
嫌いなもの 自分を卑下する人、スイカ
利き手 右
誕生日 7月27日
MBTI ENFJ-A(主人公)
種族 純人間




