お願い聞いて
「恋人で、形式上の奴隷⋯⋯?どういうこと?」
「言葉通りの意味よ。フィアナはワタシの恋人だけど、彼女を守るには奴隷にするのが一番都合が良かった」
「はぁ?」
彼の言っている言葉の意味が理解出来ず、不満を顔に浮かべながら首を傾げる。
「ふふ。まぁ、分からないわよね」
「⋯⋯当たり前でしょ」
「そうよね。なら、その耳かっぽじってよく聞きなさい」
フィアナさんをソファに座らせてから、キアンさんは再度私達に向き直った。
「まず大前提。奴隷契約の概要については、流石に知っているわよね?」
「え、うん。過剰な主従関係って⋯⋯」
「そうね。合ってるわ。そして、この世の人々は、それを己の私欲の為に使う。けどね、世の中には、その力を使って、人権が剥奪されてしまった大切な人を救おうとする人もいるの。⋯⋯シャナ、奴隷保護法はご存知?」
「え?いや⋯⋯」
私が首を横に振ると、キアンさんはフィアナさんを一目見やって続きを話し始めた。
「奴隷保護法っていうのはね、人の奴隷に無暗に手を出しちゃダメってこと。暴力を与えたり、引き抜こうとしたりね。まぁ、世界は広いから、奴隷にわざと前に出てもらって、法律を使って金をむしり取ろうとか企んでいるのもいるんだけど、アナタは気にしなくていいわ。とにかく、そういう法律があるから、ワタシはフィアナを奴隷にしたのよ。⋯⋯ワタシは、彼女にもう酷い目に遭ってほしくないから。ワタシがフィアナを守るには、これが一番都合が良かった」
「キアンさん⋯⋯」
「まぁ、そういうわけだから、シュヴィがアナタのことを奴隷にしたのも、そういう考えが多少あってのことなんでしょうね」
「そうでしょうか⋯⋯って、え?シュヴィ?」
(私、名前出したっけ?)
突然聞こえた知り合い名前に、戸惑ってしまう。例え知り合いだとしても、何故今ここでシュヴィの名前を当てられたのだろうか。
「あら、当たりだったみたいね。レレルから懐かしい魔力が漏れてるから、もしかしたらそうなんじゃないかと思ったのよ。相変わらず癪に障ることしてるわ~。流石変質者は違うわね~」
「うげぇ⋯⋯。最悪。後で解析しとかないと」
「そうしなさい。良い魔導士知ってるから、後で紹介してあげるわ」
「ありがとうございます。助かります」
(なんか変なところで意気投合してる⋯⋯。単純に嫌われてるのか、信用あってのイジリなのかよく分らんな⋯⋯)
「まぁ、あんなクソ男のことは今はどうでもいいわ」
(クソ男⋯⋯。シュヴィの悪い異名がどんどん増えていく)
キアンさんは優雅に歩きながら指を鳴らした後、レレルの顎を人差し指で軽く押し上げた。
「レレル、アナタの服を仕立てましょう」
「え」
「え?」
突然聞こえてきた仕立てるという言葉に、私は内心身構えてしまう。
(仕立てるってなに!?オーダーメイドとかそういうこと!?金無いんだけど!?)
そう、財布の問題だ。出かける時にケイロンさんから銀貨十枚貰ったとはいえ、前世で換金すれば一万円にしかならない。そんなもので契約なんてしたら、またローンという名の借金を抱えることになってしまう。
「ちょ、ちょっと待って。仕立てるって、作るの⋯⋯?」
「当たり前じゃない!こんな逸材滅多に居ないのよ!?もう本当、ワタシのところに来たの正解大正解!ケイロンくんにお礼しなくちゃ!」
「え、えと、キアンさん、お金って⋯⋯」
私が恐る恐るそう切り出すと、キアンさんは何かを悩み込むかのように自身の顎に指を当てた。
「そうねぇ。普通なら、金貨一枚ってところだけど⋯⋯。シャナ、アナタお金は?」
「ケイロンさんから貰った銀貨十枚だけ⋯⋯」
「そう。なら、今回はお金は頂かないわ」
「うん、そんな大金⋯⋯。え?」
考えていたこととは真逆のことを言われ、口からは戸惑いの言葉が漏れる。
「な、なんで?タダってこと?」
「なわけないでしょ。他のものを受け取るのよ」
「⋯⋯他のものって?」
私の差し出せるものなんてそう多くない。なにを要求してくるのだろうか。
「偶にここに来て、レレルを貸してほしいの」
「貸してほしいって、何する気なの⋯⋯?」
「あら〜、シャナったら全くも〜。そんな分かりきった聞かないでちょうだいよ〜。逸材級に可愛い子を見つけたら、やることなんてただ一つでしょ〜?」
キアンさんは、頬に手を当ててにやにやとしている。怖い。
「着せ替え人形にするのよ」
「え」
キアンさんの楽しげな声とは裏腹に、レレルの顔は真っ青に染まっていく。
「大丈夫よ。ただ服を着て、髪をいじられて、メイクをするだけだから。ワタシに身を任せてくれればなにも問題は無いわ。寧ろ、オーダーメイドのたっかいお金がその程度でチャラになるのよ?お得だと思わない?ねぇレレル」
そう言い詰められたレレルは、いつの間にか壁際に追い詰められてしまったらしい。キアンさんを見上げては、ぶるぶると震えている。
「こ、こわい⋯⋯」
「あら怖いだなんて失礼ね〜。こんなに優しい商売人他には居ないわよ〜。ワタシは別に、たかーいお金を払ってもらう方でもいいのよ?ねー、シャナ」
「え?」
急に笑顔でこちらを振り向いてくるキアンさんに、私も恐怖心が込み上げてくる。
「う⋯⋯。分かった!分かったから、シャナに変なことしないでくださいよ!」
「はいよろしい」
レレルの言葉を聞いてキアンさんは満足気に微笑んだ。そして、フィアナさんの方に一瞬視線を向けた。
「⋯⋯そうだ。一つだけ、追加で頼んでいいかしら」
「なんです?」
なにかを思い出したかのような言葉に、レレルが眉をひそめてそう問いかける。
「此処に来た時に、フィアナの話し相手になって欲しいの。彼女は、この店から出られないから、外の景色を知らないのよ。だから、二人が経験してきたこと、いっぱい話してあげて」
『い、いいですよキアン!そんな申し訳ないです。私なんかの為に、お時間を取ってもらわなくても⋯⋯』
「『私なんか』って言わないの。此処にずっと居ても退屈でしょう?」
「⋯⋯そんくらいなら、私は別にいいけど。レレルもいいでしょ?」
「勿論。もっとふざけたこと言われたらどうしようかと思ったけど、話し相手くらいなら⋯⋯」
「ちょっと気になる言葉が聞こえたけれど、引き受けてくれてよかったわ。それじゃ、よろしく。それじゃ、すぐにでも採寸を⋯⋯ん?」
キアンさんは、近くのテーブルからメジャーを取るが、その動きはすぐに止まる。
「⋯⋯シャナ、レレル。予定が変わったわ。フィアナを連れてそこの階段から上に上がって。そしてどっちでもいいから部屋に入って。あと、これも渡しておくわ」
そう言われて渡されたのは、小さな機械のような立方体だった。
「⋯⋯なにこれ?」
「説明してる時間は無いわ。いいから早く。もし生きてたら教えてあげる。部屋からは絶対出ないで。そして、物音も立てないで」
「⋯⋯行こう、シャナ」
「え、ちょっと!?」
レレルはなにかを察したのか、私の手を強く引いて階段を上がっていく。後ろを振り返れば、暗い顔のフィアナが足を進めて階段を登っていた。
(一体なんなの⋯⋯?)
ようやく心穏やかに過ごせると思ったのに、まだまだ波乱万丈は続くらしい。
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