最高の布団
ケイロンさんの話を聞いているうちに、時間はあっという間に過ぎていき、動き続けた私の体は限界を迎えていた。
「ふぁ〜⋯⋯」
「眠そうだね、シャナ」
「当たり前でしょ。今日だけでどんだけ動いたと思ってんの」
「では、今日はもうお休みになられた方がよろしいでしょうね。⋯⋯といっても、客室としてご用意出来る部屋が一部屋しかないんですけど、それでもよろしいでしょうか」
ケイロンさんの言葉に、レレルは不快なにやけ面を浮かべて私の方へと視線を向けた。
「シャーナっ!一緒に寝よ?」
組んできた腕を振りほどこうとするが、向こうの力が強すぎて全然抜け出せない。
「嫌に決まってんでしょ!てか離してよ!」
「シャナが『うん』って頷いてくれたら離してあげるよ」
「はぁ!?」
拘束された状態に加えて、レレルは上目遣いで私のことを見てくる。そのあどけない瞳に負けそうになってしまう。
「い、いやいやいや!ケイロンさん、物置とか無いんですか?私そこでいいんで!」
「あるにはありますけど、暫く片付けてないので、人が寝れる場所なんてありませんよ。お疲れでしょうし、しっかりとベッドで横になって休まれた方がいいですよ」
「うっ⋯⋯」
(良心が痛い⋯⋯)
「ほらシャナ、ケイロンさんもこう言ってるし、今日は一緒に寝ようよ」
「寝ようよって⋯⋯。アンタ、なんかする気じゃないよね?」
「んー?何かって、何が?」
「それは、その〜⋯⋯」
頭に浮かんだ言葉を口にすることが憚られて、口を噤んでしまう。
「⋯⋯そのー?」
「⋯⋯⋯⋯と、とにかく!ケイロンさんがそこまで言うなら、仕方ないから今日は一緒の部屋で寝てあげる」
「やったー!」
私の言葉に、レレルは随分と嬉しかったらしく、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「でも、同じベッドでは絶対に寝ないから!例え布団が無くても、私は床で寝るからね」
「そう心配されなくても、ベッドは二つ用意されているので、問題ありませんよ」
「なら良かった⋯⋯」
ふかふかのベッドに一人で寝れるということに、安堵感を覚える。
「⋯⋯それじゃ、僕達はそろそろ上に上がろうか。シャナも眠いんでしょ?」
「当たり前でしょ。⋯⋯てなわけで、ケイロンさん、私達寝ますね。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい。私は、戸締りをしてから寝ることにします。お二人共、いい夢を」
***
ああは言ったが、布団に潜ったら案外眠れないものだ。色んなことが頭の中に浮かぶせいで、眠気がどんどん覚めていく。
「⋯⋯⋯⋯レレル?」
「なにぃ?」
今にも眠りそうな声が隣から聞こえてくる。どうやら私とは違って、睡魔に襲われていたらしい。
「ごめん、起こした?」
「いいよ、気にしなくても。⋯⋯眠れないの?」
「⋯⋯少し」
私のその呟きを、くすくすと笑う声が聞こえてくる。自分が眠れそうだからってそれがなんだというんだ。
「それじゃ、少しだけ話す?」
「⋯⋯なら、シュヴィの店に行く前のことを教えて。ここの人達とは、元々知り合いだったの?」
「知り合い⋯⋯というか、拾われたというか、捕まったというか⋯⋯」
「え?な、なに?拾われた?捕まった?」
動物に使う言葉が並べられたことに、眉をひそめてしまう。
「うん。三人目のとこのご主人様を食べた後、そろそろヤバいだろうな〜って思ったから、適当に逃げてったら、お腹が空きすぎて行き倒れちゃって」
「え!?」
「それで、そこをケイロンさんに見つかったのが最初。彼は、僕を見つけてすぐに喫茶店に連れていってくれたし、この部屋で休ませてくれたんだ」
そう語るレレルの声は、とても穏やかなものだった。本人にとって、大事な思い出なのだろう。
「⋯⋯それじゃ、なんでシュヴィのとこに居たの?」
「⋯⋯お城から、偉い人が来たんだよ。それで、ここに迷惑は掛けられないから、ついて行くことにしたんだ。ケイロンさん達は、最後まで僕のことを庇ってくれてたけどね」
「そうなんだ⋯⋯」
「でも、行った場所がシュヴィの店で良かったよ。そんなに酷いことされなかったし。何故か知らないけど、あの人、かなり僕のことを気に入ってくれてたらしいんだよね。なんでだろ」
「レレルが好みだったんじゃない?」
「うげー。やめてよ⋯⋯」
(本当に無理そうな声出すじゃん)
「⋯⋯それより、シャナはどうなの?寝れそう?」
「いや?」
実際、眠くなるどころかどんどん意識が覚醒してしまっている。
「そっかぁ⋯⋯。あ、いい事考えた。シャナ、少したけスペース空けてくれる?」
「は?何する気?」
「いいからいいから。きっとシャナも気に入るよ」
「だからなにを⋯⋯」
はっきりと言わない彼に苛立ちが込み上げてしまい、咄嗟に身体を起こしてレレルの方に視線を向ける。
──彼のベッドには、天使が居た。
真っ白な翼を広げて、月の光を浴びた彼は、正真正銘の天使としか言いようがない。
「それじゃあ、ベッド失礼するね」
「え?」
私の返答も聞かず、レレルは羽を広げたまま、私のベッドへと入ってきた。
「ちょっと!?」
「シャナも横になりなよ。もふもふだよ?」
「はぁ⋯⋯」
腑に落ちないながらも、言われた通りに横になる。
(⋯⋯確かにもふもふ)
癪に障るが、天使の羽というのは、思ったよりも温かいらしい。その羽が最高の布団だからなのか、それとも吐息が聞こえる距離に人が居るからなのか、すぐに眠気が訪れてくる。
「⋯⋯⋯⋯」
「眠くなってきた?」
「⋯⋯少し」
「ふふ。それじゃ⋯⋯おやすみ、シャナ」




