一緒に入る?
レレルに手を引かれながら走っていた私達は、大通りに出てすぐ左の店で足を止めた。
「着いた!ここだよ、入って」
「うん!」
レレルに押されながら、私達は慌ただしく店内へと入っていった。ドアがぱたりと閉ざされた瞬間、急に雨が遠い存在のように感じる。なんだか、安心出来る場所を得たという安堵感で満たされるたような気分だ。
「ケイロンさん、いる?」
レレルは、入口で長い髪を雑巾のように絞りながら店内にそう声を響かせた。その声に答えるかのように、ドタバタと忙しそうな足音が聞こえてくる。その音の主は、私達の前を一度通り過ぎ、すぐに戻ってきた。
「す、すみません、お客様!遅くなりました!」
猫耳と尻尾を生やした女の子は大きな動きで私達に頭を下げてくる。そんな彼女の肩に、レレルは優しく手を置いた。
「いいよ、気にしなくて。それより久しぶり、ミキ。元気してた?」
「は、はい!とっても⋯⋯って、え!?レレルさん!?」
「そだよ~。突然だけど、お風呂貸してもらえるか、ケイロンさんに聞いてもらえないかな?僕もご主人様も雨に濡れちゃったからさ」
「ごしゅじんさま?」
レレルにミキと呼ばれた女の子は、「ご主人様」と呼ばれた私の方の方を一心に見つめてくる。
「え?な、なに?」
「⋯⋯いや、その、レレルさんがご主人様に選ぶなら、もっと綺麗な方にするのかと思ってたので、少し意外というか」
(んだこのクソガキぶっとばしてやろうか)
真顔で言われた突然の言葉に、内心腹が立ちすぎてメンチを切ってしまった。
「あ、でも、その瞳はすごく綺麗だと思います!わたし好きです!」
「瞳?別に普通⋯⋯じゃないんだった!!」
ジルクから言われたことを思い出して、内心冷や汗が噴き出してくる。
「どうしようレレル!私このままじゃ実験台のモルモットにされちゃう!!」
「え?な、なに急に」
彼の肩を掴んでそう涙任せに叫べば、当然レレルは困惑したような表情を浮かべた。
「実は⋯⋯」
そう口を割りかけた時、誰かの近付いてくる足音が聞こえてきた。
「なんの騒ぎですか?」
「お父さん!」
「ケイロンさん!」
厨房の方から出てきた猫耳を生やした男性を二人はそれぞれそう呼ぶ。名前を呼ばれた彼は、クソガキ、ではなく、少女の頭を一撫でした後、私達に向き直った。
「久しぶり、レレルくん。そして、そちらのお嬢さんは始めましてですね。私は、この店のオーナーのケイロン・ヴルタリーと申します。こちらは娘のミキ」
「番塲叉那といいます」
「シャナは異世界から来た異世界人なんだって。分かんないことばかりだろうから、色々教えてあげてください」
「アンタは私の親か」
妙に恥ずかしくなるような紹介をしたレレルの膝を軽く蹴る。
「ふふ。シャナさんですね。よろしくお願いします。それより、お二人とも、雨に濡れて大変だったでしょう。どうぞ、うちのお風呂を使ってください」
「あ⋯⋯」
ケイロンさんの言葉に、ミキは、申し訳なさそうに俯いてしまった。
(あぁそっか。レレルに、お風呂使えるか聞いてきて、ってレレルに頼まれてたもんな)
心の中だけでも必死に励ましてあげたいのに、何故か「ざまあない」という言葉しか出てこない。
(心が汚れすぎてて笑う)
「さ、お二人ともついてきてください。風呂場までご案内します」
「いいよ。少し前まで住んでたんだし、案内は不要だよ。ケイロンさんも、お店あるでしょ?」
「心配いらないよ。今はお客さんも少ない時間帯だし、ミレーもいるからね。それに、着替えの用意もしなくちゃだろう?」
「え!?そんな、わざわざ悪いです!」
「濡れたままの服を着ていたら、風邪をひかれますよ。どうか、今は甘えてください。我々は、どこの組織にも属していない、ただの喫茶店ですから」
「そ、そうですか。それなら、お願いします」
「はい」
どこか引っかかる部分はあるものの、私達は引く様子の無いケイロンさんの提案に甘えることにした。
***
「お風呂場はこちらです。洗濯物は、こちらの籠にお入れください。着替えは、後程お持ちしますね。妻のものでもよろしいですかね?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「レレルくんは、私のでもいいかい?少し大きいかもしれないけど」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます、ケイロンさん。なにからなにまで」
「いやいや、レレルくんは、私達にとっては家族みたいなものだから、気にしなくていいんだよ。それじゃ、そろそろ私は仕事に戻るね。ごゆっくりどうぞ。二人共、ちゃんと身体温めてくださいね」
ケイロンさんは、にこやかにそう言って、階段を降りて行った。
「⋯⋯それじゃシャナ、一緒に入ろっか?」
「⋯⋯は?」
(今、なんつった?)
聞こえてきた言葉に、私は自分の耳を疑う。脳がレレルの言葉を上手く処理してくれない。
「おいおいおい、ちょっと待て。この馬鹿天使」
「なに?なんか変なこと言った?」
「『変なこと言った?』じゃないでしょ!なにさらっと一緒に入ろうとしてんの!?バカなのアホなの!?私達、そんな仲じゃないでしょ!?」
「あれ、そういうのが好きなんじゃなかったの?僕を選んだのは、てっきりそういうことかと⋯⋯」
「違うわボケナス!」
変に勘違いする天使を一蹴し、私は風呂場の扉を開けた。
「もういい!風呂は私が先に入る!レレルはどこでもいいから適当に待ってればいいでしょ!このバカ!!」
ばたん、と扉が音を立てて閉じられる。自分が思ったよりも、ずっと大きな音で。
***
(全く。天使だとマナーってもんも備わってないわけ?一緒に風呂に入ろうとしてくるなんて、バカじゃないの?)
うだうだとそんな文句を心の中で垂れながらも、脱衣所の鏡へと目をやる。そこには、いつも通りの貧相で、普通の高校生の身体をした私が居た。瞳以外は、全て普通の。
(真っ赤な瞳に、うっすらと付いた罰印。不気味だなぁ)
そんな不気味な瞳を伏せ、私は鏡から目を逸らすかのように、浴場へと足を踏み入れた。
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まだお風呂は早いか⋯⋯




