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旧プロトコルの同行者  作者: 八四一 十々
第1章 最初の人間
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第9話 スタート地点

ヒツヤは、カルネアの事件を思い返していた。あの青いフードの男の姿、そして手にしたコアメモリ――。あの光景は、今でも頭から離れない。


「…あの時、私は何も出来なかった」


小さくつぶやきながらも、胸の奥には、戦うことへの恐怖と期待が入り混じる感覚があった。あの時の無力さを二度と味わいたくない。


その時、リオがヒツヤの隣に歩み寄り、少し笑みを浮かべながら言った。


「ヒツヤ、良い知らせだ。前回の事件の影響で、近隣のエンテレキアも集めて3日後、合同試合を行うことが決まった。正式に言うと、エンテレキア適合審査会だ」


ヒツヤは息をのむ。普段は新人の自分にとって、大勢のエンテレキアの中で戦うなんて考えただけで緊張する。けれど同時に、これまで以上に自分を試せる絶好の機会だという期待も湧き上がる。


「リオさん、私……もっと強くなります」


ヒツヤはミラージュブレイドを取り出し、お守りのように握る。


「ああ。たゆまぬ努力を続けられればな。そのためにも、まずはそのミラージュブレイドの使い方を学ぼうか」


「はい!」


訓練所にて、リオとヒツヤは向かい合う。その様子をシエルとアークが見守っている。


「まずは基本、持ち手を握って刃を光らせろ」


リオが黒いミラージュブレイドを握り、前に構える。すると、刃全体に閃光が稲妻ごとくほとばしる。


「うわっ……」


ヒツヤは虫のようにその光を凝視している。アークはあぐらをかきながら暇そうに見ている。


「ミラージュブレイドに電気を流す方法を体に覚えさせろ。ヒツヤ、やってみろ」


ヒツヤは思いっきりミラージュブレイドを握りしめる。しかし一向に光る気配は無い。彼女はひたすら握る。そんなくないで握力測定しているヒツヤをシエルは優しく見守る。


「ヒツヤ、力じゃない。手先の感覚に集中しろ。コアメモリから手の末端までの経路を想像し続ければ、自ずと感覚を掴めるはずさ」


ヒツヤはリオのアドバイスにより、脱力して冷静になる。目を瞑り、全神経を集中させる。

しばらくの間、ヒツヤは微動だにしなくなる。三人が注目していると、一瞬ミラージュブレイドが光った。


「……はっ!」


シエルは驚きつつも声を抑える。再び光ると徐々に明るさが強くなり、青白い閃光が血管の如く刃の上を走り抜ける。


「習得が早いな…ん?」


皆が感心しているのもつかの間。光はとどまることを知らずにどんどん強くなっていく。次第に閃光はヒツヤの腕を伝うように広がっていく。

リオは手で光を遮りながら決死に叫ぶ。


「ヒツヤ!もうよせ。それ以上は危険だ!」


ヒツヤはパッと目を開く。澄まし顔でミラージュブレイドに視線を送ると、


「うわーーーっ!どういうこと!」


慌てて叫ぶ。


「ミラージュブレイドを離すんだ!」


アークが白飛びしたヒツヤに駆け寄る。


「力が制御できない……手が、開かない……」


その瞬間、手からミラージュブレイドが反発するように吹き飛んで行った。ヒツヤは重りのような足を引きづり、倒れてしまう。

事なきを得たものの、ミラージュブレイドは、まだ微かに余韻として少し光っている。


「ヒツヤすごい!どうやったの?」


倒れたヒツヤを覗き込むようにシエルがしゃがむ。


「わから……ない。そんなことより、体が、動かない……」


ヒツヤは一気にエネルギーを使い果たし、動けなくなっていたのだ。

リオは水玉をヒツヤの口の中に入れる。


「私たちの体は特殊合金で作られている。そう易々と傷つけられない。せめてかすり傷程度はつけられるようになってもらおうとは思っていたが、正直これは想定外だ」


ヒツヤは回復し、ゆっくりと起き上がる。


「途中から制御が効かなくなってしまいました」


「なるほど。力を流す方法は覚えたが止める方法はまだ体が覚えていないんだな」


アークがヒツヤにミラージュブレイドを返す。


「もっと練習が必要だ……」


こうしてヒツヤは自身の取扱説明書の1ページ目を開いたのだった。


3日後。

街の広場には、試合会場の設営が進められ、他地区から集まったエンテレキアたちが次々と到着していた。遠目に見るだけでも、技を試す腕や姿勢の違いから、各地区の個性が伝わってくる。


こうして、ヒツヤはまた新たな試練の場へ――


ヒツヤは胸を高鳴らせながら、次に待ち受ける戦いに思いを馳せるのだった。


「ところで会場はカゴエ地区なんですね」


広場にて、クオリアの街を眺めながらヒツヤはリオに話しかける。


「ああそうだ。前回優勝地区で行うきまりだ。毎年夏にやる行事なんだがな、カルネアの件もあって時期が早まったんだ。」


「そうなんですね。やっぱりカルネ...って、前回優勝地区!?」


ヒツヤは寄りかかっていた手すりを転がるように驚いた。


「そういえば言ってなかったな。去年私たちは優勝したんだ」


リオはすまし顔で答える。わざと驚かせようとしたのだろうか。


「優勝って、何地区集まるんですか?」


「去年は7地区だったな。しかし今年は人数が少なすぎて出場できなかった地区も参加するから8地区だ」


「8地区……それにしても凄いですね! 優勝だなんて。なら今年も頑張って2連覇目指しましょうよ! ちなみに1地区どれくらいの隊員がいるんですか?」


「多くて5人ぐらいだな。私たちは元々3人だったからヒツヤに入ってくれて嬉しく思っているよ」

(まあ人少なかったから嫌でも強制的に入れてたけどね)


「私、力になれるよう頑張ります!」


「ええ。期待してるわよ。」


ヒツヤとリオは話を続けながら、会場へと足を進めていた。

石畳の広場へ向かう道は、既に多くの観客やエンテレキアで賑わい始めている。遠くからでも、会場中央に設けられた試合場の骨組みが見えた。


「……なんだか、祭りみたいですね」


ヒツヤは思わず声をもらす。試合と聞いて緊張していたが、街の活気に触れると少し肩の力が抜けるようだった。


「そうだな。年に一度の催しだからな。地区同士で競い合うだけじゃなく、技を見せ合って交流する意味合いもある。まあ、今年はちょっと事情が違うが……」


リオの横顔は柔らかい笑みを浮かべつつも、その瞳には鋭い光が宿っていた。カルネアの影が、この場にも確実に落ちている。


「ヒツヤ、今回の試合はただの余興じゃない。どの地区も、本気で力を試しに来ている」


「はい……」


ヒツヤは大きく息をのみ、胸の奥に熱を感じる。


やがて二人は広場の入り口に立った。

そこには各地区の紋章の旗が掲げられ、整然とした待機列ができていた。黒のスーツを着た隊員たちが、試合開始を待ちながら静かな熱気を放っている。


「――さあ、始まるぞ。ここがお前の“スタート地点”だ」

リオの言葉に、ヒツヤは強くうなずいた。


広場で一瞬立ち止まったヒツヤは、胸の奥の高鳴りを押さえながらリオの後を追った。

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