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旧プロトコルの同行者  作者: 八四一 十々
第1章 最初の人間
8/23

第8話 カルネア

リオたちは手分けをして各フロアを探し回るが、一向に犯人は見当たらない。


(全然見つからないぞ、コガヤシの方は見つけたか?)


リオは共鳴してナユタと連絡する。


(こっちもダメだ。仲間からも連絡が無い。思ったよりかくれんぼ上級者だな。)


その頃ヒツヤはあちこちを走り回り、被害者を探していた。


「外傷や争った形跡は特にない……一体どうやって」


天井のガラスから差し込む太陽の光を手で隠しながら上を眺める。


(今日はいい天気だ...)


一方で、ナユタは共鳴でリオと連絡をとっている。


(あれぇ、3階の洋服コーナーから反応があるな。今3階にそっちの隊員いる?)


リオは廊下を駆けながら応答する。


(いや、向かわせてない。それに洋服コーナーはヒツヤが待機しているぞ。まずいことになりそうだ)


すると二人の会話にシエルが割り込んでくる。


(私が向かいます。)


シエルは吹き抜けを利用し、ダイレクトに3階に移動する。


「シエル!?」


ヒツヤは突然現れたシエルを見つけて名前を呼ぶ。


「ヒツヤ、近くに犯人がいる、逃げ……」


ヒツヤは後ろから誰かに手首を掴まれた。

その瞬間空気が凍りついた。

そっと首を捻って後ろを見る。そこには青いフードを被った黒髪の男がこちらを驚くような顔をしてじっと見つめてくる。シエルは蒼白な表情で立ち尽くす。


「ヒツヤ……」


シエルが叫けぼうとしたのを遮るように男が喋りだした。


「なんでだ。」


男は針を刺すようにヒツヤを睨みつける。


「お前、人間だな」


男は恐ろしい程の強さで手首を掴んだまま、顔に手を当てる。


ヒツヤは男の狂気じみた声に状況が飲み込めない。周りの音は淀むように響き、彼女の頭の中まで到達しない。


(はぁ、はぁ、何回みても情報通り、100点満点の服装……人間?何言ってんだこいつ。)


ヒツヤは騒然と考えていると、男が再び口を開いた。


「あ、ごめんごめん。突然手を掴んでしまってすまない。僕の名前は、まあカルネアって事にしとこうか。君の名前はなんだい?」


話したときには既にシエルは飛び出していた。構えたミラージュブレイドがカルネアの首に迫る。しかし、カルネアは片手で刃を掴んで止めてしまった。


「っ……!」


「君、今何しようとしてるかわかってる?」


カルネアはゆっくりとシエルに目をむけ、上から睨みつける。


「なにっ!?」


カルネアはヒツヤの手首を離し、シエルの顔に拳を振りかざす。


すると次の瞬間、カルネアの振りかざした手首が切断されて吹っ飛んだ。シエルは金属の部品がいくつか飛び出た男の腕の切断面を眺める。


「みーつけたっ」


横からナユタが手首を切断していたのだ。


「うわぁー見えなかった。早いねぇ。君、覚醒者かな?まあ覚醒者だろうと、こっちには人質が……」


カルネアは振り返るとそこにはヒツヤはいなかった。


「大丈夫だった?」


シエルはヒツヤを心配する。既に彼女はヒツヤを救助していたのだ。


「よう。お前、やっぱカルネアだなぁ。動きを見ればわかるよ。申し訳ないが盗んだコアメモリは返して貰う」


ナユタは構えながらカルネアを睨みつける。


「みな無事か?」


後ろからリオとアークも駆けつける。カルネアは冷静に切られた手首を眺め終えると、ゆっくり話し出す。


「おいおい、覚醒者二人目かよ。勘弁してくれ。けどいいさ。もうこんなガラクタ興味なくなった。」


するとカルネアは持っていたコアメモリを前に投げ捨てる。


「さ、どうぞ捕まえてごらん」


カルネアが嘲笑した瞬間、両足が切断された。目にも見えない速さで移動したナユタが切り落としたのだ。

カルネアは前方に倒れ込む。


「はっや。挙句に攻撃読まれるとか反則でしょ。」


うつ伏せになりながらも体を起こし、ヒツヤに目線を送る。


「さあ、大人しくしろ。これからエンテレキアに連れていく。」


リオがカルネアを上から見下ろし、低い声で言う。


「そうかいそうかい。お好きにどうぞ。じゃあ最後にサプライズだ」


カルネアは少しニヤけ、シエルから奪っていたミラージュブレイドを自身のコアメモリに突き刺したのだ。


「……っ!」


全員騒然とした。時が止まった。


再び時間が動き出したのは、自身に刺した男が動き出した時だった。


その瞬間、ヒツヤは男に駆け寄った。後の事は何も考えてなかった。ヒツヤではなく、ヒツヤの体が駆け寄ったと言った方が正しい。


「大丈夫ですか?」


驚きを隠せず、口から出たことをそのまま並べた。


男はゆっくりとミラージュブレイドの刺さったコアメモリを触りながら答える。


「俺はもう、死ぬのか...」


男は魂の抜けたような掠れた声でヒツヤに問う。


「大丈夫です。あなたは……」


ヒツヤは震えた声で囁くと、ゆっくりと男を抱きしめる。


「死にたくない……」


虫の息のような声を聞き、ヒツヤは次第に涙を溢れさせる。


「大丈夫。大丈夫ですよっ……」


「ヒツヤ...」


アークはそんなヒツヤを見つめながらゆっくり下を向いた。


「この男、操られていたのか……」


しばらくして、ヒツヤは完全に動かなくなった男を優しく地面に寝かせると、今までに感じたことのないくらいの強い殺意が湧き出した。歯を強く噛み締め、拳を握る。体が震え、口から水蒸気が溢れ出す。


「あいつは、私が殺さなきゃ」


ヒツヤは落ち着いた表情を見せながらその場に立ち上がる。目は赤く光り、落ち着いているように見えながらも、手に力を込め、腕が微かに震えている。周りの声は何も聞こえなくなり、ただカルネアのことだけを考える。その時、


「あっ……」


シエルがヒツヤの頬を両手で強く触る。


「落ち着いて、私も同じ気持ちだよ。でも今は抑えて。大丈夫。私たちはいつか必ずあいつを倒す」


シエルは真っ直ぐヒツヤを見つめていた。ヒツヤはそのまま涙を溢れさせる。


「おい、大丈夫か? 故障したか?」


リオが心配そうに駆けつける。


「うん。大丈夫……大丈夫。ありがとう」


周りがヒツヤを見つめる中、ヒツヤは涙を手で拭い、震えながら声を絞り出した。


こうして、コガヤシ地区で発生したコアメモリ強奪事件は幕を下ろした。


街には再び穏やかな風が吹き、太陽の光が広場の芝生に影を落としている。

ヒツヤは手のひらで涙を拭い、静かに深呼吸をする。

シエルは少し離れた場所で腕を組み、遠くの空を見つめながらも、わずかに肩の力を抜いていた。

リオは拳を握ったまま微かに息を吐き、事件の重さと、それでも皆が無事であることに胸を撫で下ろしている。

アークはそっと視線を落とし、拳の震えを止めるように自分を落ち着かせていた。

ナユタも、膝をつき、沈んだ呼吸を整えながら、少し笑みを浮かべる。


ヒツヤが天井のガラスから雲ひとつない青い空を見上げる。何故だろうか。ガラスという小さい範囲から、どこまでも広がっているような広大な空が見える。


そして、街の喧騒がゆっくりと戻ってくる中で、彼らの胸には、まだ見ぬ未来への小さな希望が、静かに灯っていた。





「カナメちゃーん、さっきの青いフードの男について調べた結果はどうだったぁー?」


ナユタは、赤い髪の少女と話している。


「調べたところ、コガヤシ地区内に住む男性で、知人からも特に怪しい行動は見られなかったとのことです。特に目立った前歴もなし。」


ナユタはその場に座り込む。


「ふーん」


ナユタは視線を上げ、事件現場を見渡す。心の奥に、言いようのない不気味さと緊張感が残る。


「操っていた……ということか。考えうる限り最悪の出来事だ。クソっ。カルネア、いつか必ずお前を捕まえてやる……」


ナユタの言葉は、風に溶けることなく、静かに決意として胸に刻まれた。

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