第7話 静寂の証明
朝方、ヒツヤはシエルとリオ、アークと共に建物を出る。
エンテレキアの2階出入口の前にある広場に到着する。前には大きい建物がそびえ立ち、街中の白い壁が太陽の光を反射し、広場の芝生に影が伸びる。
「何があったんですか?」
ヒツヤは回転扉を通り、3人に尋ねる。リオが遠くの空を眺めて方向を指さす。
「ここから約35kmの、コガヤシ地区の大型ショッピングモールでまたコアメモリが盗まれる事件が発生した。しかも今回は被害者が8人。これからもっと被害者が増えるかもしれない。急ぎましょう」
アークが右肩を回して前に出る。
「おいおい、もしかして奴の仕業か?」
「ああ。奴、カルネアの仕業と見て間違いないだろう」
「早く、急がないと...」
シエルは一目散に広場の柵を飛び越え、ビルの壁や看板を蹴り飛ばして進んでいく。
「私達も行くぞ!」
リオとアークもシエルに続く。ヒツヤは息を呑み、柵を飛び越える。
(カルネア……って)
ヒツヤは疑問を抱えながら大きくジャンプする。しかし、3人には遠く及ばない。空中を飛び回る3人を見上げながら、街中を走る。通行人や配達ロボットなどを飛び越えて必死に距離を保つ。
「あれは...川!?」
前方に大きな川が横切っているのを目にする。米粒の大きさのシエルはひとっ飛びで反対側へ移動するのが見えた。
(うそ、速い……)
ヒツヤは川を飛び越えられないと判断する。すると視界の端に、空中を移動して川を横切っている箱を見つける。中には数人の乗客がいた。ヒツヤは咄嗟に箱に向かって飛び乗る。
(遅いな……)
そう思っていると、アークが上から飛び乗ってくる。
「だいぶ動けているな。落ち着け、大丈夫だ。シエルが速すぎるだけだ」
2人は反対側に飛ぶ。
「よく頑張っているわね。あと7km程度よ。もうちょっとで到着するわ」
リオが反対側で待っていた。
「はい! 頑張ります」
ヒツヤは両手を握りしめて叫ぶ。そうして3人はシエルを追う。
ヒツヤたちはコガヤシ地区の大型ショッピングモールを目に捕える。目の前には、沢山の建物に囲まれた広大な土地が広がり、巨大な施設が並んでいる。
「ついたぞ。事件現場は3階だ。突入するぞ!」
リオが先陣を切り、ヒツヤたちは屋上に着地する。3人は入口を通り現場に走ると、段々と黒いスーツのひとだかりが視界に入る。
「あの髪、シエル!」
白髪の後ろ姿を見たヒツヤは叫ぶ。声を聞いたシエルは振り向く。
「みんな遅いよ」
「お前が速すぎるだけだ」
アークが話すと、シエルは後ろを振り向いて指を指した。
「あれよ」
そこには人が仰向けに倒れていた。服がめくれ、コアメモリが抜き取られている。
「この光景、何度目かしら...」
リオが前に進みながらそういう。
「なんでコアメモリを……」
ヒツヤが人差し指を顎に当てながらボソッと言う。すると突然耳元で誰かが囁いた。
「へぇー。君が噂の喋る新人さんだねー。本当に反響しないんだぁー。世の中ぁ、まだまだ知らないことだらけだぁー」
「うわぁ!」
背筋がゾワッとした。今までで一番大きな声だった。慌てて振り返ると、ボサボサの緑髪、目には大きなくまができ、そろそろ生活に慣れ始めたフリーターのような人がいた。背丈が高く、細身で猫背の男が上からヒツヤを睨みつける。
「ど、どちら様ですか?」
ヒツヤは足を引きながら話しかける。アークはヒツヤの肩を止めて説明した。
「こいつはコガヤシ地区の隊長、ナユタだ。ここは本来こいつらの管轄なんだが、もしかしたら大きな事件かもしれない。だから俺達も呼ばれたんだ」
「そうなんですね。私、カゴエ地区のエンテレキア所属している、ヒツヤと言います!」
「へぇーヒツヤちゃん。可愛い名前だねぇ。俺ナユタぁ。よろしくねぇ」
ナユタは眠たそうに目を擦る。
「よ、よろしくお願いします」
クセの強い人きたなと思いながらも顔面に笑顔を貼り付ける。そこにシエルがやってきた。
「とりあえず、現状報告です。被害者は計8人。まずそこに1人、そこにあるエスカレーターの下に1人。この建物内にはこの2人で、他6人は違うエリアで発見されてます」
三人は真剣に話を聞いている。
「目撃者によると、犯人は単独で、身長170cmくらい、痩せ型で青いフードを被っています。通報からすぐに、近くにいた隊員がこの施設を取り囲みました。彼らによると、逃げ出した一般人の中に怪しい人はいないらしいです。犯人は今もモール内に潜伏中です」
「よぉーし。てことはこれからかくれんぼの時間って事だよねぇ? 鬼は見つけたらすぐ破壊していいのぉ? シエルちゃん」
「はい。指揮官からは見つけ次第すぐに破壊せよと命令が出されています。恐らく犯人は8人のコアメモリを所持しています。一刻も早く取り返しましょう」
シエルが報告を終えると、リオが話す。
「ここ最近コアメモリの盗難被害が増加している。もしかしたらあいつの仕業かもしれない」
ヒツヤは首を傾げてリオに聞く。
「あいつって?」
リオが口を開けると、ナユタが低い声で話す。さっきまでやる気なさそうな口調だったくせに急に真剣に語り出したのだ。
「カルネアのことさぁ。そいつはこれまで幾度となくコアメモリを盗んできた有名人さ」
ヒツヤは息を呑む。
「そんなにやばい奴がいるかもしれないんですか?」
「ああそうだぁ。だが我々は一度も奴を捕まえられたことはない。毎回姿が異なっているからだ。」
ナユタが目を細めながら話していると、アークが切り出す。
「だからその殺人鬼とこれからかくれんぼをするんだ。手分けして探そう。まず、それぞれの位置をコアメモリで共有。もし誰かが意図しない位置から反響があればすぐに知らせてくれ。ヒツヤ、悪いが今回の相手は強敵だ。ここで待機していてくれ」
ヒツヤは少し拳を握る。
(しょうがないよね...私、まだ経験少ない上にコアメモリも、反響しないから索敵できないし)
「わかりました」
「ごめんねヒツヤ、また今度一緒に頑張ろ」
シエルは優しく背中に手を当てる。ヒツヤは笑顔のシエルを見て無言で頭を撫でる。少し嫌そうな顔を見せたが構わず続けた。
「さあ、早速施設内を探すぞ。ナユタ、コガヤシの奴らにも作戦を伝えておいてくれ!」
リオが大きな声で先導すると、それぞれ走り出していく。
ヒツヤはemergencyと表示されているホログラム看板を見つめる。
こうして、実質ショッピングモールを貸し切ってのガチかくれんぼが開幕する。




