第6話 役に立つために
「では早速始めましょう。まずは現状を知りましょう。ヒツヤ、その場で思いっきりジャンプしてみて」
リオに言われるがまま、ヒツヤは大きく膝を曲げ、全力でジャンプする。
「どう...ですか?」
ヒツヤは不安げな声で言う。
「んー...大体3mか。逆立ちで跳べる」
「ですよねー...」
アークは腕を組みながらそう答える。シエルはヒツヤのもとに駆けつけ、肩に手を添えて言った。
「大丈夫。まだまだ力が足りないけど、そのうちもっと高く飛べる方法をコアメモリはちゃんと見つけてくれるよ!」
「ありがとう。3人とも、私、頑張るよっ!」
ヒツヤはもっと強くなりたいと心の中で叫ぶ。これまで世界のことを知りたいという思いを抱えてきたが、強くなるという明確な目的が決定した。こうしてヒツヤの身体能力向上トレーニングが始まった。
ヒツヤは壁を蹴って移動する練習を始める。最初は順調に跳べていたが、しばらくして、壁を蹴り飛ばそうとしたその時、突然足に力が入らなくなる。
「うわっ!」
ヒツヤは空中で体勢を崩し、尻もちをつく。
(体が、動かない...)
ヒツヤ仰向けに倒れ、手足が動かなくなる。
「誰か、助けて...」
ヒツヤが嘆いていると、突然口の中に透明な膜が張った球を入れられる。必死に噛み潰すと、水が口いっぱいに広かった。
「頑張っているようね。だいぶ高く飛べるようになったな」
リオは手を膝につき、上から覗き込む。
「なんですか、今の?」
ヒツヤはかすれた声を出す。
「水玉よ。あなた起きてから一度も水を飲んでなかったわね。私たちは水が原動力。飲み続けなきゃじきに動けなくなるわ。気をつけてね」
「わかりました。気をつけます...」
「でも、結構飛べるようになってきたわね」
「まだ7mぐらいですけどね」
ヒツヤは笑いながら答える。すると、いきなり雰囲気が変わり、リオは少し間を置いてゆっくり話し出す。
「ねえ、そういえば話してなかったわよね。この世界のしくみ」
ヒツヤは真剣な表情を作る。
「そうですね。教えてください」
リオはゆっくりと立ち上がり、腕を組みながら近くの壁に寄りかかった。
「この世界の住人は、みんな工場で産まれてくるの。私たちは最初はなんの記憶も持たず、ただ周りの人に合わせて生きていく。そうしていくうちに生活に慣れて、自我を持つようになる。これが私たち人間よ」
「工場……そんなものが」
「ええ。でもその工場は誰がいつ作ったのかは誰も知らないの。古代からずっと動き続けてる。現在は工場は都市が管理してるけど実は入口がなくてね。動いてる仕組みとか未だに黒いベールに包まれてるわ」
「不思議ですね。いつか見てみたいです」
そう言うとヒツヤは再び膝を曲げる。少し離れて話を聞いていたアークが、こちらの様子を伺いながら歩いてくる。
「少し前から思ってたんだが、ヒツヤの喋り方って少しみんなとは違うよな。誰が話しているかすぐに分かる。抑揚があるからか?」
アークはヒツヤのそばに座り込むと、ヒツヤは少し考える。
「特に意識している訳じゃないよ。でも、こんなふうに抑揚があると、相手が今どんな気分なのか感じ取れたり、なんかテンションが上がってくることがあって、会話が楽しくなるんだよね」
「ふーん。それは興味深いな。普段私たちは声を出さずに意思疎通をするが、ヒツヤ、お前と話す時はそれとは全然違う」
アークはあぐらをかきながら、両手を後ろにつく。
「それは同感だ。声に出すと自分自身が何を思って話しているかが改めて感じ取れる。」
次の日も、ヒツヤは必死にトレーニングをする。訓練場の壁に向かって飛ぶと、壁面を走って移動する。
「よし。随分動けるようになってきたそ!」
その途端にヒツヤは片足を滑らし、背中から地面に落ちる。
「うわーっ!」
大きな音が訓練場に響く。ヒツヤは両手を後ろにつきながら起き上がる。目の前にはシエルがしゃがみ込んでこちらを見つめる。
「だいぶ機動力は上がるようになってきたけどまだ足りないね。そのままじゃ強い敵と戦うことになった時は一方的にやられちゃうよ」
ヒツヤは座ったまま体を前に傾けて下を向く。
(もっと頑張らないとまた何も出来ずに終わってしまう。もっとこの人達に貢献したい...)
それから約一週間ヒツヤはトレーニングを積み、目覚めてから約二週間が経過した。
「はいこれ」
トレーニングを終え、座って休憩していたヒツヤのもとにシエルが近寄る。手には周りは黒く縁取られ、刃の部分が青白く光っているくないを持っている。シエルはヒツヤにくないを向ける。
「これは...」
ヒツヤは両手で受け取る。
(アークが使っていたやつだ)
ヒツヤはこの前の事を思い出す。
「これはミラージュブレイド。握って刃全体に高電圧を流して使うわ。見て」
シエルはミラージュブレイドを握ると、刃が青白く閃光する。
「私たちの体は特殊合金で構成されているけどこれを使えば簡単にダメージを入れることが出来る」
そう言うとシエルはスーツをたくしあげ、ベルトの両腰の辺りに装着されているミラージュブレイドを見せる。
「かっこいい〜! 何か技名とかあるの?」
ヒツヤは目をキラキラさせ、顔をシエルに近づける。
「技名? そんなのあるわけないでしょ」
「え〜……じゃあ作ろうよ! どんな名前にしようかな〜。スーパーウルトラトルネードアタック……」
ヒツヤはミラージュブレイドを振り回しながら技名を考え始める。
「幻影旋刃……とか...」
アークが後ろから照れくさそうに話しかける。
「え、これマジで考える流れ?」
「双影連閃。こっちの方がかっこいい」
リオが2階の柵を飛び越えながら叫ぶ。
「いや、幻影旋刃の方がいいだろう」
「何をいっている。幻影旋刃はちょっと幼い名前だな」
リオは少し嘲笑うように言う。
「どっちもどっちだろうが...」
アークが小声で言う。
「シエルはどんな名前がいい?」
ヒツヤは笑顔でシエルに聞く。
「え、私? うーん...」
シエルは顎に指を当てて考える。
「ルミナスブレイク...」
「ルミナス...ブレイク? かっこいいじゃん!」
シエルはヒツヤにキラキラとした目で見つめられる。シエルは少し目を逸らした。
「ちょっと、言い直さないでよ。恥ずか...」
突然、シエルは真剣な表情になる。するとリオが口を開く。
「ヒツヤ、任務だ。ちゃんとついて来いよ」
「え!?」
驚いたヒツヤの肩に、アークが手を置く。
「今度はシエルの助けを借りずについてこれるかな? 言っておくが、シエルはエンテレキアの中でもトップクラスの機動力なんだぞ」
「が、頑張ります!」
(私には少し機動力が身についてきたはず...)
そうして4人は再び新たな事件に向けて走り出す。




