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旧プロトコルの同行者  作者: 八四一 十々
第1章 最初の人間
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第5話 入隊

エンテレキアに帰還すると、リオはヒツヤの顔色を伺っていた。そこにアークがヒツヤに話しかける。


「そんなにあの時のことが気になるのか。何がそんなに引っかかるんだ?」


ヒツヤは下を向いたまま質問を投げ返す。


「なんででしょう。説明できません。ただもし、リオさんやシエルの知っている人が同じように罪を犯しても同じことをするのかなと」


ヒツヤは話し終えてからすぐ、自分がいかに冷徹で低い声で言っていたのかがわかり、少し自分が怖くなっていた。するとアークはワンテンポ置いて答える。


「当たり前だ」


驚きもしなかった。想定していた返事と同じだったからだ。怖いというよりかはなんだか悲しかった。


「でも……」


アークはなにか言おうとしたが、喉もとで突っかかった言葉を出せず、ただ真顔で下を向いていた。


「なんでもない」


顔を上に上げながらアークはそう言い立ち去った。


自室に移動したヒツヤはベッドに寄りかかりながら今日の出来事について考えた。


「私、おかしいのかな?」


そう言いながら横になると、扉をノックする音が聞こえた。ヒツヤは声を出さず、少し体を起き上がらせて、ただ扉の方を見つめていた。

ノックを終えてから少し間を置いたタイミングで、シエルがドアの隙間から顔を覗かせた。すると少しだけ目を伏せたまま口を開く。


「……少し、いいかな?」


ヒツヤは頷き、ベッドに体を預けたまま聞く姿勢を作る。ヒツヤ自室に誰かを招き入れるのは初めてだったので、多少新鮮味を感じる。


「コアメモリが盗まれるということは、単なる『事件』じゃない、もしかしたらそのコアを利用されて、取り返しのつかないことになるかもしれない。それに、奴が絡んでる可能性も……」


シエルは目を細め、少しだけ声のボリュームを下げる。


「あなたが言っていたこと、『殺す必要があったのか』――そんな事考えたこともなかった。正直、自分以外の事を考えるなんて無駄なことだと思ってたよ。でもあなたは違うんだね」


するとヒツヤはふっと息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。


(……シエルも、こうして感情を見せることがあるんだ)


その瞬間、これまで冷徹に見えていたシエルの表情に、小さな温かさを感じた。

今までは人の形をしたロボットのように感じていたといっても過言では無い。それに比べて、今はまるで一時的に面倒を見てあげている迷子の子供みたいだ。


「シエルの言っていることの方が論理的で筋が通っていると思うわ。私は感情に意見を任せすぎてるのかも」


ヒツヤの言葉は、少しも揺らいでいなかった。

シエルは頷き、そっとヒツヤの肩に手を置いた。


「論理的ね。でもあなたの意見は芸術的だと思うな。目に見えない美しさとでも言うのかな」


ヒツヤはシエルの言葉を胸に、静かに目を閉じる。すると突然、自身のコアメモリが共鳴するかのように、心の中から声が聞こえてきた。


「……る……..あなたが正し……思うことを信……きなさい……」


懐かしい声……次第にヒツヤの心は落ち着きを取り戻し、ゆっくり口を開く。


「ありがとう」


ヒツヤは自分の声が少しだけ震えていた事に気づく。シエルは少し口を開き、ほんの一瞬だけ目を伏せて、言葉を探すようにした。


「お礼を言いたいのはこっちだよ。少しだけだけど、あなたの事、わかった気がする」


シエルは少し笑ったように見えた。

それを見たヒツヤは感じる。初めて会った時から姿かたちは何一つ変わっていないのに、別人と話しているように。


「それに実は、思いついたの。コアメモリを狙わなくたって、首を切断すれば戦闘不能にできるんじゃないかって」


シエルは話を聞いて笑いだした。


「確かに。それなら後から簡単にコアメモリを回収できるね」


二人は友達とじゃれ合うように、それから何分も話していた。


翌日、ヒツヤはリオのもとに向かおうとする。


「リオさん、どこにいるのかな?」


灰色の壁が続く廊下を一人で歩く。自分の靴と地面の金属が当たって鳴り、辺りに足音が反響する。


「建物内は凄く複雑だな。迷子になりそう」


すると突然、奥からリオの声が聞こえてくる。ヒツヤは声が聞こえる扉の前まで進み、そっと耳を当てようとした。その瞬間、突然扉がスライドする。そこには、アークよりかは小柄だが、イケおじという言葉がピッタリな人が立っていた。


「君は……」


思ったよりも低い声で話しかけられたヒツヤは、言葉を遮るように話す。


「あ、いや、ごめんなさい。なんでもないです」


ヒツヤはぎこちない礼をしながら話す。すると突然男はゆっくり喋りだした。


「ほう。言葉を話さないと会話できない人間とは君のことだね」


「え、私を知っているんですか?」


「もちろんだ。私の名はレオン。ここエンテレキアの隊員の指揮をしている者だ」


背の高い偉そうなおじさんが後ろに手を組み、ヒツヤを見下ろす。それはまるでロボットのように声色を変えずに喋る。


「にしても本当に不思議な子だな。扉を開けるまで君の存在に気づかなかった。面白い。確か君は廃墟でリオ達が見つけた子なんだろう」


「はい。私はそのリオさんと話が……」


「私がどうかしたのか?」


レオンの背後からリオが姿を現す。ヒツヤは意を決して拳を握る。


「あ、あの、私...エンテレキアに入りたいんです!」


およそ3秒間の沈黙。ヒツヤの体感では約10秒間無音が続いた。


「そう。その事なんだけど、もう登録してあるわ」


「え!?」


ずっと息を止めてたのかと思われるほど、勢いのある返事をすると、レオンが口を開く。


「入隊させたいと言っていたのはこの子だったのか」


「はい。そうです。ヒツヤはコアメモリが共鳴しなく、相手に居場所がバレません。戦闘においても機転が効きます。訓練を積めば確実に成長できるでしょう。しかし、共鳴しないので覚醒できるかは不安ですが」


リオは相変わらず無機質にレオンに話す。そしてヒツヤの方を向き、軽く頷く。ヒツヤもリオを見つめながら、深く礼をした。


「ありがとうございます」


ヒツヤはそう言うと、レオンはゆっくりとその場立ち去る。


「あなたにもスーツを渡さなきゃね」


リオはそう言うとヒツヤを違う部屋へ案内した。そこには数え切れない数の黒いスーツが、小さいサイズから大きいものまでずらりと並べられていた。

ヒツヤは部屋中にかけられたスーツを見て目を輝かせる。


「みんなとお揃いになれるんですね!この縁取られた青い線がユニークです」


ヒツヤは興奮した子供みたいに服に指を刺す。


「この紋章はなんですか?」


「これはここ、カゴエ地区の区章よ。あなたの体格だと、このくらいかな?」


リオはヒツヤの体に黒いスーツを当てる。


「うん。ちょうどいいね」


そう言ってリオはヒツヤにスーツを渡す。受け取ったヒツヤはスーツに着替えた。


「似合ってますか?」


「ああ。似合っているよ。ベルトはしっかり閉めてね」


ヒツヤが鏡に映った自分を眺めていると、部屋にシエルとアークがやってきた。


「あ、もう着させてるんだ。私も呼んでよ。」


シエルはそう言いながらヒツヤに近寄って姿を眺める。


アークは扉の前で立ち尽くし、ゆっくりと話す。


「なあヒツヤ、昨日俺に言ったこと、覚えているか?」


「うん。覚えてるよ」


「俺は、『当たり前だ』といった。その時は確かにそう思っていた。けど……今になって思う。あれは嘘だ。悪かった」


「いいよ全然。気にしてないから」


ヒツヤの笑顔を見たアークは落ち着いたような顔をし、少し口角を上げる。シエルはなんのことかアークに尋ねるが、アークは真顔に戻り、なんでもないと答える。


「そういえば昨日のヒツヤの質問に答えてなかったね」


シエルは突然ヒツヤに語りかける。


「私たちはなんであんなに身体能力が高いのか。別に高いわけじゃない。実は、みんなできることなんだよ」


「え、それはどういう...」


ヒツヤは袖に手を通してシエルの方を向く。


「あなたの体だって、練習すればあんな風に動けるようになるよ。ただ、その体動かし方をあなたのコアメモリはまだ知らないだけ」


すると壁に寄りかかりながらリオが話す。


「そうよ。だからこれからあなたには身体能力を向上させるための訓練を受けてもらうわ」


そうしてヒツヤはスーツを着たまま、遮蔽物が迷路のようにある訓練場へと向かった。

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