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旧プロトコルの同行者  作者: 八四一 十々
第1章 最初の人間
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第3話 ハイリスク

開始の合図と同時に、アークとシエルは迷路のような足場を駆け抜けた。

金属の衝突音、靴底の摩擦音が訓練場に響き渡る。


ヒツヤは遮蔽物に身を隠し、体勢を整える。

――奇妙な静けさが、自身の周囲に広がっている気がした。


「やはりな……位置が掴めない」

 

アークの低い声が場内に響く。


「確認しました。やはり共鳴波が感知出来ません」


上から観戦しているリオは腕を組んだまま、わずかに顎を引いた。

 

「間違いないわね。ヒツヤのコアは反応していない」


ヒツヤは遮蔽物の裏側に座り込み、おかれた現状とこれまでの出来事を考えた。


(どうしよう……二人相手に叶うわけないじゃん!いや大丈夫、落ち着いて私。今までの記憶から何か手がかりになるものを探そう。そういえば私が箱の中から出たあの時、何か引っかかったような...)

 

アークは遮蔽物の上に跳び上がり、冷静に言葉を継ぐ。


「相互感知が成立しない……特殊個体。一体あの子は何者だ?」


ヒツヤは遮蔽物から少し顔を出す。


(共鳴波、共鳴すると位置がバレるってことはわかったけど、それってもしかして相手と意思疎通も出来たりするのかな。そういえばあの人たちと出会ってから何度も近づいた場面はあったけど、共鳴波なんて感じなかった。もしかすると……)


ヒツヤはピリついた空気の中、自身のコアメモリを撫で下ろして何かを思いつく。そして遮蔽物の陰から身を乗り出して、足音が最後に聞こえた位置へ駆け出す。

すると、ヒツヤは遮蔽物の後ろに隠れているシエルの背中を目に捉える。ヒツヤには気づいていないようだった。しかし、シエルに向かって足を踏み出した途端、後ろに目が付いているかのごとく、シエルは素早く振り返ってヒツヤを凝視する。


(まずい……完全にバレた。でも大丈夫、この秘策は通じるはず……)


「無作為に突っ込んできたね」


シエルは余裕そうに話している。ヒツヤは勢いのままシエルの腹に目掛けて飛び込んだ。ところが、その直前にシエルはその場を飛び跳ね、ヒツヤの目の前から姿を消した。


「……遅い」


ヒツヤが後ろを振り返るより早く、シエルの手は背後から腹部に向かって手が伸びていた。


「っ――!」


ヒツヤは咄嗟に手を避けるが、後ろに体勢を崩してその場に倒れてしまう。シエルは勢いを止めずにすかさず手を伸ばす。その瞬間、


「え!?」


ヒツヤの服をたくしあげたシエルは驚いた表情を見せる。ヒツヤの腹にコアメモリがなかったのだ。シエルが唖然としているその隙に、ヒツヤは咄嗟にシエルの服をめくってコアメモリを抜き取った。


「と、とれた……シエルのコアメモリ!」


ヒツヤは大きく息をつきながら安堵している。


「なるほど。自分のコアメモリをどこかに隠してきたのね。これなら取られる心配はない。やってくれたわね。本来なら今すぐ取り返さないとだけど、まあいいわ。」


シエルは淡々と話している。ヒツヤはシエルのコアメモリを手に持つ。幼稚園児が道端に落ちていた真ん丸の石を拾い上げた時のように立ち尽くしていた。

すると突然大きな足音がこちらに近づいてくる。


一気に緊張感が駆け巡る。ヒツヤは咄嗟に足音のする方へ目を向けると次の瞬間、正面の遮蔽物を突き破ってきたアークに殴られ、後方に飛ばされる。


「っ……!」


ヒツヤは何が起こったのか理解できず、ゆっくりとアークの方を見つめる。土煙の中に映し出された影はとても大きく見えた。ヒツヤは声も出なかった。


反動に耐えながらもヒツヤはすぐに起き上がり、近くの遮蔽物へと隠れる。


「いくらシエルが油断していたとはいえ、なかなかやるな」


土煙の中から現れたアークは、まるで土煙が分かれて道を作っているようだった。アークは堂々と歩きながら話す。


「自分のコアメモリをどこかに隠しておくとは考えたな。だが、それは悪手に見えるぞ。そういえば教えてなかったな。コアメモリは約3分間外すことが出来る。しかしそれ以上戻さずにいると、徐々に意識が朦朧としていき、最終的に完全に意識がとだえる。何が言いたいかわかるか?」


アークは辺りの遮蔽物を片っ端から殴り壊し始める。


(コアメモリを一体どこに隠した……)


無我夢中で遮蔽物を破壊して回ると、アークは瓦礫の中から光るものを発見する。

急いで駆けつけて瓦礫をどかし、それを拾い上げた。


「残念だったな……訓練終了だ」


アークは見つけたコアメモリを上に掲げながら低い声で言う。


「終わったの?」


シエルがゆっくりとアークに近づく。


「ああ。この訓練、正直すぐに終わると思っていたが、ヒツヤ...意外と機転の利く行動をしていた。驚いた。それに比べてシエル、お前は油断しすぎだ。」


「...そうね」


シエルはアークを真っ直ぐ見つめる。


「さあヒツヤ、終わりだ。お前のコアメモリを回収した。訓練は終了だ」


アークは辺りを見渡しながらヒツヤを呼ぶが、彼女の姿は見当たらない。するとシエルはアークに寄りながら話しかける。


「ところで、あなたのコアメモリはとられてない? 大丈夫?」


シエルはそう言いながらアークの服の下を確認する。アークは首を傾げる。


「何言っているんだ? 取られているわけないだろう。それにヒツヤはいつまで隠れているんだ。さっきの説明聞いてなかったのか?全く、どこかで倒れてるな」


「ええ。先程私がコアメモリを取られたところで倒れてますよ」


「やっぱりか。いや、何故そこだ?」


アークはヒツヤの方へ向かおうとする。すると、シエルがコアメモリを手に持っているのを目にする。


「それは誰のコアメモリだ?ヒツヤから自分のコアメモリを回収したのか?」


アークは不思議そうに尋ねる。するとシエルは服をたくし上げて話した。


「私のはここにありますよ。これはあなたのコアメモリです」


「何言って……」


アークは困惑する。


「ーー訓練終了」


アークは立ち尽くしながら手に持っているコアメモリを眺める。そこに腕を組みながらリオが歩いてきた。


「ヒツヤ、よく頑張ったね」


そうシエルに投げかけると、シエルは大きく息をつきながら、その場に座り込む。


「上手くいって良かった〜」


アークは座り込んだシエルを見ながら、アークは服をたくしあげ、自分の腹部を確認する。


「ほう。私が遮蔽物を壊している時、ヒツヤはこっそり自身のコアメモリとシエルのコアメモリを入れ変えていたのか。その後シエルに自身のコアメモリをはめたと。何故他人にコアメモリを入れられる事を知っていた……」


ヒツヤは腹部に手を当て、微かに下を向く。


「勘でした。一か八かの賭けですよ」


笑顔で答えた。

そうして、3人はそれぞれのコアメモリをもとに戻した。


「急にコアメモリを入れてきたらびっくりしたよ。さすがねヒツヤ」


シエルはヒツヤの目を真っ直ぐ見つめている。


「今回かなり危険なやり方だったわね。自分の命であるコアメモリをどこかに置いておくなんて、訓練じゃなかったら大変なことになっていたかもしれないわよ。」


リオはヒツヤの肩に手を置いて話す。


「コアメモリは、あなたの命なのよ。これからは大事にしなさいね」


リオはじっとヒツヤを見つめている。恐らくヒツヤの事を思い心配してくれたのだろう。そんなリオの内面を感じ取ったヒツヤはそっと笑顔を見せた。


その瞬間、リオとアークとシエルは何かを感じ取ったように表情を変え、突然3人は走り出した。


ヒツヤは瞬時に状況を推測する。


(……訓練じゃない。何かあったんだ……!)


思わず声を上げた。


「私も連れて行ってください!」


リオは振り返り、冷静な声で応答した。

 

「……了解。付いて来なさい。私たちから離れないこと」


ヒツヤは左腹のコアがしっかりあるかを確認し、あとを追いかけた。金属の床を蹴る衝撃が体を通して伝わる。遠くに見えるリオたちの機動速度は圧倒的だった。


(この世界についてもっと知りたい!)


ヒツヤは自分の体の可能性を確かめながら、未知の任務の最前線へと向かう――。

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