第21話 悪夢
ヒツヤは自室のベッドの上で横になりながら今日を振り返っていた。そこへシエルがやってきた。スーツ姿でトレーニングをしていたようだ。
「あれ、シエル、トレーニングをしてたんじゃないの?」
ヒツヤは質問する。
「ちょっといいかな」
シエルはニヤッとした。気がつくとシエルはヒツヤの手を引っ張り、部屋から連れ出していた。
「どうしたの。私スーツきてないし一緒にトレーニングはできないよ」
するとシエルは無言のままエンテレキアを飛び出す。
「ちょっと、どこ行くの?」
ヒツヤは戸惑いながら尋ねるも、シエルは相変わらず何も答えない。やがて2人は人気の少ない公園にやってきた。いくつかの街頭が公園を照らし、ところどころが明るい。シエルは芝生の上でようやく止まった。
「シエル、どうしたの?なんだか怖いよ...」
ヒツヤは不安な表情を見せると、シエルはやっと口を開いた。
「ごめんね、いきなりここに連れてきて。ちょっとヒツヤに用があって...」
シエルはヒツヤの手を離さないまま不審な笑みを浮かべている。
「用って...?」
ヒツヤは少し後ずさりしながら用を尋ねる。
「人間だった頃……覚えてる?」
あまりにも不気味なトーンで喋り、ヒツヤを見つめている。すると、突然シエルはミラージュブレイドをヒツヤに向かって振りかざしたのだ。
「……っ!」
気づいたヒツヤは咄嗟に両手を前に出す。その瞬間、
「カンッ!」
誰かがその場に乱入し、シエルの持っていたミラージュブレイドを跳ね飛ばした。シエルは舌打ちし、ゆっくりと振り返る。
「鬱陶しい……本当に覚醒者というものは」
「シエルを解放してもらおうか。」
そこにはスーツを着たリオが少し怒った表情をしていた。
「リオさん!」
ヒツヤは少し気が抜けた。
「操られてることは百も承知か。もう僕が誰だかわかるよね」
シエルは不気味な笑い方をした。
「カルネア...!」
ヒツヤは低い声でカルネアの名前を叫ぶ。夜風が辺りの草木を揺らしている。
(この声が聞こえた者へ。今すぐ公園から離れよ。繰り返す。今すぐ公園から離れよ)
リオは周りに共鳴波を出した。途端にサイレンが鳴り響く。
「あーあ。通報されちゃった。早く終わらせないとねー」
カルネアはリオに向かって勢いよく飛び出す。空気が裂かれるような音がする。リオは刃が当たる寸前で回避し、後方に跳びながら距離を取る。
(コイツ、速い...シエルの俊敏さを利用されている...行動は読めるが身体が追いつかない...)
カルネアは連続で攻撃を仕掛ける。リオは反撃出来ず、受けにまわることしかできない。
「大丈夫か、リオ、アーク、シエル!」
アークがヒツヤの前に着地する。ヒツヤはアークに必死に訴えた。
「アーク!シエルがカルネアに操られてる!」
「落ち着け。俺たちが必ず解放する。」
アークが飛び出すと、カルネアは背後から攻撃が迫っていること気づき、空中に身を躱す。
「なんで追ってくるんだ?隊員の一人や二人、放っておけば良いものを。仕方ない……」
カルネアはダルそうに話す。
「潔くその子のコアメモリを渡せば、この子を解放しよう。でなければこのコアメモリを破壊する」
無表情でコアメモリを手で撫で回す。
「まあ、簡単には解放してくれないよな」
リオは頭を回転させる。その時、
「覚醒者は厄介だな。じゃあ、もし次に動いたらこのコアメモリを壊す。それが嫌ならそこを動くな」
「リオさん!」
ヒツヤは焦ったように叫んだ。その時には既にカルネアは飛び出していた。操られたシエルのミラージュブレイドがリオに向かっている。
「クソっ...どうすれば...」
リオは迷い、その場で動けなくなってしまう。刃がリオに刺さりかけた、その時...
「……っ!」
切られたスーツの布が宙に浮く。
アークがリオを庇ったのだ。
「アーク、なんで...」
リオは恐る恐るアークの左腹を見た。
瞬間、言葉が出なくなってしまった。
「そん……な」
ヒツヤの目に、その光景が焼き付いた。体のそこから怒りが煮えくり返り、同時に胸の奥が苦しくなって声がでなくなる。
「はぁ...はぁ...」
自身の呼吸音が鮮明に聞こえる。そのままヒツヤの体は無意識に動き出し、武器もない、無防備の状態でカルネアへと突っ走る。
「やめろ、ヒツヤ。装備をしていないお前じゃどうにもならない。もういいんだ」
冷静に話すアーク。ゆっくりと立ち上がるリオ。その空間は絶望的だった。カルネアはゆっくりと刃を引き抜いた。
「まさか、庇うなんて……こんなの……ありえないだろ」
カルネアは力の入らなくなったアークを見つめている。月明かりが差し込み、公園全体を照らしている。
「ヒツヤ、動くな。お前は狙われてる。こいつは私が何とかする。」
明らかに動揺したリオの声。
ヒツヤは高まった感情を抑えて立ち止まった。リオは冷静に構えつつも、目からは涙が溢れていた。そんな姿を見てカルネアは話す。
「ああ、やっぱりだ。君たちはまだ未完成だ。」
「……黙れ」
リオはカルネアの話を遮るように飛び出し、カルネアに向かっていった。その瞬間、カルネアの様子が一変する。
「どうしたの...やめてよ、リオ。そんな怖い顔しないでよ...」
シエルは泣きそうな顔でリオを見つめた。リオは目を大きくし、その愛らしい顔を見つめた。手を止める。
(違う……これはシエルじゃない……でも……)
(この顔は……)
リオは悟った。こいつは人間では無いと。
グサッ!
気づいた時には、既にコアメモリを貫通していた。
「なんでだろうな。今までの私ならどうってこと無かったはずなのに、何を躊躇っているんだ...」
刺されながらリオは武器を落とした。
「リオ...さん」
リオは刺されながらも優しくシエルに抱きついた。
「もう一度君と話したいな。でも、もう無理か。」
その目からは涙が流れていた。
その時、シエルの目は少しだけ見開いたように見えた。
「ああ、残念だったな」
シエルはミラージュブレイドの刃をリオの首に当てる。
「みんな……ごめん」
その刃は、音を立てずに切断した。
「隊長!」
ドサッ。
リオは地面に倒れ込む。微動だにしなくなった。シエルはゆっくりと辺りを見渡し、ヒツヤの元へゆっくりと向かう。
「はぁ、はぁ」
動悸が酷い。シエルの姿はまるで別人のように見えた。その時、
「……!」
アークがヒツヤの前に立つ。
「アーク……もう……」
「ヒツヤ、ありがとな」
アークは振り返らずに話し続ける。
「今までこの仕事に楽しさなんて感じなかった。けど、ヒツヤ、君が来てからなんだか楽しくて仕方がなくてな。」
アークはの声は笑っていた。ヒツヤの視界が滲む。
「お話は済んだのかな。」
「ああ、言いたいことは言えたしな。悔いは無い。」
「そうか、じゃあな」
その瞬間、カルネアの斬撃はアークの首を跳ね飛ばした。オレンジ色の切断面は、徐々に冷めるようにもとの色に戻っていく。アークの首は高く飛び、地面に転がる。最後までその目はヒツヤを見ていた。
頭はヒツヤの足元へと転がっていく。彼女の目に、その光景が焼き付いた。さっきまで話していたアークの顔は無表情だった。まるで魂がこもってないかのように。
「……」
声が出ない。叫びたいのに、喉が動かない。足も、指も、何一つ動かない。恐怖と憎悪が同時にヒツヤを襲っていたのだ。
「よし、やっと本命だ」
カルネアがヒツヤのもとへ歩き寄る。




