第2話 コアメモリ
ガラス張りのドーム型施設の中は、整然と並ぶ機械や装置、無数の光に満ちている。
無機質な光がまるで生き物のように脈打ち、少女は思わず息を呑む。
「ようこそ。エンテレキア、カゴエ地区へ。ここは街で起きた事件や事故を解決したりして都市の平和を保っている施設よ。私はこの3人のリーダー、リオ。そこのイカついのがアーク、さっきまでいた白髪の子はシエルよ」
「すまない。さっきは警戒して敵意を向けてしまった。アークだ。よろしく」
リオとアークが優しく少女に話しかけたが、彼らは終始真顔で話し、抑揚なく感じる。すると同じような口調でリオが言う。
「まずあなたの名前は?」
「ごめんなさい。わかりません」
リオの表情は変わらない。なら私たちで名前を付けようとアークが切り出す。
「『ヒツヤ』とかどう?」
部屋から出てきたシエルの高い声が響いた。
「なんで『ヒツヤ』なんだ?」
アークが尋ねると。シエルは言う。
「別に適当。見つけた場所の名前から取っただけ」
「あなたはそれでもいい?」
リオは少しかがみながら少女の目を見て話している。適当すぎではないか。ヒツヤは心の中でツッコミを入れる。
「は、はい。構いません。」
ヒツヤは3人に対して無機質に感じていたが、この時のリオを見てほんの少し心が落ち着いた。そんな中、シエルがヒツヤの傍に寄りながら質問する。
「ところで、あなたの製造番号は?」
なんのことだろうと思い、ヒツヤはすぐに聞き返した。
「製造番号ってなんですか?」
3人は少し驚いた表情を見せ、シエルが私の首元を確認した。
「無い……! 番号が!」
シエルは若干驚いた口調で喋りつつも表情を変えずにいた。おそらく製造番号とやらはないとまずいものなのだろう。ヒツヤは番号について冷静に聞くと、リオが答えてくれた。
「よく聞いて。みんなの首にある番号、これを消したり偽装したりするのは大罪、極刑よ」
リオはヒツヤの目を真っ直ぐ見つめる。ヒツヤは真剣な表情で息を呑む。
「もし見つかれば人間として扱われなくなってしまうわ」
「でも……私」
「大丈夫よ。貴方が意図的に消したわけでないのはわかってる。来て」
ヒツヤはリオに連れられ別室に連れてかれると、大きな機械の前に置かれている椅子に座らされた。椅子についた輪っかにちょうどヒツヤの首が通る。まるで拷問器具みたいな形から、ヒツヤは少し不安を募らせる。少しして、機械音が鳴りはじめた。ヒツヤの背後から機械が飛び出し、ヒツヤの首に押し当てると、「29970921-XIII」という数字を印字した。
「終了。さあ立って。これであなたも人間よ」
「あ、ありがとうございます」
(人間……)
ヒツヤは違和感を覚えた。地味に暖かかくなっている首を触りながら、その漢字2文字を頭の中で反復する。
その後、ヒツヤは部屋に案内される。リオは無機質に言う。
「この部屋、誰も使ってないから好きに使っていいわよ」
そういってリオが部屋から出ると、ヒツヤは壁際にあるベッドを見つける。すると、体が無意識にベッドに吸い込まれるように倒れ込んだ。ヒツヤは疲れていた。
(私って...誰なの?)
ヒツヤは天井の一点を見つめながら漠然と自身に問いかける。全身を脱力し、部屋には静寂が広がっている。ヒツヤは起き上がる気にはなれないまま数時間が過ぎた。
翌日、一睡もせず朝を迎えると、ヒツヤは部屋から出て施設をさまよい始めた。金属音の足音を聞きながら廊下を歩いていると、遠くから聞き慣れない衝撃音が響いた。
気になって足を運ぶと、そこには開けた空間があり、アークとシエルが模擬戦をしていた。
「……!」
2人の動きは人間の目では追えないほど速く、機械音と衝突音が辺りに響き渡る。
ヒツヤは息を呑み、その光景に吸い寄せられるように立ち尽くしていた。
「見学か?」
汗ひとつかかずに振り返ったアークが、真顔のまま声を投げてきた。
「おまえもやってみるか?」
「えっ……?」
とっさに否定しようとしたが、なぜか心臓が早鐘を打ち始める。
自分の体がどう動けるのか、確かめてみたい――そんな衝動が湧いてきたのだ。
するとリオが後ろから歩み寄り、落ち着いた声で言った。
「自分の事を知るいい機会だわ。やってみるといい」
こうしてヒツヤは、初めて彼らの訓練に加わることになった――。
施設の中央にある広い訓練場。壁面には複雑な足場や遮蔽物が組まれ、まるで迷路のように入り組んでいた。
「今日は基礎訓練をやってもらうわ。2人とも相手をしてあげてちょうだい」
リオが、無機質な声で場を見渡しながら言った。ヒツヤは驚きながら振り返る。
「え、2人を相手に!?」
「勝てなくてもいいのよ。あなたの力を試すだけ。不利な状況こそ最大限の力を発揮しやすいのよ。ルールは単純。互いの左腹辺りにあるコアメモリを奪い合うこと。制限時間までに相手のを取れば勝ち」
「コアメモリ……?」
ヒツヤはキョトンとした。するとリオの言葉に合わせ、アークが小さな四角い装置を掲げて見せる。
「これだ。俺たちのコアメモリは微弱な共鳴波を出している。近づけば互いの位置がおおよそ分かるようになっているんだ。ヒツヤも確認してみな」
ヒツヤはあまり意味を理解できないまま、そっと左腹に手を当てる。指先に硬い感触があった。服をめくって確認すると、そこには小さな装置が体に埋め込まれるように存在している。
「……え?」
戸惑いが口から漏れる。こんなもの、自分の体にあるなんて知らなかった……驚きつつも、ヒツヤはコアメモリを見つめながら拳を強く握る。
「……分かりました。やってみます」
リオは小さく頷き、開始の合図を告げる。
「――訓練開始」




