第18話 みんなとは違う
「断定は出来ないが、状況から判断するにカルネアが関わっている可能性がある。この事を受けて今回の試合はもう中止となったんだ。もしかしたら奴は近くにいるかもしれない、とね」
リオは落ち着いて話していると、ヒツヤは、ショッピングモールでの出来事を思い出す。
目の前で被害者のコアメモリが刺される情景、破壊音、頭の中に鮮明に蘇る。そんな中、アークが口を開く。
「ショッピングモールで奴が言ってたことを既に指揮官には報告している。ヒツヤのコアメモリが狙われているとは知っていたが、こうも早く行動してくるとは思わなかったと言っていた。だからヒツヤは当分守られる事になるだろうな。奴の能力やヒツヤのコアメモリを狙う目的がはっきりしない今、安易にヒツヤを単独にするとは危険と判断するだろう」
ヒツヤはアークの話を静かに聞き、同時にカルネアに対する怒りを感じる。何故人々のコアメモリを盗んでいるのか、何故人々を殺して何も感じないのか、わからないことだらけで混乱する。
しかしそんな中、リオは優しくヒツヤに話しかけた。
「大丈夫よ。考え方を変えれば、これまで数百年間捕まえられずにいるカルネアが大きく動き出した、これは今後二度とないかもしれないチャンスよ。」
リオに続いてアークも熱く話す。
「ああ。まさに俺たちは歴史の転換点に立たされている。」
ヒツヤはその瞬間、遠い昔の記憶が蘇る。
「君に...この世界の未来を託したい……どうか...未来まで……届いて...」
それは聞いた事のない声だった。その目は真っ直ぐとこちらを見つめて私の手を握っていた。ヒツヤは不思議な感覚に襲われながら、自分の手のひらを眺める。
「私って……」
ヒツヤは小さい声で呟いた。
「今日はもう休め。水分補給も忘れるなよ」
リオは優しい声で語りかける。
その横で、シエルは黙って下を見つめていた。
そうして、ヒツヤは自分自身について不思議な感覚を抱いたまま、その日は過ぎ去って行くのだった。
翌朝、ヒツヤはレオン指揮官に呼び出され、部屋へ向かっていた。
(やっぱり広いな。指揮官がいる部屋ってこの上かな?)
ヒツヤは大きなガラス階段を上り、大きな扉の前に立つ。
(ここ……だよね)
恐る恐るノックをすると、部屋の中からレオンの声が聞こえてきた。
「入っていいぞ」
「失礼します」
ヒツヤは大きな両扉を押して中に入る。そこには窓の方を向き、ヒツヤに背中を見せて立っているレオンがいた。
「お話とはなんでしょうか」
ヒツヤが問いかけると、少し間を開けてレオンが喋り出す。
「昨日はお疲れ様。いい試合だったよ」
「あ、いえ、ありがとうございます」
「もっと君たちの活躍を見たかったんだが、残念ながら中止になってしまったな」
「そうですね」
少しの間沈黙する。するとレオンは振り返り、真っ直ぐにヒツヤを見つめる
「昨日の事件はもう知っているね。」
その瞳には、こちらを注意深く警戒しているような、薄暗い色が見えた。
「はい。既に耳に入れています」
ヒツヤは俯いて答える。
「知っての通り、昨日カルネアが試合に紛れ込んでいた。普段私たちに尻尾を見せないよう警戒している奴が突如として大胆な行動をとってきた。」
レオンは窓ガラス越しに街中を見下ろしている。
「カルネアは以前、君と接触したね。その時から君は目をつけられているのかもしれない。君はみんなとは少し違うからね」
そう言ってレオンは大きい椅子に深々と座った。
「奴は人々のコアメモリを乗っ取り、意のままに操ることが出来る。条件や乗っ取ることの出来る時間などは不明。ただ、これまでの記録からすると、同時に複数人を操る事は出来ないと思われる。君は今狙われているから当分任務に参加させることは出来ない。だが私たちが必ず奴を倒す手がかりを見つけてみせる。これは一連の事件を終わらせるだけでは無い。この世界の真実を暴いてやるんだ...」
ヒツヤはただ黙っていた。黙っていることしか出来なかった。これはとてもスケールの大きい問題なのだと痛感していた。
「すまない。長話もここまでにしよう。私がいちばん伝えたかったのは、ゆっくり休んで欲しいということだ。話は以上だ」
ヒツヤは部屋からでると、ゆっくりと階段を降りる。
(私は一体なんなんだろう。なんで私はみんなみたいにコアメモリが共鳴しないの?私はみんなとは違うの?)
ヒツヤは考え込みながら頭の中が不安でいっぱいになっていた。
あれから1週間、カルネアによる事件はパタリとなくなり、試合の後から引きつっていた不穏な空気も少しずつ和らいでいた。ヒツヤは訓練場でトレーニングを終え、自室に戻っていた。すると突然後ろから誰かが抱きついた。
「...なに!?」
ヒツヤは戸惑いながらも後ろを見る。
「シエル...どうしたの突然」
静かに呟き、浮かない表情をする。シエルは抱きついたまま何も喋らない。
「シエル、本当にどうしたの。歩けないよ」
ヒツヤは明るく声をかけたが、シエルは抱きついたまま何も答えない。その沈黙に、何か普通ではない雰囲気を感じ取った。
「...シエル?」
ようやくシエルが口を開く。
「レオン指揮官から聞いたよ。もしかしたらヒツヤ、狙われてるかもしれない」
「あー、その事ね。私なら全然大丈夫だよ!心配しないで」
ヒツヤは元気な声で笑顔で答えた。
「大丈夫じゃないでしょ……あなたはついこの間この世界で目覚めて、何もわからないままエンテレキアに入って、カルネアに目をつけられてるかもしれない...心を休める暇がない...私だったら耐えられないよ...だから、辛くなったら私たちに伝えて。助けになるから...『私だけ他のみんなとは違う』なんて思わないでよ」
シエルは震えた声で話す。その瞬間、これまで心の奥底で張っていた1本の糸が切れたように、ヒツヤは膝から崩れ落ちる。そして静かに涙を流した。
「私は一体これからどうして生きていけばいいの?ねえシエル、教えてよぉ...」
シエルは額をヒツヤの背中に当てながら優しく抱きしめる。
「大丈夫よ、安心して。私たちがいつだって傍にいるわ。隊長の言ってた事、覚えてる?『お前はひとりじゃない。落ち着いて周りを見渡してみろ。私たちが隣に立っている』って。ヒツヤ、私たちを信じて...必ずあなたの事を守るわ」
その声はとても暖かく、優しい声だった。ヒツヤはしばらく、泣き続けることしか出来なかった。




