第17話 自分自身
(……っ!)
カナメはその場で体勢を崩して倒れ込む。
(足がっ!くっ、見えなかった...)
少しずつナユタの全身の力が抜けていく。ゆっくりバランスを失い、後ろにバタンと倒れる。
ヒツヤの体も意識を失って倒れていた。
(ナユタは……もう戦えないわよね)
シエルはナユタの顔を覗き込む。
どうやら意識を失っているようだった。
しかしその時、背後に気配を感じる。
斬撃が向かってきている事に気が付き、反射的に回避する。そこには、両足を失ったカナメが倒れながらミラージュブレイドを振っていた。
しかし、その力は弱々しく、力がこもっていない。
「あなた...オーセゴ地区にいた時より随分と変わったわね。こんなにも強くなって」
カナメは地べたに這いつくばりながら顔を伏せている。
「あなたも成長しているわ。誰とも協力する事を嫌っていたあなたが、あんなにも仲間と連携していたんだもの」
シエルはミラージュブレイドをしまい、真っ直ぐカナメを見つめる。
「シエル...私との約束覚えてる?オーセゴ地区のエンテレキアが解散する前、私は言った。『これから先、どっちがより多くの犯罪者を殺せるか勝負しよう』と。シエルはこれまで何人の人を殺してきたの?」
シエルは少しの間黙り込んだ。しかし、その顔に迷いは無かった。
「7人よ」
シエルは小さく呟いた。
「奇遇ね。私も7よ。正直負けてると思ってたけど意外とそうでも無いのね。私はこれからもっとたくさんの人を殺して、いつか覚醒者になるわ。シエルも私に負けないように頑張りなさいよ」
カナメは冷たい目でシエルの目を見つめている。
シエルはゆっくりと口を開いた。
「ごめん、カナメ。私はもうその約束、守れそうにないや」
シエルはゆっくりと目を瞑る。
「ふーん。らしくないわね。てっきり、あんたはもっと冷徹な顔して、人殺しを楽しむ人だと思っていた。何があなたをそうしたのかしら」
カナメは浮かばない表情を見せると、シエルはゆっくり話を続けた。
「そうね。私、変なのかも」
シエルは笑った。
無表情だったカナメはミラージュブレイドを手放した。
「そ、ならいいわ。もう私に勝ち目はない。とっととコアメモリを奪いなさいよ」
そう言い残し、カナメは仰向けに寝転んだ。
「うん。」
シエルはゆっくりと歩み寄る。
セキュリティが解除された金庫室から金を盗むのは簡単だ。しかし、彼女にとって、それはとても重かった。
「試合終了。勝者、カゴエ地区!」
こうして各地区合同で行われた戦闘試合は幕を閉じた。
「レオン指揮官、今年も面白い試合が見れましたね」
観覧席から試合を眺めていたレオンが後ろから話かけられる。
「これはゼファード指揮官。その通り、とても面白い戦術が見れて参考になったよ。コガヤシ地区とはいい試合ができて良かった」
「こちらこそ彼らにいい機会を与えることができました。カゴエ地区の皆さんにも感謝です。特に興味深いのはあの黒髪の子だよ。とても周りに敏感で状況を瞬時に判断する能力がある。それに噂に聞くと、彼女、コアメモリ共鳴しないそうですね。」
「はい。彼女は数週間前、我が地区の調査隊がちょうど不在だった時、代わりにうちの戦闘隊を北の廃墟の調査に向かわせまして、そこで彼女を発見したそうです。」
「廃墟!?そんなところに……」
ゼファードは少し考えるように間を置いた。
「最近ナユタたちも話し方が変わったような気がします。これまで声を使わなかった。使う必要がない。」
「そうですか。声に比べて共鳴波による会話は断然早い。なのに何故声で話すのかな」
2人は淡々と会話をしていた。
試合終了後、コガヤシ地区の控え室にてーーー
カナメは一人でベッドに横たわっている。ナユタとレントは修理室に運ばれているためいない。
(なによ……もう殺さないって。犯罪者を殺して人々の平和を守る、これが私たちの生き方じゃないの?わかんない。あなたのこと……)
一方、カゴエ地区の控え室にてーーー
ヒツヤは意識を取り戻す。その瞬間勢いよく起き上がった。
「結果はどうなったんですか!?」
ヒツヤは大きな声で叫んだ。
「勝ったぞ。」
リオは当然のような顔をしている。
「勝った...でも私、戦えなかった。相手にされなかった。みんなやっぱり強いです。それでも」
ヒツヤは小さな声で話しつつも、目の奥には希望の光が宿っていた。
控え室の窓からはオレンジ色の夕日が差し込んでいる。
「ヒツヤ、実はな、言わなければならないことがある」
リオは真剣な眼差しを向けた。
「えっ」
ヒツヤはぽかんとしている。
「なんでですか?」
「事の発端は第2試合が終わったあとだった」
リオはヒツヤに歩み寄り、ベッドに腰掛ける。
「第2試合目の対戦相手、ルルクメ地区の最初に突撃してきた奴を覚えているか?」
「はい。覚えています」
ヒツヤは人差し指を顎に当てて思い出す。
「その隊員、エトスは試合後に控え室で他の隊員と話している時、エトスは試合の事を何も覚えていなかった。それどころか、前日から記憶がないと言っていた。」
リオは少し怖い表情をしてヒツヤを見る。
「カルネア……」
ヒツヤ俯きながら呟いた。




