第15話 交錯する思惑
(目、覚めたか)
ロゴスはベッドで目を覚ましたエトスを見つめている。
(ん...ここは)
エトスはゆっくり体を起き上がらせる。首の刺傷を触る。
(これは……どういう)
エトスは戸惑っているとパトスが控え室に入って来る。
(あれ、エトスもう意識取り戻してるんか)
パトスは椅子に腰掛けて足を組む。
(その傷、あの速い子にやられたんやってな。いつも戦いたがらないくせに今回はえらい好戦的やったな)
(確かにそうだ。今日会った時からやる気満々だったよな)
エトスは2人の会話を黙って聞いていると、そっと2人の方を向き、困った顔をする。
(2人とも……何の話をしてるんですか?)
一方その頃、カゴエ地区の控え室。
「すまん。悪いが俺はもう戦えない。あとは3人に任せた」
アークが地べたに座ったまま左足を触ると、ヒツヤはそっと近づき、自分の胸に手を当てる。
「任せて!アークの穴は、私が何とか埋めるから!」
「ああ。だからお前は安心してゆっくり休んでいろ。ちゃんと優勝してきてやる」
ヒツヤとリオに励まさせたアークは口を開く。
「次の対戦相手は……まあ、だろうな」
現在行われている別会場の映像を脳内に映し出す。そこでもまた、試合が白熱していた。
「これって、別ブロックの準決勝ですか?」
ヒツヤは目を瞑りながら問う。
「ええそうよ。これはマラカク地区とコガヤシ地区の試合だ。もう決着は付いているがな」
そこには、倒れている3人の姿と、ナユタ、カナメ、もう一人の姿があった。
「決勝はやっぱりコガヤシ地区。今年は新人が入って出場できるようになったらしいわね。人員は少ないけど昔から強い地区なのよね。何せ隊長が覚醒者だし。」
ヒツヤは真剣に考えた。
(コガヤシ地区、1度あったことのある人達。あの髪がボサボサしてる人、覚醒者だったなんて知らなかった。それに相手には私と同じ新人がいるんだ……ここだけは負けてられない!)
リオはそんなヒツヤの気持ちを読み取ると、両手でヒツヤの頬っぺたを触る。
「あんまり思い込むなよヒツヤ。もし、困難な状況に直面したり、もう無理かもと思ったら思い出せ。お前はひとりじゃない。落ち着いて周りを見渡してみろ。必ず私たちが隣に立っている」
リオは少し微笑んだ。
「ありがとうございます。なんだか自信が湧いてきました。よし!あのボサボサ髪の人に絶対ギャフンと言わせてやります!」
ヒツヤは意気込んで腕を掲げる。
突然扉が勢いよく開く。
「今誰か呼んだような……」
急に現れたのはナユタだった。
「だから、そこは私たちの控え室じゃないって言ってるでしょ!」
後ろからカナメがスーツを引っ張ってナユタを部屋から引き出そうとする。ヒツヤは空いた口が閉じないまま硬直する。
(今の聞かれてた...?)
すると突然ナユタの後ろから青年が現れる。落ち着いた様子で部屋に入ると胸に手を当ててお辞儀をした。
「そこのあなた、今ナユタさんをギャフンと言わせるとおっしゃいましたね。おっと失礼。わたくし、先月コガヤシ地区に入隊させて頂きました。レントと申します。良ければ本番は私と手合わせお願いしたいです」
ヒツヤは驚きつつも何とかして言葉を繋ごうとする。
「あ、ええと、うん!私も新人だから対して強くは無いけどよろしく」
何とか言葉を絞り出すと、レントはゆっくりと部屋を立ち去ろうとする。
「わかりました。次が楽しみです。では試合で会いましょう。」
そう言い残して3人は部屋を出ていった。
「相変わらず平常運転ね。あの人たち。緊張とかないのかしら」
シエルは息を吐くように呟く。
「同感だ。負ける気は少しもないが、正直緊張感が拭いきれん。それにしても不思議だな。今まではこんな緊張、感じたことなかったのに」
リオはそう言ってスーツを正す。
「よし。じゃあ行ってくるね」
ヒツヤはベルトのミラージュブレイドを確認し、アークに告げる。
「3人とも、頑張ってこいよ。上から見てるからな」
こうして、いよいよ最後の試合に臨むのだった。
会場では大きな歓声が響き渡り、今まで以上に緊張感のある空気に包まれている。
「よくやったわね、レント。これが心理操作と言うのかしら。」
カナメがレントの肩を叩きながら褒める。
「いえいえ、カナメさんのアドバイスがあってこそですよ。」
レントは手を頭の後ろに当てながら照れる仕草を見せる。
「お前ら楽しそうだなー。でもあいつ、戦闘能力はもちろんだが、それよりも精神的な揺さぶりが上手いぞ」
ナユタは楽しそうに話す。
「ふん。どうせ『ウサギ跳びで追いつけるわー』とか煽るんでしょうね。こう言い返してやればいいのよ!」
カナメは自信満々な態度でステージに足を踏み入れる。ヒツヤたちも着々とステージに上がる。
歓声の響く会場、隊員たちの登場により更に熱気がます。そんなピリピリとした空気の中、リオは冷静に伝える。
「いいか2人とも。もう一度状況確認だ。あのヒキニートは私と同じ覚醒者だ。覚醒してる者とそう出ない者、残念ながら両者は天地の差だ。1体1で出くわしたら正直戦いにすらならない。だからあいつは私に任せてくれ」
「了解、私はカナメと戦う。因縁のある相手なの。こっちは私に任せて」
シエルは真剣に前を向いている。すると、ヒツヤふとある提案をする。
「みんな意気込んでいるところ悪いんだけどさ、円陣……組まない?」
「円陣……か。それはあれか。丸くなっては他を組むやつか」
ヒツヤの問いにリオは疑問を持つ。
「そう。こうやって3人で肩を組む。誰か一人が意気込んだらみんなで声を出すの」
3人はぎこちない動きで円陣を組んだ。シエルは気づかれないようゆっくりと背伸びする。
「意気込みは誰が」
リオは真面目な顔を上げる。
「私がするわ。」
ヒツヤは覚悟を決めた。
(私はこれまでみんなを観察してきた……誰よりも理解してるつもりだ……)
大きく息を吸った。
「優勝するぞー!」
観客の声が少し静まり返った。リオは肩を組みながら落ち着いた様子で答える。
「やる気がみなぎっているようだな。さて、このまm」
しかし、ヒツヤの声は止まらない。シエルとリオは驚いてヒツヤを見つめる
「リオさんはかっこいいけど、腕組む時、どっちの腕を上にするか毎回ちょっと迷っちゃう可愛い部分があるし、アークはベルトに武器収める時、毎回少し手こずるのに、必ず最初はノールックでチャレンジする面白い所もあるし、シエルは今も気を使って気づかれないように背伸びしてくれたりする。絶対に優勝を持ち帰るから!」
大きな声が会場に響き、失ったように歓声が途絶える。
シエルとリオは地味に首の角度を傾けて下を向いている。一体どんな表情をしているのだろうか。
「おーーー!」
ヒツヤの声単体が響き渡る。
「ご、ごめん……声、出なかった」
シエルが少し笑いながらボソッと喋った。すると、リオは無言で二人を強く引き締める。
「……」
ようやくヒツヤは自分が何を言ったのか理解した。
「ご、ごめん!つい、感極まっちゃって」
するとシエルは少し笑いながらヒツヤの方を向く。リオも少し照れながらヒツヤの焦った表情を見ている。
「いいよ。あれほどピリピリしていた空気が一気に和んだよ。むしろありがとう」
シエルはニッコリ笑い、明るく答える。
「やっぱり私、カゴエ地区に入って良かったよ。ここでコガヤシ地区を倒して、アークに優勝を持ち帰りたいな」
ヒツヤは下を向き、拳を握る。自分の置かれた状況。今更重力を感じる。
しっかり前を向いている三人にはとうに不安などなかった。そして遂に戦いの火蓋が切られる。
「えーっと、それでは、決勝戦、コガヤシ地区とカゴエ地区のコアメモリ奪取試合、開始!」
視界の声が会場に響き渡る。




