第14話 お手本の動き
シエルは急いでアークの元に駆け寄る。
しかし、進路を塞ぐようにエトスが現れた。
「なんでかな。そんな大きな声で名前を呼んで何が変わるというのさ。」
エトスは落ちている左手からミラージュブレイドを引き離し、シエルの前に立ちはだかる。
「私のことはいい。そいつを頼む」
アークは冷静に言うと、跪きながらもパトスの攻撃を跳ね返す。
(コアメモリを瓦礫の中に隠してたんよ。これなら奇襲も簡単になる。こんなトリック誰でも思いつくやろ)
パトスはアークを煽り、再び攻撃を繰り広げる。
(くそっ。1度ヒツヤで見ていたじゃないか...俺は何をしている……)
アークは冷静に繕っていたが、内心は己の不甲斐なさに少々悄げていた。
(よし、片足潰した。大きな成果だが、こいつしぶといねん。足が1本ないのにまだ動けるか...まずい、そろそろ時間だ……)
パトスは攻撃を辞めて瓦礫の方に戻ろうと走る。
「行かせねえよ」
アークは片足の力で飛び出し、一心不乱にパトスの足首を掴んだ。
(っ……離せ!)
パトスはミラージュブレイドを掲げる。
必死に抵抗して何度もアークに刃を突き刺す。それでもアークは歯を食いしばり、一向に離そうとしない。
(いい加減離れろよ……!もういい。コアメモリ抜いちまえばこっちのもんや!)
その様子を見ながらヒツヤは手を握って祈っている。
(アーク……)
パトスはアークの顔を蹴り、何とかコアメモリを抜き取ってアークの束縛から脱出した。
(やるやんけ。まあこれでおあいこやな)
パトスはうつ伏せでほとんど動かないアークを見下ろしながら呟くと、ゆっくりと瓦礫の方へ歩いていく。
(手こずった……あと、ちょっと...)
パトスは意識を失いその場に倒れた。
その頃、リオとロゴスは凄まじい戦い繰り広げていた。
「これだけ戦って成果ゼロ。心にくるね」
ロゴスは息を呑み、構える。
(くそっ、エトスとパトスはどうなった……状況が全く分からない...)
ロゴスはゆっくりエトスの方を向く。するとリオは速攻ロゴスに斬撃を繰り出す。ロゴスは間一髪のところで躱す。
「私が加勢に生かせるとでも?」
(本当に厄介だぜ...覚醒者は。)
2人は互いに攻防を繰り返し、辺りの地形が破壊されていく。その時、ヒツヤは戦況をよく観察する。
(アークと相手の一人が相打ち。あとはそれぞれ1対1をどうやって切り抜けるか。リオさんは相手の隊長とやり合ってる。攻撃速度が早すぎてとても目で追えない。対してシエルと戦っている相手の片腕は既に奪った。頑張れ、シエル!)
シエルは倒れているアークをじっと見つめる。
「大丈夫よアーク。もうコアメモリが抜かれて3分。意識はもう飛びかけてると思うけど、試合時間残り4分半...何とかしてこいつを倒すから...待ってて」
二人を眺めてエトスは楽しそうに話しかける。
「そんなに仲間のことが気になる?僕は片腕とはいえまだ立ってるよー。もう眼中に無い感じ?」
シエルは無言で立ち上がる。
「どれだけ手傷を負っていようが、あなたはまだ立っている。私はどんな相手だろうと油断しないの」
シエルは姿勢を低くし、高速でエトスに飛んでいく。
(集中しろ私、本来の目的を忘れるな。今の私じゃとてもリオに加勢できる力は無い。だから、今私に出来るのは、この男のコアメモリを奪うこと...!でも...)
シエルはアークのミラージュブレイドをエトスに向かって投げる。エトスは軽々と攻撃を止めると、目くらましのようにシエルも飛び出していた。右手を前に突き出し、一直線にエトスの胸へ飛び込んでいく。
「やっぱり近くで見たときからすごいと思ってたんだ。君、相当速いね。」
エトスも飛び出した。
シエルの刃がエトスの胸に触れる。
両者は互いに入れ違う。
二人は静止し、ただ風の音が靡いている。
するとゆっくりエトスは前に倒れた。
(体が動かない...流石に未改造の体だとこれが限界か。あーあ、ここで終了か。でも、意外と楽しかったな)
ヒツヤは観覧席で瞬きもせず手を握っていたが、ゆっくり手の力が抜けていく。
(シエルの咄嗟の判断力、アークのミラージュブレイドを活用するアイデア、凄い。私にはあんな早く判断できないな)
シエルは振り返って倒れたエトスを見下ろす。
(強かった。あなたの隊長よりも……)
その頃、リオは、
「なんだ、もう終わりか?」
リオは余裕そうに立っている。
「なんだこの生き物は……攻略方法はあるのか」
ロゴスは地べたに尻をつき、リオを見上げていた。
リオはふっと微笑んだ。
「そろそろ時間だ。コアメモリを頂くぞ」
ロゴスは為す術もなくコアメモリを奪われる。
同時に制限時間を迎えた。
「試合終了。勝者、カゴエ地区!」
場内アナウンスが響き渡った。
「残念だったなロゴス。私たちの勝ちだ」
リオはそう言ってゆっくりと立ち去る。ロゴスは唖然としながらリオの背中を見つめていた。
「おーい、みんなー」
ヒツヤが3人の元に駆けつけた。
「この声は」
アークは座ったまま振り向くと、ヒツヤが笑顔で走って来ている。
「相手凄く強かったね。でも最後にシエルのアイデアで何とか勝つことが出来たね!」
相変わらず無邪気な笑顔を見せつけるヒツヤ。
「そうだな。だがまだ試合が終わったわけじゃないからな。控え室に戻ってゆっくり休もう。」
するとシエルはヒツヤに近寄り、酔っ払いのようにもたれ掛かる。
「ごめん、私疲れちゃった。おぶってくれない?」
ヒツヤはシエルの頭に手を置き、優しく微笑んだ。
そうしてヒツヤはシエルを背中に乗せて歩く。軽く、簡単に背負うことが出来る体からは温かみを感じる。
(お疲れ様...)
そうヒツヤは心の中で呟き、控え室に向かう。




