第10話 エンテレキア適合審査会
観客席へと続く喧噪から外れ、関係者だけが入れる裏手の通路へ足を踏み入れる。
「ここから先は出場者の控え室だ。お前にとっては初めての舞台裏だな」
リオが扉を押し開けると、そこは広い待機所になっており、各地区ごとに分けられた部屋が並んでいた。
「――こっちだ」
案内された部屋の扉を開けると、既に二人の仲間が待っていた。
「やっと来たか、リオ。遅いぞ」
腕を組んで立っていたのはアーク。胸板が薄く浮かび上がっているスーツを見せ、その立ち姿は壁のような圧を放っている。
「これで揃ったわね」
柔らかな声が響いた。シエルは椅子に腰かけ、光沢のある刀身を磨いていた。ミラージュブレイドが彼女の指先で淡く光を放つ。
「二人とも……!」
ヒツヤは胸が少し軽くなるのを感じた。心強い仲間が揃っただけで、不安が和らぐ。
「ふん、新人が緊張で固まっていないか心配だったが……まあ、顔色は悪くないな」
アークが口の端を上げて言う。
「緊張はしてます。でも……やるしかないですから」
ヒツヤは拳を握りしめて答えた。その瞳には確かな決意が宿っていた。
シエルが微笑み、リオが頷く。
すると突然控え室の扉が開く。
「ここかぁ。ああだるい。早く終わんないかなー」
「ちょっと、そこは私たちの控え室じゃないよ」
扉の先に現れたのはナユタだった。
「なんだ?ここはカゴエ地区の控え室だぞ」
アークが胸を組んで睨みつける。
「いやぁー。この前は世話になったねぇ、前回優勝者さん。俺たちがいない間に結構有名になりやがってぇ」
ナユタはアークを空気のように無視し、話し続ける。
するとナユタの肩を押しのけ、赤い髪の小柄の子が姿を見せる。
「また会ったわね、あんた達。そして久しぶりね。シエル」
「カナメ...」
カナメは先日のショッピングモールにて、ナユタに同行していた隊員だ。
シエルが椅子を立ち上がって手を止める。
「あなた達がいるってことは、誰か隊員を増やしたのね。まぁ誰だろうと変わらないけど」
「それならあなた達にもいるわね。新人。話に聞くと記憶がないみたいじゃない。ほんとに戦えるの?」
カナメがヒツヤの方を指さして言う。
「戦えます! 私はもっと強くなるんです!」
「ほんとに? 話に聞くと共鳴することもできないらしいじゃない?」
するとリオがヒツヤの前に立つ。
「あまり調子に乗るなよカナメ。足元を救われるぞ」
「ハイハイ。わかったわよ。行きましょ隊長」
「流石優勝地区。怖ぇ」
カナメとナユタはそう言い残すと彼らは部屋を出ていった。
「リオ、アーク、シエル...勝とう。」
ヒツヤは真剣な眼差しで呼びかける。
「当たり前だろ」
アークは椅子にふんぞり返っている。
「そういえばトーナメント発表はまだか?」
「いや、もう発表されている」
「ほんとか」
するとリオは手のひらをアークのコアメモリに押し当てる。すると共鳴するようにコアメモリが静かに光を放つ。
シエルとヒツヤにも同様に当てる。
「これが私たちの最初の相手...」
ヒツヤの頭の中にトーナメントの情報が流れ込んでいく。
「ナガワシ地区...」
ボソッと口から出た。
「ナガワシは確か去年はベスト4だったな。1人強い奴がいるのしか知らない。安心しろ。誰が来ようと勝つしかないんだ」
そう言ってアークはヒツヤの頭を撫でる。
「てことは、三連勝すれば優勝ってこと?」
ヒツヤの質問にリオが答える。
「ええそうよ。ルールを確認しましょう。これからやるのは3対3の戦闘試合。制限時間は10分。相手をより多く戦闘不能にした方が勝ちよ。」
三人は真剣にリオの話を聞いている。
「戦闘不能……それは意識を失っているか否かですか?」
ヒツヤが問う。
「その通りだ。また、時間が終了する前に全員が気絶した場合はその時点で勝敗が決まる。基本的にコアメモリを破壊する以外は何してもいいわ。体は壊れても直すことはできるからね。それでも1週間くらいはかかるわ。すぐに直せるわけじゃないからなるべく傷を負わないように」
ヒツヤは人差し指を顎に当てる。
「なるほど。たとえ勝ったとしても、傷を負っていたら後の試合に響くというわけですね」
ヒツヤは意気込んだ。その瞳は輝きながらも冷静さを纏っている。
「リオ、俺たちは何か作戦を立てるのか?」
アークは肩を回しながら声を上げる。
「必要ないな。相手が誰であろうと臨機応変に対応していくだけだ。状況は常に変化し続ける。」
リオは目をつぶって精神統一している。
「作戦...とは言いきれないけど、やりたいことがあるの」
シエルが突然口を開いた。
「この前ヒツヤが言ってたこと、技名について考えない?」
リオは目を瞑ったまま答える。
「ああ、あったなそんなこと。でもどうして?」
「技名を言うことで自分が何をするのか意思決定にも繋がるし、それに...かっこいいじゃん」
シエルは少し恥ずかしそうに答える。リオはそんな姿を見て呟いた。
「驚いたな。シエルがこんなこと言うようになったなんて。変わったな」
「えっ、そうかな。良くないかな?」
「いや、私はこっちの方が好きだぞ」
リオは若干目線を逸らして答える。アークはそんなリオを見て少し笑った。
「確かにシエルは変わったような気がするが、リオも最近、なんというか、接しやすいというか...」
「そうか? 私自身は特に何も感じていないがな」
ヒツヤは楽しそうな3人を見て笑顔で話した。
「やっぱり、みんなと出会えて良かった。最初はこの世界の事何にも知らなくて、少し怖かったけど、でもみんなといると心が落ち着くよ。これまでありがとう。試合、頑張ろうね」
三人は互いを少し見つめあい、静かになる。
ヒツヤは少し顔を赤くする。
「ち、ちょっと何か反応してよ!」
――こうしてカゴエ地区の三人は、ついに合同試合の舞台へと臨むのだった。
「行くぞ」
リオの声で控え室の扉が開き、カゴエ地区の三人は会場へと歩を進める。外の熱気が、身体に直接伝わってくる。観客席には色とりどりの旗、歓声、そして試合場中央にはきらめく遮蔽物。
(これは...まるで訓練場みたい!)
ヒツヤは拳を握りしめ、力を込める。訓練場内に入ると、反対側の扉も開き、ナガワシ地区の隊員が入場する。
(いきなり前回覇者と当たるのか...)
(そんな自分を追い詰めるなルミエール。相手が誰だろうとやることは変わらない)
(そうね、ヴェール。)
ナガワシ地区の隊員、ヴェールとルミエールは共鳴して会話をしている。
(いいんだよ、とりあえず落ち着け。困ったら俺を頼れ)
(わかった)
(やっぱかっこいいッスね。隊長)
少し空気を読めないソルが絡む。
(お前はもう少し真剣にやれよ)
(わかってますよ隊長)
ナガワシ地区隊長のヴェールはミラージュブレイドを回転させながら入場する。
一方、カゴエ地区では、
「よし。まずはメンバーだが、私が抜ける」
リオが3人に告げる。
「妥当だな。そもそも隊長がでるような試合ではない。それに、ヒツヤには戦いを経験して欲しいしな」
アークはそう言い、ヒツヤを見つめる。
「隊長の分も頑張ります!」
「うむ。頑張れ。まずは戦いに慣れろ」
リオはそう言って訓練場を出ていく。
「2人とも、ピンチになっても共に助け合っていこう」
「仲間なんだから当然だろ」
シエルが呟くように話すとアークが少し笑いながら2人の肩を組む。
「それでは、第1回戦、カゴエ地区とナガワシ地区のコアメモリ奪取試合、開始!」
3人からは不安というものが既に無くなっていた。そして勢いよく飛び出していくのであった。




