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旧プロトコルの同行者  作者: 八四一 十々
第1章 最初の人間
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第1話 クオリア

全てを託された。

彼らは未来に何を伝えていくのだろうか

廃墟となった街の空は、鉛色に沈んでいた。

壊れたビルの隙間から、かすかな光が差し込む。

風に乗って埃が舞い上がり、静かな街に軋む音が反響していた。


瓦礫の中を、3つの人影が進んでいる。


黒いスーツ。白い手袋。左胸には青い紋章。

3人は無言で、崩れた建物の内部を探索していた。


「なにか見つかったか?」


先頭を歩く茶髪の女性が、振り返らずに尋ねた。

声には抑揚がない。


「手がかりになりそうなものは何も無い」


がっしりとした体格の男が、ビルの破片を後ろに投げ捨てる。

地面に当たった音が、辺りに反響した。


「奥に分厚い扉があります。こじ開けて大丈夫ですか?」


白髪の小柄な少女が、奥の部屋から報告する。


「ああ。中のものはなるべく傷つけるなよ」


茶髪の女性――リオが答えた。


ドン、と音がした。

白髪の少女、シエルが扉を蹴り飛ばした。


「なにか箱のようなものを発見しました!」


シエルは走って2人のもとへ駆けつける。

3人は箱の前に集まった。


棺桶ほどの大きさ。

全体に灰色の正六角形の模様。

ところどころ、黄色く光っている。


リオは箱を確認すると、男に告げた。


「よし、運び出そう。アーク、担いでくれ」


「了解」


アークが肩に担ごうと、両手を箱の両側へ移動させる。

持ち上げようとした、その時――


蓋がズレた。


「おい、この中……」


アークは隙間から箱の中を覗き込む。


リオとシエルが息を呑みながら箱を見つめた。


アークがゆっくりと蓋を開ける。


中には――


白い服にリボンを着け、黒いスカートを履いた少女が、

目を瞑って横たわっていた。


見た感じ、16歳ぐらい。


数秒間の沈黙。


「人間……か?」


リオが口を開いた。


「とりあえず保護した方がいいでしょうか?」


シエルは真剣な眼差しでリオに問う。

リオはしゃがみ込んで、少女に触れようとした。その時、少女の目が開いた。


体を起き上がらせる。


3人は驚き、即座に距離をとった。


だが、何より驚いたのは――

少女自身だった。


びっくりした表情で、3人を見つめている。




ゆっくりと瞼を開き、世界が少しずつ明らかになる。

少女は鮮明になった視界を観察している。ゆっくりと首を動かし、とうとう3人を視界に捉える。黒いスーツ姿で白い手袋を身につけた3人。

左胸には、青い丸い紋章が刺繍されている。


「ここは……あなた達は一体……」


少女は自然と声が出る。自分でも驚いていた。


3人は互いに目を見つめ合い、沈黙している。


少女は立ち上がり、辺りを見渡す。

箱を跨いで出た。


3人は相変わらず何も喋らず、少女を警戒している。


少女は自分の体を初めて見るかのように眺めた。


そして、もう一度尋ねた。


「私は一体……誰なの?」


少女の戸惑った様子を感じ取ったのか、

茶髪の女性――リオが口を開いた。


「大丈夫よ。落ち着いて」


抑揚のない言葉。

でも、少女は話の通じる相手だと思い、安堵した。


白髪の少女と、がっしりとした男も、

ゆっくりと頷き、少女を受け入れる。




少女は3人に連れられ、廃ビルの外に出た。そこは、人の気配のしない、閑散とした町中だった。家屋は並んでいるものの、穴やヒビが多く、人の住める場所には到底見えない。


しかし、そんな景色とは真逆に、遠くに広がる景色に思わず息を呑む。

瓦礫の向こうには、未来都市がそびえ立っていた。


光を反射する高層ビル。空中を行き交う乗り物。地面を滑る無数の機械。


都市全体が、生き物のように脈打っている。


「……すごい……」


少女の口から、声が漏れた。


リオは無言で前を歩き出す。

白髪の少女と、がっしりとした男も、自然な足取りで後に続く。


少女は彼らの動きを見ながら、必死に距離を保とうとした。


「あの、今からあそこに行くんですか?」


少女は少しワクワクしながら、リオに尋ねる。


リオは、少女を見向きもせず、ただ真っ直ぐ進行方向を見つめながら答えた。


「あれは都市クオリアよ。この辺りではいちばん大きい都市よ」


他の2人もただ前を見つめていた。


そこから、4人はしばらく歩いた。


少女は次第に大きくなっていく都市を眺めながら、3時間ほど歩く。やがて、都市と廃れた町の境界にある大きな施設へと辿り着く。


巨大なゲート。奥には広い空間が広がっている。リオ達は躊躇わずに歩き続ける。少女もそれに続いた。すると...


ビーッ!

警報が辺りに響き渡る。


「え、何!?」


驚いているとリオは落ち着いて足を止める。


「安心しろ。料金不足だ。」


そう言って少女が受け取ったのは赤色のカード。表面にはよく分からない番号が印字されている。


「それを携帯していろ。」


少女は言われるがまま、再びゲートを通過する。今度は警報がならなかった。


「このカードってなんなんですか?」


再び歩き始めていた3人に小走りで追いつく。


「そのカードには料金が入っている。都市の公共機関を使うために必要になるものだ。本人確認にも使える。今回は私のを貸してあげているが、正直、今どきそんな古いカードを使っている人はいなくてな。不要になっていたからどうするか悩んでいたんだ。せっかくの機会だ。それはプレゼントしよう。今後はそれを使うといい。」


4人は奥に進むと、駅のホームに到着する。線路らしき物は見当たらない。そもそもホーム下に地面がない。到着してから間もなく、横から新幹線のような乗り物が現れた。半透明。何より音がしない。


その不思議な乗り物に4人は搭乗する。窓際の座席に座った少女は、好奇心に駆られた子供のように窓の外を眺めている。


「君、何も持っていないようだがあそこで何をしていたんだ?」


隣の通路側の席に座ったリオが話しかける。


「私は……何をしていたんだろう。記憶がなくて...よくわからないです。ところで、この乗り物はなんですか?」


乗り物はゆっくりと動き出す。


「『浮環列車(ふかんれっしゃ)』。都市のあらゆる地点を繋いでいる。」


浮環列車はそのまま高く上り、都市内部へと進んでいく。高層の建物の合間を縫い進み、やがて大きく開いた空間に出る。少女は窓に手を当てながら言葉を失った。


「……!」


空高くまで伸びる建物、巨大な空中施設、その雄大な絶景は少女の時を止めた。隣のリオは平然と景色を見ている。


やがて浮環列車は高度を落とす。流れるように駅に到着すると、リオは無言で席を立つ。少女は気はまだ上の空だった。ゆっくりと後を追う。


駅を出た4人は、そびえ立つ巨大な建物へと足を踏み入れた。

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