【4】IQ178だけど、興味ゼロなら寝ます
土曜の夜。
エリオットのアパートのリビングには、60インチの大画面テレビとカウチソファ。
テーブルの上には山盛りのポップコーンとコーラの瓶。
国立分析研究所の博士の部屋というより、まるで学生たちのパーティのようだった。
「わー!すごーい!ほんとに映画館みたい!」
研究生のサラが歓声を上げ、ポップコーンを両手に抱える。
隣で同期のライアンも目を輝かせた。
「いいなぁ……こんな大画面……。俺もバイト増やそうかな」
当のノアはというと、ソファに深々と腰を下ろし、ポテチをつまみながら画面をじっと見つめていた。
「俺さ、『エルム街の悪夢』って観たことないんだよね」
「ええっ!?」
サラとライアンが同時に叫ぶ。
「ホラーの金字塔だよ!?嘘でしょ!」
ノアは無邪気に笑って肩を竦めた。
「だって俺、学会用の資料まとめながらジャパニーズアニメ観るタイプだからさ。
ホラーは全部スルーしてきたんだわ」
「いい?ノア!」
ナディアがぐいっと身を乗り出す。
ハイヒールをカツンと鳴らし、スマホを構えながら宣言した。
「私は今日、“推しの瞬間”をちゃんと撮るの!あんたも協力するのよ!」
「ちょっとプレア所長!立たないでください!画面に被ります!」
サラが抗議の声を上げる。
「……主催者は僕なんだけどな……」
エリオットは肩を落とし、ポップコーンをひと掴み放り込んだ。
やがて映画が始まる。
サラとライアンは「キャー!」と抱き合い、画面に釘付け。
ナディアは「ほら来た!この瞬間が最高なのよ!」とスマホを連写し続け、推しへの愛を炸裂させている。
そんな中――。
ノアは最初の30分で退屈そうにソファに横になり、そのままスヤスヤと寝息を立て始めてしまった。
「……え、寝た?」
「このタイミングで?」
サラとライアンが唖然とする。
「こいつ、こういうやつなんだよ」
エリオットが苦笑して答えた。
「IQ178の天才でも、興味ゼロなら即・睡眠モード」
やがて映画が終わる頃。
エリオットはソファで丸まるノアの肩を軽く叩いた。
「おい、終わったぞ。……そろそろ“本番”だ」
「ん……?夢オチ?」
ノアがむにゃっと目を開ける。
「夢オチじゃない!これからが本番なんだよ」
エリオットに促され、一行は地下室へと降りていった。
そこは研究用に改造された小さな保管庫。
棚には発掘品が並び、中央のテーブルには――あの黒布に包まれた“板”が静かに横たわっていた。
「これが……?」
ライアンがごくりと喉を鳴らす。
「そう。二千年以上前の、“本物の”ヴィジャボードだ」
エリオットの声が、地下の冷えた空気に落ちた。
一瞬、室内の温度が下がったように思えた。
だが、その場の誰一人として――それが単なる“遊び道具”ではないことを、まだ知らなかった。