【3】IQ178だけど、ホラーナイトはノリノリ
ある日の昼下がり。
研究棟の搬入口に、厳重に封印された木箱がいくつも運び込まれてきた。
外側には真っ赤なスタンプが押されている。
「古代遺跡発掘調査資料/極秘」
エリオットは緊張した面持ちで、新品の手袋をはめ、木箱の蓋を開いた。
中から現れたのは、古代の布で丁寧に包まれた巻物、土器の欠片、そして――奇妙な板状の物体。
「……っはぁぁ〜……!」
オタク特有の熱がエリオットの瞳に宿る。
「見ろよノア!パピルスの繊維が劣化してない!
二千年以上前の紙なのに水分を保ってるんだぞ!? 奇跡だよ、奇跡!」
横でポテチを頬張るノアは、「へぇ〜」と気のない返事をしただけ。
「それ、そんなに凄いの?」
「凄いなんてもんじゃない!
現代の紙幣偽造の研究だって、この繊維構造を解析すれば飛躍的に進歩するんだ!
僕の専門分野そのものだ!」
熱弁するエリオットを、ノアは口をもぐもぐさせながら見ていた。
「ふーん。……で、その“板”は?」
木箱の奥に、黒い布で包まれた大きめの板が眠っていた。
他の発掘品とは明らかに異なる、不気味な存在感。
「……ああ、これも一緒に出てきたんだ。
古代の儀式用の道具らしい。
専門外だから、記録だけ残して密封保管する」
エリオットは慎重に布をめくった。
現れたのは古びた木の板。
表面には、不気味なアルファベットと記号が刻まれている。
ノアの目がわずかに細められる。
「……ヴィジャボード?」
「そう呼ばれてるらしい。
今は心霊遊びに使われる安物のオモチャだけど……これは古代オリジナルだ。博物学的価値は――」
エリオットが言いかけ、眉をひそめた。
「……妙だな。周囲の空気が急に冷えた気がしないか?」
「気のせいじゃね?」
ノアはチップスの袋を空にすると、唇を拭ってニッと笑った。
「なあエリー。これ、パーティで開けてみようぜ」
「はぁ!?」
「研究だけじゃ勿体ないじゃん。
週末にみんなで集まって、ホラー映画観ながら『本物のヴィジャボードやってみた!』って。ウケるだろ?」
「ば、馬鹿を言うな!これは歴史的資料で――」
カツ、カツ、と廊下にハイヒールの音。
ナディア・ウォーカー所長が現れた。
NYスタイルのワンピースにハイヒール。
モデルのように美しい姿だが、その顔は険しい。
「……あなた達。妙な話が聞こえたけど、私の気のせいかしら?」
エリオットは慌てて背筋を伸ばす。
「し、所長!もちろん!サンプル採取して密封して保管庫へ――」
そこへノアが満面の笑みで割り込んだ。
「所長も来ればいいじゃん。週末パーティ!」
「……は?」
ナディアの眉が吊り上がる。
「お誘いはありがたいけど、興味無いわ」
ノアがニヤリと笑う。
「あ〜……ナディア、怖い系ダメなんだ?」
キッと睨み、ナディアの拳が震える。
「私はねえ!
死霊館シリーズも、13日の金曜日シリーズも、限定版を全部持ってるのよ!?
しかも特別仕様のアナベル人形を寝室に飾ってるんだからね!」
エリオットはポカンと口を開けた。
対照的にノアは大爆笑する。
「じゃあ決まりだ!
週末は『エルム街の悪夢』観ながらヴィジャボード開封!」
ナディアの脳裏に、エリオット宅の――
60インチ4Kテレビで映し出されるフレディ様のベストショットが浮かぶ。
「……し、仕方ないわね。あなた達だけじゃ心配だし……行くっ!」
エリオットが頭を抱える。
「……なんでそうなるんだ……」
ノアは楽しそうに宣言した。
「よし、決定!エリーん家でホラーナイト!」