赤
赤いフードのパーカーは、祖母の手作りだった。
リネン混の柔らかな布地で、春の終わりの風をよく通す。
ぼくはそれを羽織り、南へと続く小道を歩いていた。
行き先は祖母の家。森の奥深くにある、小さな小屋だった。
途中で、彼に会った。狼だった。
いや、実際に彼が狼だったかどうかはよくわからない。彼は細身のスーツを着ていて、ポケットにはジム・モリソンの詩集が入っていた。
「どこへ行くの?」と彼は訊いた。
「祖母の家だ」とぼくは答えた。「チーズケーキとスペイン産の赤ワインを届けに行くんだ」
彼は静かに頷き、それ以上何も訊かなかった。
祖母の家に着くと、部屋は異様に静かだった。
僕は玄関のドアを開けて、中に入った。窓から差し込む午後の光は、祖母が愛用していたジャズのレコードを静かに照らしていた。マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』が、ちょうどA面の終わりを迎えていた。
ベッドには、祖母ではなく、例の“彼”が横たわっていた。
「どうして目がそんなに大きいの?」
「君のことをよく見ていたかったからさ」と彼は言った。
しばらく、ぼくらは黙っていた。時間はゆっくりと流れ、外では風が木々のあいだから何かを囁いていた。狼はぼくを食べなかったし、ぼくも彼を責めなかった。たぶん、それがぼくたちにできる唯一の、誠実な選択だったのだと思う。