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後宮怪談  作者: やなぎ怜
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百合の妃

 ……調べられた範囲は、それですべてです。


 「百合の妃」なるものの正体はわかりませんでした。


 それから、百合の妃なるものが吹聴していたとされる「秘密の教義シークレット・ドクトリン」とやらも。


 ……ですので、他の妃たちや侍女、下女らの乱心の理由について、私から申せることはありません。



 百合の妃を名乗った、または百合の妃だと認識されていたものは、本物の百合の妃ではないのでしょう。


 本物の百合の妃と面識のある者や、顔を知っている者と、現在後宮内に現れる百合の妃だと認識されているものが接触していないのは、意図的なもののように思えます。


 つまり……百合の妃を騙っている、偽物であるとの自覚がある者の犯行ではないかと。


 ただ、なぜ百合の妃から「秘密の教義」なるものを教えられた者たちが乱心しているかは、わかりません。


 「秘密の教義」の内容についても……彼女らはひとりとしてしゃべりませんでした。


 ただみな、心を病んでしまって……。



 本物の百合の妃と……そうかつて呼ばれた方は、現在も生家におられるそうですね。


 そちらへは……。


 はい。追跡はしているのですね。もちろん。


 しかし後宮から出されたときと変わらず、心を病んでおられると。


 その言いぶりですと、正常な会話が成立するような状態には戻っておられないのですね。



 ……下女たちは百合の妃の生霊が後宮にいるのだと噂しておりました。


 生霊が、後宮で妃の顔をして歩き回って、「秘密の教義」なる恐ろしい話をするのだと。


 ただ百合の妃の声を聞くだけでも、または姿を見るだけでも狂ってしまうと、噂に尾ひれがついていましたよ。


 下女たちはみな百合の妃の噂ばかりで……まったく。


 ……ああ、失礼しました。



 しかし、後宮を辞めたがっている下女たちが多いのは事実です。


 ここのところ……穏やかならざる出来事が、立て続けに起こっているでしょう。


 「ここは怖い」と言って辞めて行く下女は……多すぎます。


 このままでは後宮の正常な運営も危うく……。


 とにかく、偽の百合の妃をどうにかしなければ。



 ……はい?


 お亡くなりになったと?


 一週間前に?


 ……私が聞き取った中で、「つい昨晩、百合の妃を見た」と証言していた下女が……。


 ……いえ、これは後宮内に、百合の妃の名を騙る者がいるという、強力な証拠になるでしょう。



 ……はい。


 では、百合の妃が亡くなられたという話は、こちらで後宮に流しておきます。


 ……これで、生霊説くらいは払拭できるでしょう。


 あとは百合の妃を騙っている者を捕縛できればよいのですが……。

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