第93話 我が儘ヒステリック
勝手なことをしているナサリ。
それに関してオッサンが物申したいらしく、俺たちはギルドマスターの部屋へと連れていかれた。
怒気を含んだ声でオッサンが色々と問題点を言ってくるのだが、ナサリは「私はキョースケのパーティメンバー。尋問官は辞めた」の一点張りで話が噛み合っていない。
最終的にはオッサンが「シノミヤ! この責任を取れ!」とまで言ってきた。
「こっちからすりゃ、そっちの問題だろ。二人で話し合ってくれよ。それに責任と言われても、ナサリが勝手に決めてんだからコイツが責任を取るべきだろ。俺に問題を振ってくんじゃねー」
心の声をそのまま口にしてやった。
黙るオッサンとナサリ。
このまま話をしていても平行線なので勝手に二人で話てくれれば良い。そのつもりで立ち上がったのだが、ナサリも立ち上がった。
「私の決意は変わらない。私はキョースケと一緒に生活も始めてる」
再び油に火を注いだ感じになって、オッサンは怒鳴ってきたので俺は急いで部屋を出ていく。ルノたちも慌てて出てきたのだが、そこには何故だかナサリもおりオッサンが追いかけてきたのが分かった。
捕まったら再び面倒くさいことになりそうだから俺はルノの手を握ると、ルノはカミュを掴み、カミュはリリアを掴んだ。リリアはマリーを掴んでマリーはナサリの手を掴んでやがった。
今さら文句を言っている時間はないので俺は先にテレポートの魔法を使って自分の家へと飛んできたのだが、着地に失敗したマリーたちにつられて態勢が崩れて尻もちをついてしまった。
「痛ってー……。何やってんだよ……。それになんでナサリまで連れて来てるんだよ。これでしばらくはシンジュクの町へは行けないじゃねーか」
「私は悪くない。悪いのはラインハルト」
「いやいやお前にも責任はあるぞ!」
「しかしご主人さま、ここに居てはそのうちラインハルト様がやってきてしまいますよ?」
くっ! そうだった……。それにナサリ糞雑魚をどうにかしないと……。
「仕方がない、取り敢えず旅の支度をして死の森へ行くぞ」
全員が各々の返事をしたのだが、本当にナサリは冒険者と言うものを理解しているのだろうか?
みんなは自分たちの部屋へ行き、身支度を始めた。だが、ナサリは何を準備をしてよいのか分かっておらずルノに質問していた。やっぱり分かってなさそうだ。
準備を終えるのだが、ナサリはどうやって戦うつもりなのだろうか? あの非力さだったら剣を持つことはできなさそうだが。
テレポートの魔法を使って死の森へやって来た。
「お前はどうやって戦うつもりなんだ?」
俺の言葉に首を傾げるナサリ。本当に何も考えていなかったのか?
森の中は獣の声や葉の擦れる音などが聞こえる。その音にナサリは怯えた様子がみえない。ボケーっとしているようにも感じられるが……まぁ、どうでも良いか。
「ナサリ様は武器を持って無いのですか?」
「持ってない。どうすれば良い?」
「なら、これを使ってみますか?」
そう言ってルノは魔導ガンを取り出して、ナサリに渡しやがった。
それはアーティファクトに限りなく近い物なんだぞ! しかし、その事を言うと面倒な事になりかけん。
ナサリはルノに使い方を聞きながら森の奥へと進んで行くと、ハイオークの群れを発見した。
数は五匹。ルノたち三人の相手では無いがマリーでは苦戦するだろうし、初めて実戦を経験するナサリはどうするのだろうか?
彼女たちの様子をうかがっていると、ルノがスナイパー魔導ガンを取り出して構える。
それを眺めているナサリ。
ルノはスコープを覗き込んで数をみんなに知らせると。
「カミュは待機。ルノとリリアはフォローで。マリーとナサリの二人で対処してみて」
「へ?」
珍しくナサリが間の抜けた声を出した。
マリーはナサリの装備を見て自分が前線だと判断したらしく、この間作ったミスリルソードを手にして足音を立てないようにゆっくりと身を隠しながら歩いていく。
「ど、どうすれば良いの?」
ナサリがオドオドしながらルノに聞いてくるが、ルノはスコープを覗いていてマリーの動きを注視しているためナサリの声を聞いてない。
「聞いてるの! どうすれば良いの!」
ナサリが声を上げた。
これは不味い。ハイオークがこちらに気がついたらしく、五匹はこちらへと向かい始めたのでルノはトリガーを引いた。
「少しは自分で考えるッス! リリアは姫様の護衛に向かうッス!!」
「了解です!」
その間にルノが二射目を発砲した。
「だって、何をすれば良いかなんて分からない!」
その言葉のせいで、相手はこちらの場所を完全に掴んだようで、ハイオークは散開し始めた。ルノは覗いてたスコープから顔を上げて珍しく舌打ちをした。こんな場所でヒステリックを起こすなんて馬鹿の極みだ。
「さて、この場合はどうするんだ?」
「カミュは……!」
ルノが指示を出す前にカミュが動き出した。お互いが同じことを共有してれば問題ないけど、そうじゃないっぽいカミュは、先行している二人に居場所がバレたことを伝えに行ったようである。
マリーの安全を最優先に考えたのだろう。
「お前は何もしないのか?」
「それは貴方だって同じ!」
同じにされても困る。俺が動いたら全てが片付いちまって、訓練の意味がない。
ルノが何か言いたそうな顔してナサリを見たが、口を瞑って再びスコープを覗き込む。まるで何か文句を言いたそうな顔をしていたのが気になったが、今はそれどころではなさそうだ。
「左右から回ってきてるぞ。どうするんだ?」
「なんで分かるの!」
ナサリがヒステリックな声を上げて言うので、ルノは苛立つかのように舌打ちをした。
ルノが苛立っているのは珍しい。
「今はそんなことを話ている場合じゃないだろ……。ちなみにハイオークのほかに魔物が近寄ってきてるみたいだが、どうするんだ? 俺は手を出すつもりはないぞ」
俺の言葉にルノは再びスコープを覗き込み敵を探っているが、敵が前からやってくるとは限らない。後ろからだってやってくる。
「前方からはやってきてない……。と言うことは後ろから!」
スナイパー魔導ガンを仕舞って、ストレージからオリハルコンで作られた剣を取り出した。
後ろからやってくる魔物を迎え撃つのだろうか?
「ご主人さま、ナサリをどこかにやってくれませんか! さっきから邪魔でしょうがないです!」
珍しく口が悪いルノ。主人が俺だということで、ナサリを物のように言ったようだ。
「嫌だ。お前たちでどうにかしろ。物の使い方はお前が教えてるんだろ? 部屋だって一緒なら、お前がどうにかしろよ」
同部屋に誘ったのもルノなら、武器の使い方もルノが教えている。自分の責任は自分で解決してくれ。




