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第91話 勇者の作り方

 マリーが将棋で勝てる相手はリリアくらいしか家にはいない。どうにかしてマリーが勝ちたいとマリーが言い勝つ方法を教えてほしいと泣きついてきたが、努力しろとしか言えない。

 他の遊びは無いのかと言われたので、仕方がないのでオセロを作ってあげた。

 オセロは陣取りゲームとは違い、自分の色が多い方が勝ちのため、角を取ったほうが有利のゲームである。だが、四角を取っても負けるやつは負ける。

 これも多少は頭を使うゲームと言えばゲームである。あとは心理戦で勝てるかどうかである。

 将棋も心理戦の部分はあるが、どれだけ先を読めるかが勝負の鍵だと思う。

 将棋盤を持ってシンジュクの冒険者ギルドへやって来た。マリーが勝てるとしたら初心者くらいだろうからだ。


「なるほど、この駒は陣取り合戦というわけじゃないのか……」


「戦略が必要になるのと、先を読む力が必要になる遊びだ」


 ラインハルトのオッサンにルールを説明して、マリーが対戦する。二人とも真剣な表情で駒を動かしていく。

 途中、マリーが長考する場面があったが、素人相手に勝利して喜びを爆発させる。

 悔しいのかオッサンはもう一局お願いしてきたのだが、マリーは断りやがった。卑怯にも程があるだろ。

 代わりにカミュが対局すると、オッサンは慣れた手付きで駒を動かし始める。


「あそこを攻めれば……」


 マリーがブツブツ言いながらあーでもないこーでもないと言っている。だったら自分で対局すれば良いのに……。

 マリーは長考するがカミュは思っている以上に早打ちしていくので、オッサンの方が考える時間が長く感じる。


「これで詰みッス」


 パチリと音をたてるとオッサンは項垂れた。


「しかし、これは面白いな。もう一回やったら勝つ自信はあるが……どうだ? シノミヤ」


「俺に勝とうなんざ100年早い」


 そう言って俺は椅子に腰掛けるとオッサンはニヤリと笑みを見せた。もちろん俺は飛車角落としで対戦したが、オッサンは本当に強かったが、知識量が違う俺が勝ったのは言うまでもない。

 次やる時はもっと苦戦しそうだが、まだまだ負けることはないだろう。

 オッサンはこの将棋盤を貸してほしいと言ってきたので、俺は貸すと翌日にはギルド内で将棋が流行ったのは言うまでもない。

 それから数日後には模倣品が出回り、俺は商売する前に考えが奪われた。儲けたのは模倣品を作った奴らだけであった。


「……すまん」


 神妙な面をしたオッサンが頭を下げてきた。


「まぁ、仕方がないんじゃない。だけどこれで遊びの幅が増えるんじゃないか?」


 別にお金に困っている訳では無い。四人の知識を上げたいだけである。

 本来の目的に話を戻すことにした。


「取り敢えず明日からサイタマの方へ行こうと思ってるんだけど、今更行く必要があるのか確認したい」


「どう言う事ですか? 師匠」


「そう言えばお前には言ってなかったな。魔王軍四天王の邪心ターレだが、この間俺が討伐した」


 流れる沈黙。

 現実から逃避したいのかオッサンは俯いて何も喋らない。


「じょ、冗談……ですよね?」


 マリーは同意を求めるかのように後ろにいるルノたちを見るが、俺は嘘を言っていない。


「……本当の話だ」


 オッサンが頭を抱えながら言った。

 さっきからなんなの? この茶番みたいなやり取りは……。


「証拠に俺はミスリルプレートになったぞ」


「み、ミスリル! 冗談ですよね、冗談と言って!」


 なんで発狂するかのように言うかな……。俺だってなりたくって成った訳じゃないのに。

 マリーは頭を抱えながら俯いて「これは夢だ……」と呟いている。現実だってーの。


「言い難いのですが、我々はその……倒すところを目撃? してます」


「一瞬の出来事だったッス」


「気が付いたら真っ二つに割れてました」


 追い打ちをかけるかのようにルノたちが順番に言った。

 しかし、目撃のところはどうして疑問符なんだ?


「あは、あはは……師匠は勇者様だったなんて……」


「そこは大いに間違ってる。何度も言うが、俺は勇者なんかじゃない。一般のエルダードワーフだ。それに勇者は現れるのでは無くて育てるんだ」


 壊れかけているマリーに訂正を促した。


「それなんだが、育てるとはどう言う意味なんだ?」


 ようやく現実に戻ってきたオッサンが聞いてきた。


「本当に言葉の通り、冒険者を育てりゃ勝手に勇者になるんだ。マリーが良い例だろ?」


「――へ? なんで私が?」


「俺のところへ来たときは動物相手にも苦戦していた奴が、一年の経たずにオークと戦える剣士となってんだ。それをおかしいと思わないか?」


「そりゃ勇者の加護って奴じゃ……」


「オッサン、考えても見ろ俺が加護を与えられるとしたら、沢山の仲間を引き連れているだろ。だが、俺の周りには奴隷の娘が三人に、姫様が一人。マリーに聞けば分かるが、俺は基本的な事しか教えていないぞ」


「そう考えたら私たちも基本的な事しか教えてもらってませんよね」


 後ろに立っていたルノがカミュたちに問い掛ける。


「たしかにそうッスね。不思議な武器を与えてもらってはいますが、基本的には剣の稽古をしてもらっているだけッスね」


 納得するようにカミュが言う。


「言われてみれば……私も剣しか教わってないわ。あとは基礎体力作りのみ」


 マリーも思い出すかのように言った。


「基本的な事しか教えてねーよ、俺は。しかしオッサンたち考えで言うなら、マリーが勇者ってことになるだろ? 基本的な事しか学んでないのに強くなっているんだから」


「わ、私は勇者じゃないですよ!」


 俺の言葉にマリーは否定する。お前が勇者なら、世界は破滅だ。


「なるほど、育てると言うのはなんとなく理解ができた。では、ギルドとしたらどうしたら良いんだ?」


「新人冒険者に対して基礎訓練を教えてやるのと、基礎体力を向上させる。この二点だな。今は引退した冒険者を雇っているみたいだが、俺からしたらそいつらの訓練は甘い。倒れたら休憩させているんだろ? どうせ」


「……」


 オッサンは腕を組みながら俺を見つめる。


「戦闘中に倒れたら殺されるだけだ。倒れたからって魔物は待ってくれることはない。訓練が甘すぎるんだよ」


「たしかに師匠は倒れても直ぐに起き上がらせて走らせましたよね。腕立て伏せも一日中やらせる日ありましたし……泣いても許してくれないで『ヤレ』の一言だけですもん。休憩なんてお昼の時くらいしかないですもんね」


 地獄の日々を思い出すかのようにマリーは言う。

 やりたくなければやらなきゃ良い。ただ、死ぬのは自分だけだ。


「ギルドが斡旋場だと言うのなら別だが、そうじゃ無ければ死なないように鍛えさせろ」


 オッサンは難しい顔してテーブルを見つめていた。

 今の仕組みを変えるのはかなり難しいだろうが、冒険者を育てなければ同じことの繰り返しだ。

 それは理解しているだけにどうしたら良いのか考えているようだった。


「それよりも先に俺がどうしたら良いのかを考えてくれ。脅威は去っているんだから後のことは自分たちでどうにかできるはずだろ。時間はかかるだろうけどな」


「むぅ……」


 決まったら連絡れれば良い言いと残して俺たちは再び死の森へ向かった。

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