第89話 マリーを鍛えるには
現実は非常にシビアなものである。
俺はギルドマスターのラインハルトのオッサンがいる部屋に通されてしまった。
理由は、あれだけカッコつけて退治してやると言っていたレッドブルを討伐しに行っていないからだ。
ルノとカミュからは「ご愁傷さまです」と言われた。
実際はレッドブルではなく邪心ターレ討伐しているので、カワサキ方面に人を割く必要はない……が、教えていないのだから知るはずもない。
「それで、あれだけ格好つけたのにどうしてサイタマへ行かないんだ?」
「そりゃ……姫様の実力を考えたら連れていけないだろ」
「ライ! その台詞は嘘」
尋問官のナサリまで呼びつけてやがったのは痛い。
「あながち嘘じゃない。彼女に何かあられたら責任取れんよ。俺は」
マリーはただの冒険者じゃない。王位継承権を持った第三王女だ。
俺の言葉に二人は黙る。ナサリは俺が嘘を言ってないから黙っているだけで、オッサンは王女に何かあった場合のことを考えているように思える
「まぁ、オッサンになら本当のことを言っても問題ないか……」
「――本当のこと?」
「邪心ターレはすでに俺が討伐しちまった」
「……は? 今なんて……?」
オッサンは何を言われたのか理解できていないのか、聞き返してきた。
「討伐した」
「だ、誰を?」
「邪心ターレ。これが証拠」
ストレージから証拠となる魔石と三叉の槍を取り出してテーブルの上に置いた。
あと、ついでに俺のゴールドプレートを提出すると、オッサンは慌てて確認するため部屋から出ていった。
「本当に貴方は勇者じゃないの?」
以前にも聞かれた質問をナサリがしてくる。
「前にも言ったが、俺は勇者じゃない。ただの冒険者だ。そんなに勇者が必要なら育てりゃ良いだろ」
「……育てる? 勇者は生まれ持った才能。育てるなんてできない」
「そりゃ違うな。勇者は誰でもなれる。育てりゃ誰だって勇者になる事は可能だ。しかし、条件がある」
「――条件?」
「それは自分たちで考えるんだな。俺が言えるのはここまで」
言い終えるとラインハルトのオッサンが部屋に戻ってきた。
「どうやって倒したんだ! 相手は魔王軍四天王の一人だぞ!」
剣で垂直に真っ二つの一撃。それを言ったら大変なことになりかねん。
「激しい戦いだった。そう思ってくれれば良いと思う」
「ライ! それは嘘」
本当に面倒臭い。
「四人でカワサキに乗り込み倒したんだよ」
これなら嘘にならない。
オッサンから俺の新しくなったミスリルプレートを受け取り、テーブルの上に置いた三叉の槍と魔石を回収して「なるべく早く姫様を鍛えるよ」と言い残して俺は部屋を出た。
ギルドホールで待っていたルノたちと合流して、冒険者ギルドを後にした。
名もなき村へ戻ってきた俺たち。ルノとカミュはレビテーションの練習を始め、ジャンプして着地する瞬間に魔法を発動させるなど、いろいろな方法を試している。
俺ろリリアはアーノルドたちと訓練しているはずのマリーを確認しに行くと、二人は意気投合しているかのように談笑していた。
「そのまま仲間になったらどうだ? マリー」
「師匠! お戻りになっていたんですか!」
「剣の稽古をしないで何を話していたんだ? これではいつになってもサイタマなんかにゃ行けやしないぞ」
「今ならリリアに勝てると思うんです!」
「なら、戦ってみりゃ良い。俺はリリアが勝つと思うがね」
木剣をリリアに渡し、リリアは構える。アーノルドとマリーは木剣を構える。二対一で戦うようだが、身体能力的にリリアが勝つと思う。
二人が同時に攻撃を仕掛けてきてリリアは防戦一方だった。だが徐々に形勢逆転していく。
しばらくしてアーノルドが体力の限界が来て尻もちをつくと、あとは一方的にリリアがマリーを打ち負かした。
「ハァハァ……。私の勝ちです! カミュ先輩に比べたら二人なんて赤子同然ですよ」
俺からすればカミュも赤子同然なんだがな。
悔しそうな顔をしてマリーは立ち上がった。
俺たちは家に戻るルノとカミュ二人は魔力切れでダウンしていた。
これで多少なりともMPが上がっているのなら良いのだが、ステータスを見た限り上がっていなかった。
身体能力を上げるにはレベルを上げたほうが早い。
明日は死の森で経験を積ませよう。
翌日、マリーがアーノルドのところへ行こうとしたが、ルノが止める。
「姫様、今日の訓練は実戦らしいので旅の支度をしてください」
「実戦? まぁ、分かったわ。準備してくるね」
そう言ってマリーは旅支度を始める。ルノたちも旅の支度を始め、昼前には死の森へ行くことができた。
「数日は戻らない。そのことを肝に命じるように」
俺の言葉に四人は元気よく返事をして、俺はテレポートの魔法使うと家の前だった風景は一瞬で森の中へとやってきて、マリーは険しい顔をした。
もしかしたらまだ心の傷が癒えていない可能性はあるが、俺には知ったことではない。
三人は見慣れた光景なのか、そこまで警戒した様子はない。取り敢えず昼にしようと話をすると、三人は薪を集めに散らばり、マリーはカミュの後を追いかけて行った。
それから数日、リリアとマリーを前線に配置して魔物と戦わせている。以前に負った心の傷のせいでぎこちなかったマリーだったが、今ではそんな事を忘れたかのように戦っていた。
ステータスを見てみると、二人ともレベルが上がっていた。
ステータス
名前:マリー ※マリエル=フォン=テンノウ
年齢:17歳
種族:ヒューマン
冒険者ランク:Cランク メタルプレート
ポイント:70
Lv:16
HP:102
MP:66
STR:85
AGI:71
DEX:59
VIT:73
INT:62
【スキル】剣技レベル5・射撃レベル3・弓レベル1
【魔法】生活魔法(清掃・掃除)
ステータス※奴隷
名前:リリア 年齢:16歳
種族:獣人ハーフ
冒険者ランク:Dランク ブロンズプレート
ポイント:110
Lv:22
HP:222
MP:21
STR:152
AGI:173
DEX:80
VIT:205
INT:28
忠誠心:70
【魔法】生活魔法(清掃・掃除)
【スキル】剣技レベル7・弓レベル1
ルノとカミュに習いながら練習していた弓だが、二人とも的に当たるようになってきていたので、弓レベルが上がったようだ。
できることなら魔法を教えてやりたいのだが、教え方が分からない。魔力の通し方なら何となく理解できるが……。
しかし、四人とも知性が低い。何かしらの勉強をさせた方が良いだろう。だが、どうやって勉強させるかが問題である。
そう言えば何かの本で読んだことがある。将棋は集中力や判断力、記憶力など鍛えることができるとの話だ。
大木を一本斬りストレージの中へ仕舞い込み、乾燥させる。ノミとキリ、彫刻刀などを使い駒を作っていく。ルールは俺の記憶で決めれば良いだろう。
「ご主人さま、何を作られているのですか?」
「お前らの勉強道具だよ」
四人は嫌そうな顔をした。
「遊びながら勉強するのなら、気持ちが楽になるだろ」
「そのような遊びがあると?」
あるから作ってくんだよ。




