第8話 メニュー画面
「あの性格なため、我々がお目付け役となり、お嬢様に危険がないよう見張っているのです」
見張っている割には、エレンの魔力量に問題があるよう思える。
「じ、じゃぁ……ギルドが言う問題がある理由って……」
「多分ですが、お嬢様の身分だと思いますし、あの性格ですから、ギルドでも人選しているのかと思われます」
「ちょ、ちょっと待ってください、俺はどういった理由で選ばれたんですか!」
「ギルドの受け付け嬢曰く、山育ちでそこら辺の常識を知らないとの話でしたが、思っていた以上に常識人だったので、こちらも驚いてます」
セリナは驚いていると言っているが、まったくそうは見えない。
「そりゃあ、いくら山育ちだからといっても、貴族については少しくらい知ってますよ!」
「昨日、実力は確認させていただいており、かなりの手練れだということと、我々がお嬢様の機嫌を取らずとも、キョスケ様が対応していただいたので、合格と判断させて頂きました。それと、取り分に関してですが、集団で行動しているから山分けするところも好印象でした」
魔力切れは嘘で、俺の実力を測るための芝居だったようで、どこまでお人好しかもチェックしていたようだが、正直、気に入らない。
「キョスケ様を試すような事をして申し訳ありません。しかし、我々としてもお嬢様の安全を考えなければなりません」
顔に出ていたのか、セリナが謝罪してきた。
言わんとしていることが理解できてしまうため、何も言うまい。
「分かりました。取り敢えず、俺は合格ってことですかね?」
「魔法適性や人柄に関しては合格です。次は腰にぶら下げている物の実力を確認させていただきたいと思っています」
腰にぶら下げている物とは剣のことである。前衛と後衛の両方ができると言ったから、その実力を測るためのオーク討伐なのだろうが、もう少し分かりやすくテストしてほしいものだ。
「取り敢えず、今後に関しては保留とさせていただくとして、今回の依頼であるオークは何処にいるんですか?」
ランクを上げるためパーティに参加しただけで、今後も一緒に行動するつもりはなく、基本的にソロで動きたい。
「街道沿いの森にオークが出没するとのことで、その調査と出没した際に討伐する依頼です」
今後についてと言ってるのだが、セリナは気にしている様子がなく、それ以降、セリナが話かけてくることはなかった。
俺たちは黙って目的地に向かっているかと言うと、そうではなく、カレンが俺に対してどの様な生活をしてきたのか質問をしてきて、俺は頭を捻りながら嘘を並べて答えていた。
「カレン様、そろそろ目的地です」
地図をみながらエレンが言った。
「む、そうか。昨日は任せっきりだったから、今日は私が頑張ろう」
口調は真剣に言っているのだが、顔は綻んでいるのが残念でならない。
目的地の街道沿い側にある森へと到着したが、カレンたちは気配察知のスキルなどを持っていないため、これからどうするのか話し合いを行い始める。
スキルを持っている俺には、何処ら辺に魔物がいるのか分かっているが、口出しして何か言われても困るため、黙って様子をみることにした。
聞き耳をたてて三人の会話を聞いていると、これからどちらへ進むのか話し合いしており、どうやら俺に意見を求めてくることはなさそうだ。はっきり言って暇である。
メニュー画面でも開けるなら、少しは暇つぶしになるだろうと思っていたら、目の前にゲームと同じメニュー画面が現れて、俺は言葉を失った。
名前:四ノ宮京介 年齢:24歳
種族:エルダードワーフ
Lv:8
ステータスポイント:40
資金:999億9999万9999ガルボ ※表示上限を超えています。
【メニュー】ストレージ・鍛冶・調合・ステータス・同伴者ステータス・奴隷・《NEW》お告げ
どう言うことだろうか? どうして突然、メニュー画面が現れたのだろうか……。しかも、ゲーム内では無かった『お告げ』や『奴隷』とは、一体なにでどう言う意味だろうか?
それに、この資金は……。『ガルボ』とは、ゲーム内での通貨名であり、魔物や動物を仕留めた際に手に入る金貨であるが、これが本当に金貨だったとしたら俺はとんでもないほどのお金持ちになったと言うことだ……が、どうやって取り出すのか分からない。
メニュー画面はタッチパネルのようになっているため、俺は『資金』をタッチしてみると、メニュー画面が変わって幾ら取り出すのか聞いてきた。
試しに1ガルボだけ取り出してみると、突然目の前に金貨が現れ、俺は慌てて両手に包み込むように金貨を掴んだ。
出てきた金貨は見る限りこの世界の金貨と同じだったが、偽物の可能性があるため本物かどうか調べるために鑑定スキルで確認しなければならない。
「鑑定……」
あちらで話し合いをしている三人に聞かれるわけにはいかないため、小さな声でスキルを使ってみる。
【鑑定結果】
個体名:金貨
説明:この世界の通貨。銀貨100枚分に相当になる。
鑑定結果を見て、俺は再び言葉を失った。
俺は一瞬で金持ちになったのか? もしかしたら、この世界は金貨を稼ぎやすいのかもしれないため、後で三人に聞いてみることにするが、鉄の剣を売った際は金貨5枚で買い取ってもらったはず……。
もしも稼ぎやすいとしたのなら、安値で買い取られた可能性もあるな。でも、最弱の剣だから金貨で買い取ってもらえただけでも感謝しておこうかな。しかし、明日から仕事しなくても良いのはラッキーだ。
次は謎に主張している【お告げ】だ。これと奴隷の二つはゲームに存在していないため、何の意味だかさっぱり理解できん。
【お告げ】
『四ノ宮京介よ、儂はお主をその世界へ送った神じゃ。汝が求めていたセーブデータを全て反映しておいた。これを読んだ時点で、メニュー画面からこのお告げは消えるようにしてある。これで儂がしてしまった失敗は帳消しとさせてもらう。この世界ではお主のステータスに匹敵するものなんておらんじゃろうて、ステータスポイントは仲間にでも使ってやるが良い。最後に、その世界の文明は、お主が居た世界で言うと中世に近い文明であり、奴隷制度がある。奴隷になることは進めんが、汝が奴隷になりたくば奴隷になることも可能じゃ。後は好きに生きるが良い。達者で暮らせよ。神より』
粋な計らいを……。
お告げから画面を戻してメニューを見ると、記載してあった通りに【お告げ】が消えてしまった画面になった。
後はストレージ内の確認と、ステータスの確認だけだ。
ステータスはっと……。
【ステータス】
名前::四ノ宮京介 年齢:24歳
種族:エルダードワーフ
冒険者ランク:Eランク アイアンプレート
商人ランク:Eランク商人
ポイント:40
Lv:8
STR:65,550
AGI:65,555
DEX:65,561
VIT:65,549
INT:65,542
あれ? ステータスが上がっている。ゲーム内では、最大で65,536のはずなのに、それ以上になっているぞ? もしかしたらレベルがMAXじゃないから上がったのだろうか。考えるだけ無駄だろうな。
奴隷については考えるのをやめておこうかな。やだやだ……奴隷社会ってやつは……。残りはストレージ内だが、これはマジックバッグ内にある物以外が収納されてあったのは助かった。
鍛冶・調合については持っている素材を使って何でも作れて、武器や防具の付与も付けたいだけつけることが可能だ。これで商業ギルドの鍛冶場を使わなくてもよくなったぞ!
「――スケ!」
火薬もストレージ内にあったから、あの武器も作ることができるぞ!
「おい、キョスケ! 聞いているのか! いったい何をしているんだ?」
「へ? あ……いや、べ、べつに……。ど、どうしたんですか?」
どうやら呼ばれていたらしくキョドってしまった。恥ずかしい。
「どうしたも糞も無い! 移動すると言っているんだ置いていくぞ!」
話を聞いていなかった俺に、カレンは少し怒って歩き始めた。でも、そっちには魔物や動物はいないぞ。
三人の後ろを黙って付いて行くのだが、まるで戦闘を避けているかのように日が暮れるまで歩き続けた。
二日続けて戦うことができなかったカレンは機嫌が悪く、何事も起きなかったことで二人は安堵の表情を浮かべている。
町の入り口まで戻ってきたところでカレンが俺の肩をつかんだ。ちょっと痛い。
「キョスケ! 明日こそはオークを討伐するぞ!」
できればその言葉は聞きたくなかった。
「えっと、明日ですか……?」
「そうだ、明日こそはオークを討伐するぞ!」
満面の笑みで言われても、嫌そうな顔して首を振っている二人を見てほしい。
「申し訳ないですが明日は別のことをやりたいので、キャンセルさせてほしいです」
俺の言葉にカレンは目を見開いて絶望的な表情をする。
「キョ……キョスケ、依頼をこなさないと……ランクが上がらんのだぞ」
知っているよ、馬鹿にするな。
「分かってますが、明日は勘弁してください」
カレンは「そうか……」と呟いて、とぼとぼと歩き始めギルドで別れるまで黙っていた。
「では、キョスケ……またな」
ようやくカレンたちと別れることができて、俺は機嫌良く宿屋へ戻ったのは言うまでも無い。