第75話 脱退
四人にはとにかく走らせる作業をさせていると、ラインハルトのオッサンが俺のところへとやってきた。
「よう、シノミヤ」
「オッサンか……。何か用でもあるのか?」
「用ってわけではないが、いったい何をやらせているんだ?」
「ブートキャンプ」
「ぶーと……キャンプ?」
「ギルドが若手を育成してくれないので俺が勝手に訓練をさせているんだよ」
「育成って、学校があるだろ」
「坊ちゃん嬢ちゃんが通う学校じゃなくて、俺の下で働ける奴を教育してるんだよ。あんな学校で強くなれるのなら、みんなが強くなっているし、俺はすでに卒業させられちまったんだ」
「その割にはお前は何もしないんだな……」
「ドラゴンを倒せる奴が訓練するのか? 教える方だろ……普通に」
そう言うとラインハルトのオッサンは「たしかに……」と言って、俺の隣に座った。
「なんで走らせているんだ?」
「持久力が足りないからだ。とにかく何から逃げるにしても、持久力が物言うし、攻撃にも持久力が必要だ。とにかく体力をつけなければ意味がないだろ」
納得するラインハルトのオッサン。
「それでオッサン、本当は何の用だ?」
「いやぁ……」
俺に対して負い目があるためオッサンの歯切れが悪い。
「何かの依頼か?」
「……ジョアンさんのところに卸した物について、ギルドにも卸してもらえないか?」
「車を?」
「あの乗り物はクルマって言うのか? 人が大勢乗れる乗り物が欲しい。しかも強度の高い物が」
「作っても良いが、あれは特殊な運転操作が必要だぞ。しかも金額はかなり張る」
「いくらになる」
ここは吹っ掛けてもよさそうだな。ジョアンの奴にはルノとカミュの購入分などもあり、負い目を感じていた部分があった。だがこのオッサンには全くない。
「金貨一億枚だな。使われている素材が魔石にミスリルとオリハルコンだからな。安くても……五千万枚になる。理由はミスリルを使っているのと、魔石を使っていることだ。いやならジョアンさんに分解させてもらって自分らで研究してみたらどうだ」
遠回しに嫌だと言っているのである。
「それは吹っ掛けすぎだろ。ジョアンさんには五千枚だ。せめて一万枚ってところじゃないか?」
「嫌ならジョアンさんのをバラシて研究材料にしてみたら良いだろ。俺が一億と言ったら一億だ」
横目でオッサンの顔を見ると、オッサンは青ざめている。それほど必要だったのか?
そして無言でオッサンは立ち去った。これでしばらくは寄ってくることはないはずだ。
「師匠、いつまで走らせるんですかー! ゼーハー……」
「ご主人さま……ルノは足がパンパンになりそうです……ハァハァ……」
そろそろ止めても良いかな。
そう思っていると、四人は力尽きるように倒れてしまった。まるで電池の切れたロボットのように。
今日の訓練はここまでにして家へ戻ると今度は兵士が俺の家の前に立っていた。
「家に何か用事でもあるんですか?」
兵士は何も喋ることなく俺に一通の手紙を差し出してきたので受け取ってみると、王宮で開催されるパーティーの招待状だった。
「これはマリー宛だね。気を付けて里帰りして来いよ」
「ちょっ、これには師匠の名前も記載されてありますよ!」
「ルノとカミュが行けないのであれば、俺は行かない。そう言うことだからよろしく~」
そう言って手をヒラヒラと振って俺は家の中へ入る。ルノとカミュは急いでお風呂の支度にとりかかる……と言っても、ボタン一つでお湯が張るのだから簡単なお仕事である。
俺はソファーに座って一息つく。
「死の森……ねぇ」
「あの森の魔物は強かったっスね」
戻ってきたカミュが隣に座って言う。お前らが弱いだけだと言いたかったが、言ったら負けのような気がして言わなかった。
それにしても別の場所が空いているのに何で俺の隣に座るのだろうか?
「で、マリーはどうして家に帰らないんだ? 招待状がと言うよりも、お前は王位継承権を持っているんだから戻らなきゃ駄目じゃないのか?」
「師匠が行かないのに行く意味がありません」
あっそ、好きにしてくれ。俺に迷惑をかけなければ問題ない。
まったりした時間が流れていると、グレイスが俺のところへやって来た。
「キョースケさん、申し訳ないんだけど防具を作ってくれませんか?」
ようやく防具の良さに気が付いたか?
「実は防具を買うお金が無くて……」
俺はガクッとしてしまった。
「グレイス様……まことに申し上げ難いのですがご主人さまの武器や防具は、金貨50枚はくだらないですよ」
ルノの言葉に驚いた顔をするグレイス。
「ボッタクリ過ぎませんか!」
その台詞に一同驚いた顔をしてグレイスを見た。
俺が作る物はボッタクリ価格ではない。断じて違う。
仕方がないので盾だけ作ってやりると、グレイスは盾を持って何処かへ行ってしまった。
「師匠の作る武具はレア品だって教えてあげたほうが良くないですか?」
「すでに教えてるッスけど、聞く耳を持たないッスよね」
それから数日後、グレイスは俺があげた盾ではなく、別の盾を装備しておりルノやカミュがどうしたのか聞いたところ、教えてくれなかったらしい。代わりにマリーが聞いたら売っ払って新しい盾を購入したとのことだったが、店の者曰く俺の作った盾は粗悪品と言われて安値で売っ払ったとのことで、グレイスはマリーに「しっかりした店で買った方が良いぞ」と変なアドバイスをしたとのこと。
もう二度とアイツには武具をくれてやるつもりはないだろう。
それから筋トレとランニングをさせる日々が続けさせていると、グレイスがキレた。
「いい加減筋トレとランニングばかりやらせないでくださいよ!」
「嫌なら別のパーティに移れば?」
マリーが挑発するかのように言った。マリーとしても筋トレばかりは嫌なはずだが、どうしてだろうか?
「マリーだって筋トレは嫌だろ!」
「師匠には師匠の考えがあるはずよ! 私はそれを信じてる!」
「だったら毎日筋トレでもやってろ! 僕は僕の冒険をやっていく!」
そう言ってグレイスは俺の家を出ていく。ルノやカミュの二人はマリーとグレイスの言い合いを止めることはせずに黙って見ていた。
二人は何か目配せしてしていたのが気になり、その夜、ルノを部屋に呼び付けた。
「ご主人さま、ご要件とは?」
「気になったんだが、どうしてグレイスを止めなかったんだ?」
少し困った顔をするルノ。何か言い難いのだろうか?
「正直、私とカミュはグレイス様に好かれておりませんでしたし、我々のご主人さまのことを悪く言う人を引き止めるつもりはありません。それに物を見る目がない人でしたし、態度が失礼でしたので。ご主人さまが毎日筋肉トレーニングや走らせるのには何かしらの理由があると私どもは思っております」
「にゃるほど……」
「それよりもご主人さま……今日はご奉仕しても良いですか?」
ルノの目が少し妖しく光ったような気がしたが、最近ご無沙汰だったのでご奉仕してもらう事にした。




