第71話 荷車
死の森と言われている理由として、魔王軍の四天王がいるカワサキと隣接していることが上げられている。
別に俺は勇者ではないので討伐なんか考えてはいないが、降りかかる火の粉は払うべきだろう。
それが俺一人であれば簡単にできるが、今はルノやカミュ、マリーにグレイスまでいる。
最悪の場合、グレイスとマリーの二人はパーティから追い出すのも有りだろうが、ルノとカミュの二人をどうにか鍛えなければならない。
できることなら穏便に済ませたいので、四人に危険性を説明する……が、四人はついてくると言い張って聞く耳を持たない。
逆に考えれば行かないという選択肢もあり、俺はそれを選択しようとしたのだが、マリーが言う俺の土地という台詞にルノたち三人は踊らされ行くと言い張る。
この世界に来て少しずつ分かってきたのだが、ゲーム内のバランスと現実のバランスが合っていない。レベル100程度なければサイタマのボスであるレッドブルを倒すこともできないし、オクタマの森にいる魔物とも戦うことができやしない。バランス的に世界が狭すぎるのである。
だから鉱山が手付かずの状態になっており、俺が取りたい放題の状態なのだろう。世界の何処かで勇者が誕生しているかも知れないがこの大陸に来るまでどれほど時間がかかるのかも分からない。
いや、今はそんなことを考えるより先に、この四人をどうにかするのが先決だろう。
先ずはマリーとグレイスの二人が一人でオークを倒せるレベルになってもらわないといけないし、ルノカミュの二人はグリズリーを一人で倒せるだけの勇気を持ってもらわないと駄目だろう。
今のルノとカミュのステータスであれば、グリズリーくらいは倒せるはずである。あとは防具を新調するしなければならんだろう。
桜生地の素材以外はほとんど揃っているので、先ず先に目指す場所はネリマ山にしよう。
グレイスの装備も新調させなければならないが、本人が理解するまで待つ必要がある。
あー……のんびりとした生活を送りたいのにどうしてこうなってしまうんだろうか。
「先ずは新しい防具を作るためにネリマ山にある洞窟で桜蜘蛛の糸を取りに行く」
俺が宣言するかのように言うと、マリーとグレイスの二人からいろいろ駄々をこねられるが、そこの魔物ですらお前たちでどうにかできるとは思えない。先ずはそこの魔物を倒してから文句を言えと言いたい。
時間は沢山あるので乗り合い馬車に乗ってシンジュク町を目指す。本当は魔法で移動しても良かったが、それでは味気無いのでやめた。
乗り合い馬車が終点の村に到着したので俺たちは歩きでシンジュクの町へ向かう。グレイスの鎧がカシャカシャ鳴っているため動物たちは逃げていくので食料を手に入れるのも一苦労になってしまう。
「グレイス、その鎧はどうにかならないの?」
マリーがグレイスに聞く。どうにかすると言うのはどういう意味だ?
「いくらなんでも、この装備をどうにかできやしないよ。それなりに高かったんだから」
「高いからとか関係ない。その音がうるさすぎるのよ。できる事なら脱いでくれない? 動物すら逃げていくわよ」
「え? そうなの?」
今更気が付いたのかよ……。
「じゃあ、防具はどうすれば良いって言うんだ?」
「師匠に作ってもらえば良いじゃない」
「シノミヤさん……にか?」
前から言っているが聞く耳を持たないのがグレイスである。
「都でそれなりの店で購入したんだ。シノミヤさんに作ってもらう必要はないよ」
これである。一度痛い目に合わないと分からないタイプだろう。街道を歩いていると、カミュが何かを嗅ぎ取った。
「――血の臭いがするッス」
「血の臭い?」
「この先で何か良くないことが起きてるッス!」
カミュが武器を手にして駆け出したので、俺たちも追いかけるように駆け出した。俺の気配察知には魔物の気配などしていないし、人の気配も無かった。
カミュの嗅覚はかなり良いということなんだろう。
「その臭いはどのくらい先なんだ?」
「あの丘を越えた先っス」
丘の方というとだいたい二キロ先になる。鮫とは言わないが、かなり広い範囲の臭いを嗅ぎ分けてる。
しばらく走っていると、マリーとグレイスがダウンして歩き始めた。体力が無さすぎるだろ。
それから少しして人の気配を察知したのだが、どうもおかしい。人の気配しか感じられない。
丘を越えて見えたのは馬車を守っている人と囲んでいる人たちであった。どうやら魔物に襲われているようだ。
「ルノとカミュはそこから援護射撃! 俺はそのまま馬車を守っている人たちを加勢する」
二人に指示を出して俺は一気に加速させてゴブリンに飛び蹴りをかます。もちろん手加減はしている。
馬車を守っている人たちやゴブリンの奴らは驚いた顔をしていた。馬車を守っている人以外の奴らに対して俺は目にも止まらぬ速さでゴブリンを斬り裂いて、魔物を全て始末した。
辺りを見渡すと何人か怪我をしている人たちがいるようで、ストレージからポーションを取り出して怪我人にぶっ掛けると、傷がみるみる塞がっていく。
「何者だ!」
馬車を護衛していた人たちが俺に剣を向けてくる。
「待て待て俺は味方だ。他に怪我人はいないか?」
味方と言われホッと息を吐く護衛していた人たち。何人か怪我をしていたのでポーションを分けてあげた。
「ご主人さまー! 無事ですかー!」
ルノとカミュが走ってやってきた。
「援護しろとか言っておきながら一人で倒すんッスから……」
呆れながらカミュが言う。
それからしばらくしてマリーとグレイスが到着した。
「あの馬車の荷物や御者は無事ですか?」
荷物の話をしたら、難しい顔をされてしまった。何を運んでいる最中だったのだろうか。
「おぅ! このような場所で出会えるなんてぇ、私、物凄くツイてます!」
何処かで聞いたことのある声だ。
荷車からヒョッコリ顔を出したのはシンジュクの町で奴隷商館を開いているジョアンだった。
「お久しぶりでぇす! シノミヤ様!」
「久し振り、もしかして積み荷って……」
「そのぉとおりでぇす! 新鮮な奴隷でぇすぅ」
やはり奴隷か。
「シノミヤ様にも護衛をお願いしまぁすぅ!」
断りたいが、断ったら厄介なことが起きそうだ。
「分かったよ。シンジュクの町までで良いんだな?」
俺の言葉に大喜びするジョアン。しかし、荷車を引く馬が殺されている。
「ジョアンさん、どうやって荷車を運ぶんだ?」
「シノミヤ様ならぁどうにかできるぅと、思いますがぁ。なにやら珍しい乗り物ぉをお持ちのようですがぁ……クックック……」
どこまで知っているのか分からない。だが、ジョアンは俺の車のことを知っているようなので隠しても無駄だろう。俺はストレージから車を取り出した。
荷車改造を施し、改造した荷車を車に括り付けた。荷車にリアカーを取り付け、護衛者たちとグレイスはリアカーと荷車に乗り込ませ俺たちは車を発進させた。
それから二日ほど経ち、シンジュクの町へ辿り着きジョアンの屋敷へと向かった。




