第6話 伝えろよ
翌朝、起きてから大切なことに気が付き、素泊まりの宿に後悔を覚える。
「お風呂に入りたい」
素泊まりの宿屋には、お風呂が設置されていないらしいが、素泊まりじゃない宿屋も風呂があるとは限らない。
しかし、髪くらいは洗いたいので、洗面場がある場所を聞き、マジックバックから石鹸を取り出して頭と顔だけ洗い、多少は気が楽になった。
今日は冒険者パーティを紹介してもらう予定なので、急いで身支度を整えて冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに到着し受付嬢に話かけると、少し待つように言われ、適当な席に案内されて、椅子に座って待っていると、受付嬢が誰かを連れてきた。
「こちらの方が貴女方のパーティに興味がある人です」
そう言って連れてきたのは女性冒険者たちで、俺は少しだけ萎縮しながら立ち上がった。
「あ、あの、四ノ宮京介と言います」
取り敢えず自分の名前を名乗った。
「私はカレン。こう見えてもパーティリーダーだ」
鎧で身体つきは分からないが、顔はかなり可愛い。
カレンの後ろには、魔法使いらしき男性と、僧侶らしき女性が立っているが、こちらを品定めしているような目で見ている。
「えっと、昨日冒険者に登録したばかりなんですが、張り紙を見させてもらい、メンバーに入れてもらいたくて……」
「そうか……その格好を見ると、君は前衛職なのか?」
前衛職かと聞かれても、どちらでもできるので両方できると答えると、カレンと名乗った女性は、少し驚いた顔をした。
「ですが、冒険者になったばかりなので……」
苦笑いしながら言うと、カレンは大きく頷いた。
「まだ適性を理解してないと言うことだね。大丈夫、慌てないで理解していこう」
どうやら仲間に入れてくれるようだが、適性とはなんだろうか?
取り敢えず理解したフリをして、頷いてカレンと握手を交わすと、魔法使いの男性が自己紹介をしてくれた。
魔法使いはエレンという名前らしく、僧侶の女性はセリナという名前らしい。
「この後の予定が無ければ、洞窟へゴブリン退治に行く予定なんだ。大丈夫かい?」
「はい、特に予定は入れてませんので問題ありません。よろしくお願いします」
そう言うと、カレンは嬉しそうに頷いたが、受付嬢が言う、クセがあるとは一体なんだろうか……。
町を出て森へ入ると、道無き道を歩いていく。
魔法使いのエレンと僧侶のセリナの二人は、服が枝に引っ掛かり歩き難そうにしていたが、鉄の鎧を装備しているカレンは、気にしないで進んでいく。
俺も服を枝に引っ掛けるが、エンチャントで破れ防止を付与しているため、気にしないでカレンに着いていく。
二人は俺とカレンが通った道を歩くようにしたら、遅れずに付いてこれるようになった。
「この先にゴブリンの巣くっている、洞窟があるはずだ」
カレンが俺に言ってきた。
「洞窟に巣を作っているんですか?」
「どうやらそうらしい。薬草採取に行った、Eランク冒険者たちが発見したようだ」
俺が発見したのなら、そのまま潰してそうだけどな。
「洞窟ってことは、剣での戦いには不向きじゃないですか?」
「私は問題ない」
俺の質問にカレンが答えるが、後ろを歩いている二人を見ると、二人は苦笑いをしており、魔法主体の戦闘になるのかもと思い、カレンに質問する。
「カレンさんは、どのような魔法を使えるんですか?」
見たところ、カレンは人族のようだが……。
「残念だが私は微量な魔力しかなく、魔法を使うことはできないんだ」
完全に戦力外である。
しかし、魔法が使えない者もいることがわかった。
それから暫く歩き、カレンが止まるように言ってきた。
「もう少しで目的地に到着する。私が偵察してくるから、ここで待っていてくれ」
カレンはそう言うと、茂みの中へ一人で入って行き、俺たちは適当な場所に腰をおろして、カレンの帰りを待つことにした。
待っている間は周囲に気を配る必要があるため、交代で見張りをすることになったが、俺には索敵スキルがあるので、そこまで気を張る必要がない。
しばらく身を潜めるようにして帰りを待っていると、高揚した様子でカレンが戻ってきた。
何故にそこまで高揚しているのか分からないが、興奮しながら偵察してきた内容を説明してくる。
しかし、カレンは嬉しそうにしており、俺は不思議に感じて、それとなくエレンに聞いてみると、カレンは戦闘狂らしく、戦闘ができることに興奮を覚えるとのことだった。
それにより、どんな魔物相手でも戦いを挑もうとしてしまうためパーティ離れが激しいらしく、上級ランクの冒険者には避けられているとのこと。
下級ランクだったなら、どうにかなるかも知れないとのことで募集したようだった。
それに引っ掛かったのが俺らしい……。
カレンの案内で、ゴブリンが巣食っている洞窟付近に到着する。
洞窟の入り口は思っていたよりも広かったが、剣を振りかぶるのは難しそうな広さに感じる。
俺たちは作戦を立てることにしたのだが、洞窟では剣が振れないため、カレンは戦力外なのである。
誰かがそのことをカレンに伝えないといけないが、エレンとセリナは黙ったままで、仕方がなく俺が伝えることとなったのは言うまでもない話であった。