第65話 文無し
王宮から馬車を出してもらい家に帰ったのだが、マリーは本当にカミュを自分が泊まっている宿屋へ連れて行ってしまった。
「じ、自分勝手な奴だな……」
もしものためにカミュには金貨1枚を渡しておいたが、カミュ、買い食いとかしないよな。
「カミュがいるから大丈夫だとは思いますが……。一緒に暮らすのは如何なものなんでしょうか……」
あの後、俺は本当に一緒の家で暮らして良いのかと王様に確認をとった。一国の姫様を俺なんかが預かっても良いのか疑問だったし、王様が駄目だと言ってくれることを期待したのだが無駄だった。
本人が構わないと言っているから問題ないと言われ、もしも間違えが起きた場合はどうするつもりだと言った。
するとマリーが「冒険者なのだから自己責任に決まってるじゃない」などと抜かして、全員が唖然としてしまい王様は何も言える状態ではなかった。
マリーは赤髪で目がクリっとしており、学校で言うならば三番目くらいに可愛いと言われるレベルだろうが、ラブレターの数は一番貰いそうな娘である。
皮の鎧を装備しているため胸の大きさは分からないが、身長は150センチほどあるだろう。ルノと背丈は変わらないが、カミュよりかは若干高い。
家に到着すると警備をしていた兵士の姿はなく、代わりに隠密のような輩の気配がした。
陰ながらマリーを見守っていると言うことなのだろうか。もしかしたら違うのかもしれないため、気にしておくことにした。
夕方になった頃にカミュがマリー連れて戻って来た。
別に連れ帰らなくても良かったのに……。
マリーが家に到着して開口一番「思っていたよりも小さいわね」だった。どんな豪邸を想像してやがったんだよ。
「部屋の広さは宿屋の部屋と変わらないのね。安心したわ」
いい加減ブチギレそうになる。
「だったら宿屋へ戻れば良いじゃんか。俺は一緒に住んで下さいってお願いしてねーぞ。嫌なら出てけよ」
「もうチェックアウトしたんだから無理に決まってるじゃない。まさか女の子一人にさせるつもりなの!?」
「文句を言うなら一人にさせるつもりだ。布団で寝れることだけ感謝しろ。寝られないやつだってこの世にはいるんだぞ」
「なによ、私が邪魔みたいな言い方するじゃない」
「実際に邪魔なんだよ! なんで俺がお前のような小娘の面倒をみなきゃなんねーんだよ! 王女なら籠の中の鳥でいれば良いだろが!」
不満が爆発した。
「私だって好きで貴方の仲間になった訳じゃない!」
「だったら何で了承したんだよ!」
「お父様から言われたからでしょ!」
「冒険者なら何が起きても自己責任だって、テメーで言ったんだろ! どうせ金でも尽きかけているんじゃねーのかよ」
「なっ! ち、違う……わよ」
どうやら図星だったようだ。
「なら宿屋へ帰れ!」
「分かったわよ! 宿屋へ戻れば良いんでしょ!」
部屋に置いた荷物を取りに行こうとするマリー。
「無銭飲食などしたら奴隷落ちだ思え。一国の姫がやることじゃないんだぞ。自己責任と言い放ったのはオメーだぞ」
「だったら……どうすれば良いのよ!」
「素直に謝罪とお願いをすりゃ良いんだよ! お金がありません! 助けてください! って言えば良いんじゃねーか」
「言えるはずがないでしょ! 私は王女なのよ!」
「そんなくだらねープライドで飯が食えるのなら、一人でどうにかしやがれ!」
「言われなくったって!」
そう言ってマリーは家を出ていく。
「ご主人さまヤバイッスよ! 王女様、宿屋の代金を滞納してたッス。私がご主人さまから貰っていた金貨で立て替えたんス!」
すでに詰んでいる状態だったのかよ……。
「カミュ、取り敢えずお前だったら居場所がわかるだろ。無理矢理にでも連れ帰って来い。金を返してもらう」
「りょ、了解っス!」
返事をしてカミュは大急ぎでマリーの後を追いかけた。俺はその間に晩飯の準備をルノと一緒にしておくことにした。
食事の準備が完了したころにカミュがマリーの後ろ襟を掴みながら戻ってきた。
「……お前、すでに詰んでるじゃねかー」
「べ、べつに詰んでなんて……」
「宿屋の代金払えてなかったそうじゃねーか。あのマルクスってやつはどうやって生活をするつもりだったんだよ。冒険者をやめてお城へ帰った方が良いんじゃねーのか」
「嫌よ! 私は見たことのない世界を見たいの!」
「金を払えなければ奴隷行きで見たことのない世界が見れるがね。取り敢えず部屋に戻って荷物を置いてこい。先ずは飯にするぞ」
俺は指を鳴らすと、カミュがマリーの後ろ襟を掴んで部屋へと連れて行き、マリーを室内へ放り込んでからリビングへやって来た。
「ご苦労」
「ウッス」
短いやり取りだがカミュとのコミュニケーションの取り方が分かった気がする。
しばらくしてマリーが俯きながらリビングへやって来た。
「席に着け。飯にするぞ」
そう言うとマリーは無言のまま席に座り俯いていた。
「早く食べて、風呂入ってさっさと寝ろ。明日からどうするのか決めるから」
俯きながら頷くマリーは、何も喋らず食事を食べ始めた。俺はカミュの顔を見ると、カミュは残念そうな顔して頷いた。
「――始めはアイアンプレートから始めるのは知ってるでしょ」
一人語りが発動したようだ。
「私も同じようにお使いや採取の依頼を受けてたの。お金はお小遣いから使って宿屋とかに泊まってたわ。一年もすれば低ランクの依頼を受けていたらギルドから信頼を得ることができてブロンズになったの……」
長ったらしい話を聞かされた。しかも泣きながらだ。簡単に内容を説明すると、最初は小遣いで生活をしていたがランクが上がったのでようやくゴブリン退治をしようとしたところ、マルクスに危険だから止められてしまったとこと。メタルプレートになったらゴブリン退治にっても良いと言われたのがこの間。すでにお小遣いも尽きかけていたそうだ。しかもマルクスの飲食代も王女である自分が出すべきだと言われたとのこと。マルクスに都合の良くあつかわれた訳である。
「だから俺に依頼が来たというのか? おかしいだろ……」
「多分、影の者からお父様へ話が行ったんだと思う。信頼のおける冒険者ということで貴方へ話が行ったんだと……」
影の者とは俺の家を見張っている奴らのことだろう。
そいつらが一年間見張っていた結果を先日王様へ報告し、実力者を探したところ、ドラゴンを仕留めオークの集落も仕留めて多くの女性冒険者を救出した話と、武器に付与を三つ付けられ、奴隷を引き連れた変わった冒険者に行き着いたという訳か。
俺としては厄介者を押し付けられただけの話だ。
「湿っぽい話はそこまでにして風呂にでも入ってこい。カミュ連れて行け」
「了解ッス」
そう言うとカミュは泣いているマリーの腕を掴んで風呂場へと連れて行った。
「厄介な人が仲間になっちゃいましたね……」
黙って話を聞いていたルノが呟いた。それは俺だって思っていたが口にはしなかった。
風呂から上がったマリーは部屋に戻っていく。カミュは服のサイズを調べるためマリーの部屋に行き採寸を嫌々したのだった。
翌朝になり俺はマリーに冒険者の服を渡した。
「……何これ?」
「冒険者の服だ」
「見れば分かるわよ! なんで今更こんな物を着る必要あるのよ!」
「これはただの冒険者の服じゃないぞ! 汚れ防止、防塵、防刃、防水などが付与されており、しかもお前が着ている服よりも高級で防御力が高いんだぞ!」
「なんでそんなに付与されてるのよ! この世の物は全て二つまでしか付与できないの! 知らないの!? 頭おかしいんじゃない?」
「俺が作るものは特別製なんだよ。頭がおかしいのはお前だ。最近噂になっているのを知らんのか? さっさと着ろ。冒険者ギルドへ行くぞ」
カミュに目配せをすると、カミュは「ウッス!」と言ってマリーの腕を引っ張り部屋で着替えさせた。




