第64話 お荷物
テーブルには金貨が沢山積まれているが手に取ることができない。
何故なら、俺たちの前には王様がソファーに座っているからである。できればすぐにでも帰らせてもらいたいのだが、先ほどまでいたジルマールを追い出して王は俺と話がしたいと言ってきたのである。
個人的な話し合いなので近衛兵すら部屋にいない。王様とその侍女、ルノ、カミュの五人だけである。
「それで話とは何でしょうか?」
「そなたは何者だ? ギルドからの情報ではエルダードワーフとの話だが、ここ何十年エルダードワーフが町に現れたという情報は入っていない」
「ただのエルダードワーフですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
そう言っても信じられるはずがないが、信じてもらわないと困ってしまう。
「そうか、その鍛冶技術はどうやって?」
「門外不出なもので、教えるわけにはいきません。要件はそれだけならば俺たちは帰りますが……」
王様は難しい顔して俺を見つめている。
「何か言いにくいことでも?」
「実はな……」
王位第三継承権をもった王女が冒険者登録をしているらしく、どうにかしてもらいたいとのことだったが、何をどうしてもらいたいのか分からない。
連れ戻してもらいたいのならそう言ってもらえれば楽なんだけど、どうやら連れ戻すのも難しいらしく今は王宮の騎士団隊長を連れて回して冒険をしているとのこと。
「へー……。王女様がねぇ……」
「儂も困っているのだ。だが、世の中を知るには良いことなのだから、一概に否定することができないのじゃ」
「それでどうすれば良いんですか?」
「騎士団の隊長を連れ回されると士気にかかわることもある。代わりに仲間になってくれないだろうか」
「簡単に言いますけど、そんなに俺を信用しても構わないんですか?」
「先日のオーク討伐の件も聞いておる。貴殿なら問題なかろう……」
そう言って侍女に耳打ちすると、侍女は一礼して部屋から出ていく。困った顔をする王様に対し、俺は腕を組んで困った顔をする。
しばらくしてドアがノックされ、王様が入るように言う。すると、赤髪の女性冒険者と金髪のイケメン騎士が室内に入ってきた。どう見てもアンバランスな二人に見える。赤髪の女性はまだ幼さが少し見え、しかも装備が皮系の鎧と盾。武器はロングソードを装備している。イケメン騎士はがっしりとした鎧を身に着けており、剣はミスリルだろうか。柄の部分にミスリルの装飾がされている。
「何の要件なのよ! お父様」
「これこれ、マリエル。客人がいるのだぞ」
俺は目線を向けて軽く会釈をした。すると、赤髪の女性が俺をみて声を上げた。
「あー! 最近ギルドで噂になっているメイスクラッシャー!」
なんだ? そのヘンテコな二つ名は……。
「俺はシノミヤキョウスケだ。あんたは誰なんだよ」
失礼な態度には失礼な態度で返す。
「失礼な人ね! これでもブロンズプレートなのよ!」
俺はゴールドプレートだけどね。ルノとカミュはメタルだ。それに比べたら低すぎるだろ。
「それで名前は言えないと? 俺は自己紹介ができない奴を連れて行く余裕はねーよ」
「連れて行く? 何を言っているのよ」
「始めまして私は騎士団隊長を務めさせていただいているマルクスです。シノミヤ殿の活躍はギルドで聞いております」
マルクスと名乗ったイケメン騎士。どこか胡散臭いが、向こうが握手を求めてきたので俺は手を差し出して握手をすると、マルクスは力強く握ってきたので同じくらいの力で握り返す。なにか試されているような感じだ。
相手に顔を見てみると、本気で握ってきているのが分かるが、俺からしたら子供が必死に抵抗しているようにしかみえない。
「よろしく、マルクス殿」
平然としながら俺が手を離すと、マルクスは少し悔しそうな顔をしていたが、すぐに平静を取り戻す。
「それで王様、名前を名乗らない奴を仲間にしろと?」
俺の言葉に驚いた声を上げる赤髪の女性。
「お父様! どう言うことなの!」
「マルクスは騎士団の隊長だ。いつまでもお前と一緒にいさせる訳にはいかん。そこでシノミヤ殿にお前の手助けを依頼したのじゃ」
「……メイスクラッシャーの実力を観させてほしい。マルクス、手合わせしてあげて」
マルクスは返事をしたが、俺は引き受けるとも言っていない。だが、勝手に話が進んでいる。
闘技場のような場所に移動し、俺は木剣を渡される。マルクスはフル装備だったが、武器は木剣だった。
騎士団の人が審判をするらしい。俺たちが構えると「開始」の合図を出した。
先制攻撃と言わんばかりにマルクスは攻撃をしてくるが俺は軽くいなす。上段斬り、袈裟斬り、突きなど繰り出してきたのだが俺は後ろに下がることなくいなす。
鍔迫り合いになるとマルクスは唾を吐きかけてきたのでそれを躱すと、今度は廻し蹴りを繰り出してくる。それをバックステップで難なく躱す。
王女は「いけーマルクス! そんな奴やっつけちゃえ!」と応援しているのだが、表情を見る限りだとマルクスは全力を出しているようだった。騎士と言ってもこの程度か……。
攻撃を繰り出してくる中で分かるのだがマルクスは暗器のようなものを使ってきており、これでトップまで上り詰めたのかもしれない。
取り敢えず実力は十分理解したので、俺は素早く籠手を叩きマルクスの武器を叩き落とす……のだが、マルクスはムキになっているのか攻撃の手を止めることはしない。俺は審判の顔を見るのだが、審判は見ないふりをして試合を続行させた。
さっさとこの茶番を終わらせたいので俺は目にも止まらぬ速さでマルクスの顎先を殴りつけた。これは誰にも見えない速さだったはずなので、マルクスはいきなり膝から崩れ落ちたように見えているはずだある。
これには審判も止めざる得ない。
『しょ、勝者シノミヤ!』
俺は腕を上げると今度は王女が剣を持って立ちはだかる。
もちろん手加減して剣を叩き落としたのは言うまでもない。
「これで試験は終わりで良いのか?」
王様の方を見ると王様は頷いた。
「仲間にする以前に彼女の名前すら聞いてないんだけど?」
「わ、私はマリー! 冒険者マリーよ!」
チラリと王様に目を向けると、王様は小さく溜め息を吐くいた。
「わかったよ。マリーね……。俺はこれでもゴールドプレートだ。よろしく」
「わ、私は認めてない!」
「一人で冒険者を続けるにしても、実力をつけなければならねーだろ。そこで気絶している奴よりかは実力はあるんだから、多少は認めてくれても良いんじゃねーか? 王様命令みたいだし」
そう言って王様を一瞥すると、マリーは深い溜め息を吐いた。
「取り敢えずよろしく。キョースケ」
こうしてマリーが無理矢理仲間になった。
マリーが泊まっている場所はドラゴンの息吹亭とか言う名前らしく一泊銀貨一枚と高くブロンズプレートが泊まるような宿屋ではなかった。
「ずいぶんと高い店に泊まっているんだな……」
「キョースケ何処に泊まっているのよ」
「俺は家を借りてるんだよ。ゴールドプレートになったから今度購入するつもりだ」
「へー……。部屋は幾つあるの?」
「え? 四部屋だけど?」
「なら、私もそこに住むわ」
「へ?」
「同じパーティになるのなら同じ屋根の下で暮らすのが当たり前でしょ。そこの子、私の荷物を取りに行くから手伝いなさい。私一人じゃ家の場所が分からないでしょ」
そう言ってマリーは人質のようにカミュを連れて行ってしまった。
まさか王女さまと一緒に暮らすなんて思っても見なかった……。




