第4話 付与
初期装備の貧弱ナイフをどうにかするため、受付嬢のステラにお願いして鍛冶場を使わせてもらうことにしたが、銅貨50枚もギルドへ支払う必要があるらしく、渋々銅貨50枚を支払い、地下にある鍛冶場へ案内してもらった。
「薪は自由に使って構いませんが、常識的な範囲でお願いします」
そう告げてステラは自分の仕事へ戻っていくが、常識的な範囲と言われても、炉に薪を焚べるのにかなり必要なのだが……。
「……悩んでいても仕方がないな。できるのかどうか分からないが、あの方法を試してみるか」
落ちていた炭の欠片を拾い、薪をくべる釜に魔法陣を描き、その上に薪を置いて魔法を発動させてみると、ゲームと同じ現象が起きて、瞬く間に鉄のインゴットが溶けていく。
「こういうのはゲームと変わらないんだな……」
独り言を呟きながら、錆防止5、切れ味5、刃こぼれ防止5、炎属性、風属性のエンチャントを付与させた鉄の剣を三本作成し、最後に自分が作った印を刻んで終了。
「取り敢えず、一本は予備として持つことにし、もう一本は売っぱらって、金に換えるかぁ」
残高が銅貨45枚しかなく、このままでは宿屋に泊まれるかすら怪しい。
鍛冶場の後片付けをしてから商業ギルドのホールへ戻り、ステラに作業が終わったことを伝えると、ステラは少し驚いた顔をしている。
「何かありました? ステラさん」
「い、いえ、鍛冶場で作業すると言うことで、早くても二〜三時間は戻ってこないと思っていたものですから……」
俺が一時間もしないうちに戻ってきたことに驚いているようだ。
「簡単な武器を作っただけですからね。そんなに時間は掛かりませんよ」
「そ、そうなんですか……」
あまり納得をしているようには見えないが、俺的には時間をかけ過ぎたつもりである。
「そうだ、この鉄の剣って商業ギルドで買い取ってもらえますか?」
「そういったことは行っておりません。武具屋か道具屋、冒険者ギルドなどでお願いします。ですが、ポーションや毒消しなどであれば、買い取りをしております」
ポーションや毒消しは持っていないため、諦めて違う話をしてみる。
「なら、町の地図は売ってる場所を教えてくれませんか?」
その質問に対し、ステラは呆れたような顔をした。
「町の地図なんて売っている訳ないでしょ。大きな町なら別でしょうけどね」
まさかのマップなし。
全ては記憶で生活をするしかないようである。
一応、ステラにお礼の言葉を述べ、俺は再び冒険者ギルドへ向かった。
取り敢えず、先立つ金が必要だからである。
金が無ければ宿屋にも泊まれないし、新しい服なども手に入れられない。
商業ギルドで裁縫室があることは確認できてあり、服飾関係のスキルを持っているので、自分で作ることは可能なのだが、素材が無いので購入しなければならない。
兎にも角にも、先ずはお金が必要なのである。
来た道を戻るだけなので、迷うこともなく冒険者ギルドへ戻り、ギルドハウスの中に入る。
先ほど話をした受付嬢は、別の人と話をしているため、仕方がなく怖そうで頭がツルツルのオッサンに話かけた。
「すいません、この武器を買い取ってもらうことはできますか?」
商業ギルドで作った鉄の剣をストレージから取り出し、オッサンに見せた。
「おう、構わんが……なんだ鉄の剣か。鉄の剣に何か付与されているのか確認させてもらうが、構わないか?」
見た目よりも話やすそうだった。
「別に構いませんよ。やっぱり買い取り価格は安いんですかね?」
鉄の剣は街の武器屋で売っているはずだし、装備している冒険者が多いので、かなり出回っているはずだ。
「何も付与されていない鉄の剣は、武器屋で販売されているからな。一つでも付与されているのなら、値段は変わるぞ」
その言葉に俺は少しだけ不安が心をよぎった。
「店で売っている剣より質が良いな……」
剣の品定めを行ったあと、オッサンは鑑定の魔法を唱えると、動きが止まった。
取り敢えず必要最低限のエンチャントを付けているだけだから、銀貨1枚もらえたらラッキー程度に考えていた時期が、僕にはありました。
「ちょっ、な、なんだ! こんなにも付与がされている鉄の剣なんて見たことがないぞ!」
慌てたようにして俺を見るオッサン。
「はい? どう言うことですか?」
俺には最低限の物しか付けてないため、オッサンが慌てている意味が理解できない。
「この剣は何処で手に入れた!」
詰め寄るように言ってくるオッサン。
その様子に周囲がざわつき始めた気がする。
「ちょっと待ってください、たかが五個しか付与されてない鉄の剣ですよ? 一般的な物じゃないですか」
「おいおい、これが一般的だと? 通常、武器には二つ付与しか付与できないんだぞ! それが五つも付与されているじゃないか! どこでこんなレアな武器を手に入れたんだ」
どうやって誤魔化そうか考えていると、最初に受け付けをしてくれた人がやって来て、オッサンに耳打ちした。
「そうか、お前はエルダードワーフ族か! 森で生活をしていた時に手に入れたんだな?」
勝手に話を進めるオッサン。
その言葉に俺は頷く事しかできなかった。
「これは金貨五枚で買い取らせてもらいたいが、どうする? こんなレアな武器は早々手に入らん。手放しても良いのか?」
「えっと……。先立つお金が必要なんで、金貨五枚でお願いします」
そう言うと、オッサンは嬉しそうな顔をして、金貨が入った袋を俺に手渡し、鉄の剣を大事そうにして奥の部屋へ持っていってしまった。
この状況が怖くて、あと二本、同じ武器があるとは言えなかった……。