第48話 戦闘経験
ハイオーガは持っているこん棒を振り落としてきて、逃げ遅れたマリアンヌさんを守るためアーノルドの仲間であるビンセントが鉄の盾で防ごうとして構えるのだが、オーガの力はとてつもなく強かったのか鉄の盾がへし折られてしまい、ビンセントはトマトのように頭をつぶされてしまった。
「ビンセント!」
アーノルドがビンセントの名前を呼ぶのだがどう見ても即死である。マリアンヌは腰を抜かして倒れているビンセントの死骸を見つめておしっこを漏らしている。
「——マリアンヌ! 早く逃げろ!」
ロロッソが声を上げてマリアンヌを助けに駆け寄るのだが、今度はロロッソがハイオーガの餌食になった。マリアンヌを助けようとして体を引っ張ろうとしたが、オーガの動きは早くロロッソの頭を掴み、地面に叩きつけられる。
ロロッソの頭は地面にめり込んでしまっていて、どう見てもロロッソが助かるとは思えない。
このままだとパーティは全滅してしまうので助けに入ることにして、俺は勢いよくハイオーガに飛び蹴りをする。力の差は歴然なため、ハイオーガは吹っ飛んだ。
「シノミヤ!」
オッサンが俺の名前を呼んだが、今はオッサンに構っている余裕はない。
「アーノルド! 今のうちにマリアンヌさんを助け出すんだ! シェリルは魔法で援護しろ!」
立ち尽くしているアーノルドやシェリルに指示を出すと、二人は我に戻って俺の言ったように行動に移す。シェリルは魔法を詠唱してウインドカッターを唱えるのだが、ハイオーガにダメージを与えることはできない。アーノルドはマリアンヌを引きずるようにして戦線を離脱させたのを確認し、俺はストレージから鉄の剣を取り出してハイオーガの心臓目掛けて突き刺した。
「オッサン、二人の状態を確認するんだ」
オッサンの方に目を向けると、オッサンは首を横に振った。すでにロロッソは事切れているらしかった。他のハイオーガはAランク冒険者が怪我人を出しながらも倒しており、ようやく戦闘は終了したのだが被害は甚大だった。
二人のギルドプレートを外して埋葬し、リーダーであるアーノルドに渡す。
「――どうして……」
ん?
「どうしてもっと早く助けてくれなかったんだ!」
アーノルドの言葉に俺は驚いてしまう。どうして助けなかったというのはおかしいだろ。俺は逃げろと言ったのに、逃げなかったのはアーノルドたち。しかもだ、シンジュクの町では参加を見送るように言ったのに、自分たちで勝手に参加したんだろ!
「自己責任だと言ったのはお前たちだぞ。俺はシンジュクの町でも参加を見送るように言ったんだ。それを聞き入れなかったのはお前たちだろ」
「だからってこんな死に方は酷いじゃないか……」
酷いってどんな意味だよ。
アーノルドたちはこれ以上の戦闘をするのが難しいと判断され、馬車の中にいるよう言われた。俺はオッサンに鉄の剣ではなくミスリルの剣を渡す。
「こ、こんな武器を持っていたのか!」
「貸すだけだぞ。この戦いが終わったら返せよ。この大陸でミスリルは貴重品だからな」
「わ、分かってるが……。金貨1,000枚以上はする代物だろ」
「俺の奴隷は1,000枚する奴がいるから問題ないだろ」
何が問題ないのか分からないが、オッサンは納得してくれた。
怪我をした冒険しにポーションを分け与えて俺たちは先へと進み、幾度か戦闘をしたのだがハイオーガが出ることはなかった。どうしてあそこにハイオーガが出たのか謎だったが、ドラゴンが住み着いたとなると、魔物のレベルも上がっていておかしくはない。
ゴブリンやオークなどばかりが現れる。落ち着きを取り戻したアーノルドたちも戦闘に参加すると言い出して、今度こそ俺に八つ当たりをしないというのと、強敵が現れたら下がると言うことを約束して戦闘に参加することとなった。
さすがにゴブリンやオークに後れを取ることはしないが、ホブゴブリンなどが出た際には後ろに下がらされる。その時は悔しそうな顔をしていたが元気になったのはよかったと思う。
日が暮れ始めると、俺たちは野営をすることになった。二人だけになったアーノルドとマリアンヌさん。ルノが可哀想な目で見ており、仕方ないので仲直り代わりに食事を一緒にしないかと誘うと、二人は快く誘いにのってくれた。
「キョースケ、申し訳なかった……」
「別に構わねーよ……これからどうするんだ?」
「セリナさんがいるから冒険者は続けるけど、身の丈に合った仕事をするよ」
「そうか。無理するなよ」
「分かってる。地道に強くなるさ……。でもさ、二人は幼馴染だったんだ。二人がいたから僕は冒険者になれた」
アーノルドとマリアンヌさんは二人を惜しみながら思いで話をするのだった。
翌朝になり俺たちは朝食もそこそこにして先を急ぐ。再びハイオーガが現れても困るしこれ以上戦力を削がれるわけにもいかないし、イタバシ砦の状態が気になるからである。
「キョースケ、イタバシ砦にいるセリナさんは大丈夫かな……」
「信じるしかないんじゃないか?」
俺に聞かれても困るがあれだけの夜襲があったのだから、心配する気持ちはわからなくともない。
魔物の襲撃に関してはルノの察知能力に助けられ魔物から襲撃を受けることはなく、こちらから先手を取る形で戦闘を行っていた。俺にも察知能力はあるのだがみんなにそれを言う必要はないので黙っている。それからしばらくして、ようやく俺たちは目的地にたどり着いた。
「ドラゴンといっても小型だな……」
オッサンの言葉にAランク冒険者たちが作戦会議を始めようと言い、少し離れた場所で作戦会議を行うこととなったが、俺はオッサンに呼ばれみんなと少し離れた場所に移動した。
「どうしたんだ? オッサン」
「あのドラゴン、小型だったがスギナミ洞窟と同じくらいの能力を秘めていると思うが、お前はどう判断する?」
「空を飛ぶ分、あいつの方が厄介だと思うけどね」
「お前が戦ったらどうなる?」
真剣な目で俺を見つめてくる。
「聞くまでもないだろ、俺の圧勝だよ。誰も見ていなければ一人で始末してくるんだが……Aランク、ゴールドプレートの冒険者がいる手前、手柄を横取りするわけにはいかんでしょ」
オッサンのことだから俺に始末してもらいたいと言ってくるだろうが、俺が先手を取って言ったものだからオッサンはこれ以上何も言うことができなかった。
作戦会議の場に戻るとアーノルドたちが俺も戦闘に参加させるようゴールドプレートの冒険者たちを説得させている最中だった。いやいや、ちょっと待ってくれ……。
「俺もシノミヤが戦闘に参加することを勧める」
ラインハルトのオッサンがアーノルドに助け舟を出しやがった。ギルドが勧めるのであればということになり、俺も戦闘に参加させられることとなった。
作戦は単純で盾役の人がブレスを防ぎブレスが終わったら斬りかかる。空を飛んだら魔法で攻撃。本当に単純な作戦内容だった。
盾役は六人おり、みんなが大盾を構えているのだが誰もブレスカットの魔法を覚えているわけではない。もちろん俺は使えるので自分にブレスカットを使っているのだが、小型のドラゴンでも魔法を使うことだってあるのを失念しているのではないだろうか。
「ドラゴンが魔法を使ったらどうするんだ?」
失念しているところを聞いてみた。
「ドラゴンが魔法? ドラゴンが魔法を使うなんて聞いたことが無いぞ」
みんなが笑っているがドラゴンは知能が高い。魔法だって使うに決まっているがこいつら知らないのか?
「質問だけどこの中でドラゴンと戦ったやつはいるのか?」
全員が首を横に振った。ドラゴンと戦ったことのあるのはオッサンと俺だけということだった。オッサンが言うドラゴンとは地竜で、スギナミ洞窟で初めて戦ったとのこと。
「あの時は魔法なんて使ってこなかったぞ」
オッサンは言う。本当のドラゴンと戦ったことが無いからそういうことを言えるのである……。




