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第45話 ネリマ山

 冒険者ギルドに到着して中へ入る。相変わらずギルドホールは喧噪としていたのだが、シェリルの姿を見るとみんなは言葉を失ったのか見とれていた。もちろんその中にはセリナの姿もあるのだが、セリナは驚いた顔をしていた。

 冒険者登録を済ませると俺たちは早々にギルドから立ち去ろうとしたのだが、セリナが俺たちの前に立ちはだかった。


「ちょっとシノミヤさん! そのエルフはいったい誰なんですか!」


「いろいろあって彼女は俺の仲間になったんだよ」


「私のことだって仲間だって言ったじゃないですか! それなのにそんな女を仲間にして! 私のことは遊びだったということなんですか!」


 言い方が酷い。まるで俺が浮気でもしたかのようにセリナは言ってきた。


「誰? この女……」


 シェリルが流し目でセリナを見る。


「貴女こそ誰なんですか!」


「私は彼の奴隷()よ」


 言い方! そんな言い方をしたら勘違いするでしょ!


「ふ……不潔! 私という女が居るのに最低です!」


 そう言ってセリナはギルドから出ていく。俺はみんなから白い目で見られていた。

 どんな言い訳をしても信じてはもらえないだろう。


「ご主人さまは最低なんですか?」


 不思議そうな目でルノが聞く。俺は何か悪いことをしたわけではないし、最低なことをしたわけでもない。


「あいつが勝手に勘違いをしているだけだ。シェリル言葉には気をつけろよ。お前は俺の奴隷であって女ではない勝手に決めつけるな」


「似たような物でしょ。私はあなたの物なんだから……」


「自分をそんな安っぽく扱うのはやめろ。再び奴隷商館に戻りたいのか」


「嫌よ。あんな場所……」


「だったら言葉遣いに気をつけろ」


 ツンとした顔をしてそっぽを向くシェリル。俺たちのやり取りが終わると、ギルド内は再び喧騒に包まれた。このままギルドを出るの簡単だが、今ギルドを出てたらセリナを追いかけたと勘違いされかねない。俺は丸テーブルの椅子に腰かけると、ルノが飲み物を注文しに行ってくれた。あれこそできる女というものだ。


「今日は何をするかな……」


「何よ。何も考えてないの?」


 まるで馬鹿にしたかのような顔をして息を吐く。その姿だけでも男が釣れそうだ。


「おう、シノミヤ!」


 そんなことを考えてたらラインハルトのオッサンが釣れた。


「何の用事だ? オッサン」


「誰だ? この美人のエルフさんは?」


「ジョアンさんのところにいた奴隷だよ。金貨1,000枚はくだらないらしいぞ」


 そう言うとラインハルトのオッサンは驚いた顔をしながら俺を見る。


「屋敷の修繕費と怪我人や病人の治療ひだとよ。小生意気な奴で困っているんだよ。どうやって教育すりゃいいんだ?」


「それに関してはジョアンさんに相談してみると良いんじゃないか?」


 たしかに専門家に相談した方が早そうだ。


「それでオッサンは俺に何の用事なんだ?」


「ネリマ山でドラゴンが現れたとの話があってな、調査隊を編成することになった」


「ネリマ山? スギナミ洞窟の北側にある山か……。まさか!」


「そうだ、お前にも参加してもらいたい」


「ちょっと待て! この間だってドラゴンが出て誰も対処できなかったじゃないか! 俺は働きたくないんだぞ」


 その台詞は冒険者にあるまじき台詞だろう。シェリルにはジト目で見られているが気にする必要はない。働きたくないものは働きたくないのだ。


「そんなこと言うなよ。討伐隊にはゴールドプレートの『稲妻の剣』などが中心となってくれるんだ」


「だったら俺なんて居なくったって構わないじゃないか!」


「その依頼に関してだが、お前らの知っているパーティも参加すると聞いても断ると言うのか?」


 銀翼はすでに解散したと聞いているから違うだろう。ミランドさんの代わりは見つからなかったという話だった。ローラーさんは、より強いパーティメンバーを求めてトウキョウ都へ行ってしまったという。ではどのパーティのことを言っているのだろうか?


「ほら、あの坊主どもだ」


 ラインハルトのオッサンが顎でしゃくりながらそいつらのいる方を教えてくれた。その先にいたのはアーノルドたちだった。


「おいおい……オッサンは止めなかったのかよ」


「止めたさ。だが、あいつらはブロンズプレートになったから更なる経験を積むためという理由で参加すると言い放ったんだよ」


「オッサン! あいつらの実力ではオーガすら倒すことができない! あの山にはオーガが出没するんだろ!」


「よく知っているな。行ったことでもあるのか?」


「俺のことはどうだって良いんだよ! それよりもあいつらだ。オーガはメタルプレートの奴でも危険と言われているのにブロンズが行くなんて死にに行くようなもんだろう!」


 俺は強い口調でオッサンに言う。


「君に言われる必要はない!」


 後ろから声がして振り返ると、そこにはアーノルドたちが立っていた。シェリルはアーノルドたちを見下すような目で見つめており、ルノは立ち上がって挨拶をしていた。


「ドラゴンに勝てるのはゴールドプレート以上の冒険者だ……。お前らの装備でオーガすら倒せやしないのは分からないのか!」


「だから君に言われたくない! 実力があるのに隠している奴に、僕らの気持ちなんてわかりゃしないさ!」


 興奮している俺たちの頭に誰かが水をかけた。


「落ち着いてください……ご主人さま。ここは冒険者ギルドなんですよ。冒険者のやることに口出し厳禁です。自己責任だって言うことですよ」


 水をかけてきたのはルノだった。みんなが俺たちを見ており、俺の言葉に対して怒りすら覚えているかのようだった。


「申し訳ありません、ご主人さま。ですが、自己責任で冒険するのが冒険者なんです。ご主人さまがお決めになって良いのは私たちだけなんです。アーノルド様たちが行うことに口出しをしてはいけません。ご心配なら我々も付いて行くべきじゃないんですか?」


 ルノに正論を言われ、俺は何も言い返せなかった。


「オッサン、行くのはいつ頃だ。今日の明日ではないんだろ……」


「出発は一週間後だ。お前も参加ってことで良いんだな?」


「……あぁ、俺たちも参加する」


「よし、一週間後に出発するぞ。それまでシルバープレート以下のプレートは辺境伯のところで訓練をするんだ。外に馬車を用意させる。当日までに少しでも生存確率を上げるぞ!」


 外に出ると馬車が待機されており先ほど走って出ていったセリナが馬車に乗って待っていた。俺たちはセリナが乗っている馬車とは違う馬車に乗り、辺境伯の訓練場へと向かう。

 夕方になり馬車が辺境伯の訓練場へ到着し、先ずは手配されている宿へと向かった。宿は大部屋で仲間たちと一緒に泊まることになっているらしいが、なぜかセリナと同じ部屋となっており、しかもアーノルドたちも同部屋となっている。雰囲気は険悪だった。


「なんでお前らと同じ部屋なんだよ」


「それは僕たちの台詞だよ」


 睨み合う俺たち。対して素っ気ない態度でセリナが自分の寝る場所を確保していて、気が付いたら俺とアーノルド以外はすでにくつろいでいた。

 俺たちは自分のベッドに腰かけるのだが、誰も何も喋ることはなく時間が過ぎていくと痺れをきらせたのかルノが口を開く。


「ご主人さま、冒険者ギルドでおっしゃっていたオーガってどんな魔物なんですか?」


 ルノの言葉にみんなが耳を傾ける。


「ん? オーガか? オーガは鋼の肉体を持った奴で、鉄の剣だと多分斬れない。相当の剣技を持っていないと鉄の剣では難しいんじゃないか?」


「そんなに固い体をしているんですか?」


「オークは豚の化け物だとしたら、オーガは鬼だ。ヨーロッパでは違うけど……」


「よーろっぱ? どこですか……そこ?」


「海の向こうなんだけど、そのうち行くことになるかもしれないな」


「よーろっぱ……。そのうち行くことになるんですか……。海って見たことないんですけど、どんな所なんですか?」


「水がしょっぱくて溺れたら死んじゃうところかな。大きな水たまりと考えている人がいるけど、世界の七割は海なんだよね」


「博識なのね。見た目に寄らず……」


 シェリルが信じていなさそうな目で言ってきた。


「うるさい。そんなことよりもオーガだな。あいつらは集団行動してくるのと、思ったよりも知性があり不意打ちしてくるから後方にいても注意しなきゃダメだ」


 この面子でオーガの情報を持っているのは俺だけなので、全員が俺の話に耳を傾けていた。

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