第34話 失われた魔法
テレポートの魔法で再び7階層へ戻ってきた。
「ルノ、お前は俺の後ろで援護しろ」
「りょ、了解です……」
ルノはストレージからベレッタを取り出し両手でグリップを握る。少し緊張しているようだった。とにかくさっさと攻略して家でのんびりしたいので、俺はルノの気配察知を当てにしないで自分の気配察知に集中した。
何か話しかけられていたが無視して歩いていると、ルノが飛び蹴りをしてきて俺は前のめりになってこけた。ご主人さまに向かって飛び蹴りをしてくる奴がいるか普通……。
「何するんだよ!」
「人の気配がするって言ってるんですよ!」
人の気配? あぁ……あれか。
「あれは魔物だよ」
「え? あれは人ですよ?」
「あれはリッチってやつだ。人の気配に似ているが魔物だよ」
「リッチ? なんですか?」
「歩きながらで良いか? 今は急いでるからな。あれはリッチと言ってな、死んでもなお生前の能力などを維持しているアンデッドモンスターだよ。人の生気を餌として生きているから厄介なんだ。今後も出会う可能性があるから気配を覚えていた方が良いぞ」
俺の反応は魔物でありルノからしたらアレが人に感じるのだろう。もしかしたら人に似ている何かだと思うが、はっきりと魔物と反応が出ている。6階層でもリッチはいたので間違いないはずだ。
それから8階層に到着して違和感を感じた。
「ちょっと変な感じがする階層だな……ルノ、俺のそばから離れるなよ」
「い? あ、は、はい!」
顔を赤くしているルノだが、ものすごい違和感を感じる階層で魔物の気配が全く感じない。また、人の気配もないので先に進んでいこうとして進んでいくと、大広間に到着した。
「な、なんですかね……この広い部屋は」
ようやくルノも違和感に気が付いたらしく、俺に近寄ってきた。すると、目の前に何か空間が歪んだように感じて立ち止まった。
「あ、あれは……何ですか?」
「知らん。いつでも逃げられる準備をしとけよ」
そう言った瞬間、逃げ道が塞がれるように壁が出来上がった。何かがこの部屋にいる。だが、それがなんだかは分からない。
「ご、ご主人さま……」
「大丈夫だ、俺が守ってやる」
目の前の歪みから目を離してはいけないと危険察知が警報を鳴らしている。これは俺に対してではなく、ルノに対しての警報だろう。
歪みと睨めっこしてどのくらいが経ったのか分からない。ルノは俺の後ろに隠れており腕の隙間から歪みを見つめている。すると、歪みが人型に変わり魔法使いらしき人が現れたのだが、顔色がおかしい。
「ま、魔法使い……様ですか?」
「いや、あれはエルダーリッチだ! リッチよりも厄介な奴だ!」
俺は直ぐに魔法障壁を展開するとエルダーリッチは雷を落としてきて、俺の魔法障壁にはじかれる。魔法障壁を展開して正解だったな。
「な、何が起きているんですか!」
何度も魔法障壁にはじかれる雷を見てルノが声を上げた。ちょっと黙っていてほしい。
「あいつが魔法を使う前に魔法障壁を展開したんだよ! ギリギリ間に合ったがな!」
「す、すごい……ご主人さま凄いです!」
そんな話をしている暇はない。とっとと片付けなければさらに厄介な魔法を使ってくる可能性は高くなる。エルダーリッチの弱点は聖属性魔法だが、雷が邪魔すぎる。
『うぉぉぉぉ!』
言葉をしゃべらない分、何の魔法を唱えてくるのか分からない。雷の次は氷の魔法を使ってきて、氷の刃が地面から突き上げてきたので、地面に向かって魔法障壁を張った。
今度はこちらのターンだと思い知らせてやる!
「これでもくらえ!」
俺はホーリーアローの魔法を使うと、エルダーリッチの肩を貫いて魔法が止まった。浄化の魔法は少しだけ魔法展開するのに時間がかかるために時間稼ぎができた。
浄化魔法を使い室内は聖なるオーラに包まれていく。エルダーリッチは苦しみだし、止めと言わんばかりにパニッシュの魔法を使ってエルダーリッチを浄化すると、塞がれていた帰り道が再び現れた。
「ルノ、怪我はないか?」
「だ、大丈夫です。それにしてもご主人さまはすごい魔法使いなんですね!」
それは滅茶苦茶課金もしたし、青春の大半をゲームに捧げたからだ。
「俺のことはどうでもいいだろ。それよりも先へ進むぞ!」
少し照れ臭くなってルノを置いていく形で9階層へと向かう。ルノは「待ってくださいよ! ご主人さまぁ」と言いながら追いかけてくる。
9階層は罠ばかりだった。罠回避のスキルが発動しているため罠にかかることはなかったが、罠に掛かって亡くなった冒険者の死骸からギルドプレートを回収しながら10階層へ向かった。
ようやく目的の一つを見つけたのは15階層でだった。目的の一つとはエレンの死骸である。魔法使いのエレンが横たわっており、脈を測ってみたがすでに事切れていたため、俺はエレンの冒険者プレートを取り外して隠し部屋などがないか確認しながら進んでいく。
「ルノは俺のそばから離れるなよ。どこに罠があるか分からないかな」
「りょ、了解です!」
エレンの死体が15階層にあったということは、この階層に潜んでいるか次の階層に潜んでいるか、もしくは先の階層で死んでいるのかのどれかである。15階層をくまなく調べた結果、二人は見つからない。本当に早く見つけて帰りたい。
16階層に到着してすぐに人の気配を察知して、ルノと共に向かった。人の気配がする部屋の前に到着したが、鍵がかかっており中へ入ることができない。
「この部屋に誰かいるのは確かなんですけど……」
ノブを押したり引いたりするルノ。ルノに退くよう言って部屋の前から退避させると、俺はドアを無理やり蹴り破る。すると、目の前に剣先が現れたので間一髪のところで避け、誰が攻撃してきたのか確認してみると、カレンとセリナであった。ようやく目的地に到着したみたいだ。
「何をするんですか! いきなり!」
「お、お前は……きょ、キョスケ!」
だから名前は京介だ。いい加減覚えてくれ……。
「救出隊です! カレン様とセリナ様を助けに来ました!」
後ろからルノが顔を出して助けに来たことを話すと、二人はホッと息を吐いた。カレンでも不安に感じることがあるのか……。
「た、助けに来たのは……お前ら二人だけか?」
何か期待した表情をしているな。
「助けに来たのは俺たち二人だけですよ」
「え?」
二人が固まった。何かあったのだろうか?
「だ、だって、キョスケはブロンズプレートだろ? その二人だけであの死霊どもをやっつけたというのか?」
「まぁ……一応。そうですね。はい」
なんで顔を引きつらせるんだよ。
「そ、そういえば……え、エレンは……」
俺は首を横に振るとルノがエレンのギルドプレートをカレンに渡す。するとカレンは膝から崩れ落ちて言葉を失った。
「とにかく、今はこの場所か出て洞窟の前にいる救出隊に合流しましょう」
「救出隊がもう一つあるのか!」
「俺はラインハルトのオッサンから救出依頼を受けてやってきたんですよ。ラインハルトのオッサンは洞窟の外で待ってますから。ルノ、セリナさんの手を掴め。外に出るぞ」
「了解でーす!」
返事をしてルノはセリナの手を握り、俺はルノとカレンの肩に手をのっけて俺はテレポートの魔法を使うと、一瞬で洞窟の外に出る。ようやく辛気臭い世界から娑婆の空気を吸うことができた。
「い、今のは……キョスケがやったのか!」
「他に誰がやると言うんですか。ルノは獣人とのハーフで魔法はからっきしですよ。俺は森育ちでエルフの血も交じっているからそれなりに魔法を使えますけどね」
「く……空間移動の魔法は失われた古代魔法と言われているんだぞ! なんで使えるんだ!」
カレンが驚愕した顔で言ってきた。
「へ?」
俺は間抜けた声を出した。失われた魔法? レベル16程度で覚える魔法だぞ。初期も初期、たいていの魔法使いが使えるんじゃないのか? いやいや、考えてみたらこんな簡単な洞窟から脱出できない時点で魔法レベルが低いってことなのか?
「やはりご主人さまは大魔法使いだったんですね……」
いやいやいやいや……。意味が分からない。どうなっているんだ?




