第33話 泣き虫
ゲーム時代何度も攻略しているし一人で制覇もしている洞窟だったが、ここは現実の世界でマップも少し異なっている。安易に記憶を頼りにして進むのは危険だろう。俺はデザートイーグルをストレージから取り出し、気配察知に引っかかった敵は全て倒すことにして進んでいく。Cランクの冒険者だったら中層より手前くらいに行けたらよいはずだから、12階層くらいまで探しながら進まなきゃならない。
一階二階は情報通りオークやゴブリンなどが出てきた。強くてもゴブリンシャーマンやホブゴブリン、オークハンマーなどが現れるくらいだった。しかし、三階へたどり着くとリザードマンなどが現れ始めた。本来だったら8階くらいの魔物である。各部屋を調べながら歩いていくと俺たちと一緒にやってきた冒険者が部屋の中に隠れており、俺はハイポーションを渡す。
「ラインハルトのオッサンに言われ救出に来ましたが、今は先を急ぎます。俺と一緒に付いて来るか一人で戻るかどちらか選んでください」
俺は選択肢を与える。ルノが目覚めたときにどんな反応をするのか分からない。取り乱す可能性が高く、オッサンたちに迷惑をかけてしまう気がする。まぁ、オッサンが俺に迷惑をかけているんだけね。
冒険者はマイキーという名前らしく、ランクはB。ドラゴンから逃げた際にみんなとはぐれてしまったらしい。職業は剣士とのことだが、剣は逃げる際に落としてしまったようでこの部屋に逃げ込んだらしい。武器を落とすとか馬鹿なのか? 俺と一緒に先へ進むことを選んだマイキーに予備の剣を渡した。
「あの角を曲がったところにドラゴンがいる」
俺の後ろ歩いているマイキーが教えてくれる。俺よりもランクが上なんだからもう少し頑張ってよ。
「マイキーさんはここで待っていてください」
「一人では危険だ! 外に出て仲間と合流した方が良い」
その仲間が俺に依頼してきたんだよ!
「黙っていてくれます? 一人で帰ってもらっても構わないんですよ? 俺は」
一人では帰る勇気がないらしく、マイキーさんは結局黙ることを選んだ。マイキーさんを残してドラゴンがいる場所へ行くと地竜が道の真ん中に鎮座していた。あれがみんなが言うドラゴンである。たしかに地竜はドラゴンの仲間だが、飛翔する赤龍などと比べるとランクは下がる。
デザートイーグルではダメージを与えることができなさそうだったので、近接戦闘に切り替え地竜の首元へ駆け込み鉄の剣を突き刺した。死骸は光の粒子になることはなかったのでストレージの中へしまった。
「思ったより柔らかい皮膚だな。剣が折れるかと思ったけど折れないとは……」
もしかしたら俺の技術が高いから突き刺せたのかもしれんが、無駄な時間をかけるつもりはないからいいけど、オッサンたちは地竜に手こずるのかよ。
「マイキーさん! 終わりましたよー」
先へ進みたいのでマイキーさんを呼ぶと、マイキーさんは警戒しながらやってきた。時間が無いんだから早くしてくれよ。
「あ、あんた何者なんだ……」
「俺? 俺はブロンズプレートの冒険者ですよ。時間が惜しいので先を急ぎますよ!」
ブロンズプレートと言われてもマイキーが納得するはずがなかったが、俺は黙らせるためマイキーさんに剣を突き付けた。
「今はそんな話をしている暇はない。いやだったら一人で帰れと言ったぞ」
無駄話をしている余裕はない。最低でも12階層まで行かなきゃならんのだから……。
どのくらい時間が過ぎたのだろうか、5階層へたどり着くまでに何人もの冒険者の死骸を発見し、ギルドプレートを回収して先を進む。俺たちと一緒にきた冒険者の死骸もあったが、気にしている暇はない。それだけの実力だったというだけの話だ。
「す、少し休憩をしないか。喉が渇いてしまった」
ストレージから水袋を取り出してマイキーに渡す。ここまで休憩なしにやってきたのだから仕方がないかもしれない。
「それを飲んだら先を急ぎますよ」
マイキーさんは頷くしか道はない。
「もう……辺境伯のお嬢様は死んでるんじゃないか……?」
「その確認もしなきゃならんでしょ。俺だって戻りたいのを我慢してるんですよ。待っている奴がいるんだ、それを理解して喋ってください!」
「す、すまない……」
死んでいる可能性を疑いたい気持ちは理解できる。俺だってそう思っている部分だってあるが、あのカレンが簡単に死ぬようにも思えない気持ちもある。
「何人か回収したら一度戻りますから、もう少しだけ頑張ってください」
こう言わなければマイキーさんは何をするか分かったものではないし、足手まといになるだけだ。7階層に到達してすぐ気配察知に人の気配を感じた。だが、扉らしきものが見えない。
もしかしたら、壁に何か細工をしているかもしれないと思い、俺は壁を叩きながら歩いていく。マイキーさんには反対側の壁を叩いてもらい音の変化を確認してもらっていると、マイキーさんが「ここの壁がおかしい」と言ってきたので、俺は壁を殴って破壊してみると扉が現れた。
「この中に誰かいるはずです。いなくても一旦脱出しますんで、もうしばらく我慢してください」
そう言って俺は扉を開くと、いきなり冒険者らしき人物に襲われそうになり、慌てて冒険者らしき人物を取り押さえた。
「落ち着いてください! 俺は救援に来たんです!」
中には五人の冒険者がおり、マイキーさんが事情を説明してくれた。
「では全員が手を繋いでください。一気に洞窟を出ますんで」
全員が手を繋いで俺はマイキーさんの肩に手をのせテレポートの魔法を使うと、洞窟の入り口前にテレポートした。
「あそこで救援隊の面々が待機しております。誰か体調が悪い人がいれば言ってください! ポーションを渡します」
『毒消し草は持ってないか?』
「持ってます。これを使ってください」
メニュー画面から調合で毒消し草を作って渡す。ラインハルトのオッサンたちが俺たちに気が付き、駆け寄ってきた。
「シノミヤ! ドラゴンはどうした!」
「倒しましたよ。7階層まで進みましたが人が多かったので戻ってきました。あと、これを……」
死んだ者たちのギルドプレートを取り出してラインハルトのオッサンに渡すと、オッサンは今回の遠征メンバーの仲間たちに渡していたり、ギルド職員に渡していたりしていた。
「このバカヤロー!」
後ろから誰かが殴りかかってきたので取り敢えず制圧してみると、殴りかかってきたのはルノだった。
「放せこの馬鹿! ご主人さまのバカ! 私を置いてきぼりにしやがって!」
「仕方がないだろ。本当に危険な場所だたんだから……」
ルノを開放すると子供の駄々こねパンチをしてきたが、痛くはない。全く力が入っていないようだった。
「私はご主人さまの奴隷なんですよ!」
だから何だと言いたいが、これ以上刺激するのはやめておこう。
「心配かけたようだな。悪かったよ」
「このバカバカバカ!」
バカバカ言い過ぎだ。だが心配かけたのは事実だから言わせておこうとしたら、今後は泣き出してしまった。
「嬢ちゃんはな、お前がいなくなって相当取り乱していたんだぞ」
「そりゃオッサンが悪い。俺をあんな場所に行かせたんだから」
オッサンは「ちげーねぇ」と笑いながら言うが、本当に責任を取ってもらわなきゃ割に合わない。
「ルノ! いつまで泣いているんだよ。早くカレンを見つけに行くぞ」
「グスッ……了解です! お供します!」
ルノは笑顔に戻り俺の腕に抱きついてきた。胸が腕に当たってるが今は言わないでおこう。こいつはどこでも発情する癖を持っているからな……。
ラインハルトのオッサンに「じゃあ、もう一回行ってくる」と言って俺はテレポートの魔法を使い7階層へ戻るのだった。




