第32話 ランナウェイ
「放せよアーノルド。言っている意味が理解できない。何を言ってるんだよ」
「——ラインハルトさんがお前を呼んで来いって言ってきたんだ! 洞窟の中に強力な魔物が出て、俺たちはラインハルトさんから逃げるよう言われお前を呼んでくるよう言われたんだよ!!」
ビンセントが強い口調でいてきた。アーノルドは俺の胸ぐらを掴んだまま……。いい加減に放してほしい。ルノを降ろすことがことができないだろが……。
「強力な魔物ってなんだよ? お前らも知っていると思うが俺はブロンズプレートだぞ。アイアンよりはランクは上かもしれないが、大した差はないことくらい知っているだろ」
「僕たちだってそのくらい分かっている! だが、ラインハルトさんが言うんだ! 君じゃなきゃ倒せないって!」
悔しそうな顔をしながらアーノルドが言う。いい加減に放せよ。
「放せよアーノルド。もう少し詳しく話を聞かせろ」
「のんびり話している時間はないんだよ!」
ロロッソが詰め寄ってきた。相変わらずアーノルドは胸ぐらを放してくれない。
「話すくらいの時間はあるだろ。それとアーノルド、いい加減にその手を放せ。ルノを降ろすことができねーだろうが!」
少し語気を強めに言うとアーノルドは悔しそうにして、ようやく手を放してくれた。ルノは俺から降りてくれたのだが俺の後ろに隠れてしまった。
「銀翼の剣のミライドさんが死んだ!」
アーノルドが悔しそうな声で立ち尽くしながら言った。ミライドさんが死んだ? ミライドさんはBランクだぞ。それなりの相手がいたということか?
「何を相手にミライドさんが死んだというんだ? ミライドさんはBランク……シルバープレートの冒険者だぞ。どうして死ぬんだよ……」
「そうだ、ミライドさんはシルバープレートの冒険者だった。だが死んでしまった! 灰となってね。みんな油断をしていたんだ。まだ洞窟の中へ入ったばかりで出てくる魔物はゴブリンやオークといった魔物ばかりだった。だけどあいつが出たんだ……」
悔しそうな顔をしてアーノルドが言う。強力な魔物が出るのはもっと深い階層のはずだ。いったい何者が現れたというんだ?
「それであいつって?」
アーノルドは話を続ける。
「奴は……多分ドラゴンだ」
ドラゴン? 深層に出てくる奴がどうして入ったばかりのところに出てくるんだ? 考えられるとしたら一つだけど……。時期的に起こるはずがない。あれは春先に起こる現象だから……。
「——それでラインハルトのオッサンたちは?」
「僕たちを逃がすために囮になってくれたんだ。もしかしたら今も戦っている可能性がある」
オッサンは元ゴールドプレートの冒険者だった。ドラゴンとの戦いもしたことがあるだろがオッサンは現役を退いているので、長時間の戦闘はしないだろう。たぶんアーノルドたちを逃がした後は退却をしたかどこかの部屋に隠れた可能性が高い。俺一人だったら難なく仕留めることはできるし、攻略は簡単だ。オッサンはそれを見抜いていたのか? カレンたちもドラゴンに出くわしてどこかに隠れている可能性はある。
Bランクの冒険者だとドラゴンと戦闘経験は多少あるだろうが、撤退を余儀なくされているはずだ。幻と言われているSランク冒険者でなければ倒すことはできないだろう。
「オッサンは俺に何をしろと?」
「分からない……ラインハルトさんは君を呼んできてくれとしか言ってない」
オッサンの野郎……。
「アーノルドたちはこのままシンジュクへ帰れ」
「君はどうするんだ!」
「俺はスギナミ洞窟へ行く。お前たちは足手まといになる」
「なんだと!」
アーノルドは再び俺の胸ぐらを掴んだが、俺はアーノルドの腕をひねり上げた。
「事実だ。お前は俺の手を跳ね除けるだけの力がない。邪魔だから帰れ。あとは俺が引き継ぐ」
「君には彼女だっているんだぞ!」
「こいつなら大丈夫だよ。お前らとは根性が違う。ルノ行くぞ……お前らは早く帰れ」
荷物をまとめて戻る準備を始めるとルノも慌てて戻る準備を始めたが、アーノルドたちは俺を睨んでいるように見えた。
「ご主人さま、準備ができました」
「分かった、じゃあな。ルノ、俺の手に掴まれ」
ルノが俺の手を握る。その手は少し緊張した様子だったが俺の手を力強く握っている。ルノも何かを決意しているかのような表情だった。
アーノルドは何か言いたそうな顔をしていたが俺たちにはそれほど時間がない。俺はテレポートの魔法を使いスギナミ洞窟の前に現れると、ラインハルトのオッサンたちが入り口の前で作戦会議を開いていた。
「オッサン! 状況は!」
俺が呼んだらオッサンは驚いた顔をして俺たちを見た。
「シノミヤ! どうやってここに! いや、今はそんなことどうでもいい。季節外れのランナウェイが起きた! 中は深層にいるはずの魔物が上層まで来ていて大変なことになっている」
やはりランナウェイだった。スギナミ洞窟は年に一度大暴走を起こすのだが、それは春先のイベントであり現在は秋のため季節外れのランナウェイだ。洞窟の中では大量の魔物でいっぱいになっているはず。カレンたちはランナウェイが発生したため戻ることができなくなったのだろう。本当に最悪だ……。
「シノミヤ、状況は新米共から聞いているな!」
「ドラゴンが現れたんだってな。ずいぶんと人数が少なくなっているけど大丈夫なのか?」
オッサンは俺を見て首を横に振る。洞窟内ではぐれてしまったのかもしれないし、やられてしまったのかもしれない。
「何階層でドラゴンに襲われたんだ?」
「3階層で襲われた。ミライドは俺たちを庇って……」
ローラーさんが隣にきていたが、かなり深い怪我をしていた。俺はストレージからハイポーションを取り出してローラーさんたちに渡す。
「ルノ、怪我人にハイポーションを飲ませるんだ。できるかぎり重症者を中心に飲ませろ。足りなかったら追加の分を出すから言ってくれ」
「りょ、りょうかいです! ルナ様、案内をお願いできますか!」
ルナさんは返事をしてルノを連れて怪我人がいる場所へ向かった。俺はオッサンと一緒に作戦会議に参加だ。
「あのドラゴンをどうにかしないとならん」
オッサンが険しい顔してマップに指差しながら言う。そこにドラゴンがいるのか……。
「オッサン、ランクが低い俺が作戦会議に参加してもしょうがないだろ。俺にできる仕事を教えてくれ」
「その件に関しては後で話をさせてくれ。今はあのドラゴンをどうにかする方法を考えてくれるか」
俺は首を横に振るとオッサンは指で後ろを差した。あっちで話をしようという意味だろう。
「なら、俺は食事の準備をするよ。朝以来飯を食ってないんだろ?」
「助かる……」
作戦会議の場所から離れ食事の準備を始める。食材はオークの肉があるから栄養価の高いシチューが良いだろう。鍛冶で大鍋を作り、調合でシチューを選択して鍋の中にシチューが現れる。調合スキル最高! 鍋を火にかけて匂いが辺りに広がるとオッサンの提案で作戦会議は一時中断となり、みんなは食事を始めた。どうやらルノに渡したハイポーションは足りたらしく、ルノが元気に戻ってきて食事を食べ始めた。
「シノミヤ、ちょっといいか?」
オッサンが人気のない場所に俺を呼んできたので向かうと、オッサンは突然襲い掛かってきたのでオッサンが動けないように制圧してしまった。
「それがお前の力か……」
「突然襲い掛かってくるなよ。その首を跳ね飛ばすところだったじゃねーか」
拘束を解きオッサンの手を放す。
「悪いが俺たちにお嬢様たちの救出はできない。お前に任せたいと思っている」
「そういう約束だったもんな。いつから俺が実力を隠していることに気が付いたんだ」
「元ゴールドプレートをなめるな。俺には最初から分かっていたさ。お前さんには全く隙が見当たらない」
俺は舌打ちした。
「ほかの冒険者を発見したらどうすればいーんだ?」
「できる限り助けてもらいたい」
俺は「りょーかい」と言ってルノのもとへと向かい、ここに残るよう話た。
「というわけで、今から俺は中へもぐるからお前はオッサンたちと一緒にここで待ってろ」
「嫌です!」
「中は危険だって言われてるんだぞ!」
「ご主人さまが行くところに私は付いて行きます! 止めたって無駄……ウッ!」
黙らすために気絶させてオッサンにルノを任せ、一人でスギナミ洞窟の中へ入っていった。




