第29話 ライバル視
その日のうちに捜索隊は出発することになって、俺とルノは大量の水と食料をギルドプレートのストレージに詰め込み、捜索隊に付いて行くこととなった。
低ランク冒険者たちは俺たちのほかにアーノルドたちのパーティだけ。あとはシルバープレート…Bランク冒険者とCランク冒険者たちで構成されている。各パーティには名前があるらしく俺たちは銀翼の剣とかいうBランクパーティに付いて行くこととなった。
パーティリーダーのローラーさんは屈強な体をした戦士で、男性魔法使いのミライドさんに女性ヒーラー……僧侶系のルナさん、女性剣士のアッキーさんの四人。なんとローラーさんは12歳から冒険者になったらしい。ローラーさんは26歳で年齢からも中堅。ミライドさんは40歳と熟練で、僧侶系のルナさんは20歳で若いが、アッキーさんは24歳で俺と同い年である。
俺たちも自己紹介すると、俺が奴隷持ちだということに驚きの声をあげられてしまい、他の冒険者たちも羨ましがっていたが、ルノは誰にも渡さないよ。
銀翼の剣の面々はギルドでも名が知られているパーティらしく、色々なパーティが挨拶にきており俺たちはいろいろな意味で置いてきぼりを食らっている。
一番驚いたのはラインハルトのオッサンが、元Aランク冒険者だったってことだった。だからギルド内でも偉そうだったのか……。
スギナミ洞窟はシンジュクの町から二日ほど歩いた場所にあるらしく、ゲーム時代は行ったことがあるがこの世界だとギルドランクが低いと入らせてくれないから行ったことはない。たしかオークやゴブリン、コボルトだけではなくホブゴブリンやゴブリンシャーマンなどが出没するはずだ。スギナミ洞窟はCランク以上が入れるが、一人でもランクが低い人がいると入ることができなくなるとの話を銀翼の剣のミライドさんから教えてもらった。
「腰の剣を見る限りシノミヤとルノは前衛職なのか?」
ローラーさんが聞いてきた。
「俺は前衛職も後衛職もできますが、ルノは前衛職ですかね?」
「なんで疑問形なんだ?」
「こいつ、怖がりなんですよ。戦闘に向いてないんじゃないって思うんっスよね」
ヨヨギ村での一件やスイッチされた一件などを話すと、ローラーたちは笑っていた。ルノの口元は笑っているが目が笑っていない。その腰の剣は? と聞かれたら飾りだと本気で言いそうだから怖い。
街道を歩いているからか魔物と出会うことはなく俺たちは夜を迎えたが、俺たち低ランクの冒険者は不寝番はやらなくて良いと言われるが、食事は俺たち低ランク冒険者が作ることとなった。ここで問題が一つ発生した。みんなはルノの料理を期待していた。だが、ルノは料理ができそうに見えるが全く料理ができない。すべての料理は俺が作っている。
普通に考えれば奴隷が主人のために食事や下の世話などをすると思われているが、こいつにそれを当てはめてはいけない。下の世話はやろうとしてくるが俺が拒んでいるだけだが……。
「ルノ、みんなお前の料理を期待しているらしいが、どうする?」
「ご主人さまも知っていると思いますけど、私は料理なんてできないですよ」
だったら何ができるんだよ!
「あちらの岩陰でご主人さまがいつものインチキで料理を作り、私がみんなに運びますよ」
本当に何様のつもりだよ……こいつ。だが、みんなが期待しているのならやるしかない。俺はルノと共に岩陰に隠れて持っている食材は何があるのか確認して、調合で料理を作るとルノがみんなの下へ食事を運んでいく。すると銀翼の剣から歓声のような声が上がる。
「ご主人さま、どうやら美味しいらしいですよ!」
それは嬉しいことだが、みんなを騙しているのは心苦しい。
「シノミヤはいつもこんな旨い物を作ってもらっているのか」
アッキーさんが言うが、俺が作っているだけでルノは食べているだけ。洞窟の中では隠し通せないからあとで本当のことを言っておこう。あとで聞いた話だが、俺たちの方は賑やかな食事だったが、アーノルドたちの方はかなり不満の声が出ていたらしい。マリアンヌさんもルノと一緒で料理が苦手だったらしく、先輩冒険者たちに色々言われていたようだった。
夜は不寝番をしないでよいとの話だったのでルノは俺に毛布を要求してきた。あれ? こいつは俺の奴隷だったはず……。
「ずいぶんと優しいご主人さまだな。シノミヤは」
ルノの寝顔を見ながらローラーさんたちが言ってくるが、別にやさしくしているつもりはない。
「こいつが我が儘なだけですよ。それに……」
ルノが寝ているうちに彼女が食事を作ることができないことを言うと、ローラーさんたちは大笑いした。いやいや、本当なんだって……。
「明日も早いからシノミヤ休むと良い」
ミライドさんが優しい口調で言ってくれたので、言葉に甘えて先に休むことにした。
日が昇るころに俺は目を覚まして食事の準備を始めるが、ルノは起きてこない。本当に良い根性をしてやがるので俺はルノの頭を叩くと、ようやくルノは目を覚ましたのだが、寝ぼけているらしく服を脱ぎ始めようとしたので今度は拳骨を落とした。どうして毎度発情してるんだよ……。
「ご主人さまはすぐ叩く……」
どの口が言ってるんだよ。
「お前はサボってばっかだな。いいから働けよ」
「働いてるっちゅーねん。私だって頑張ってるちゅーねんて……」
なんで関西弁を知ってるんだよ。しかもこのやり取りを見ていた不寝番していたパーティが笑っていた。恥ずかしい。
みんなが起きて朝食を食べる。相変わらず運ぶのはルノの役目で、周りからチヤホヤされていて本人はそれが嬉しいらしく尻尾を揺らしていた。
再び移動を開始した俺たち。あともう少しで洞窟に到着というところで魔物の集団が襲ってきた。俺たち低ランクの冒険者は後方で待機だ。もし俺とルノの二人だったらと考えると経験値がもったいない気分になるが、ルノはホッとした顔をしていた。
「もどかしいね、キョースケ」
俺たちよりもランクが低い扱いを受けているアーノルドが言ってきた。
「別に俺たちは構わねーよ。無理に危険な場所に飛び込む必要はないからな」
「僕たちは直ぐにでもランクを上げたいんだ」
「……焦る必要はないだろ。俺たちは冒険者になったばかりなんだ」
「だけどキョースケはすでにブロンズプレートじゃないか。だからそう言えるんだよ」
「なりたくってブロンズになったわけじゃないけな。俺は生き急いでねーし、ルノとのんびり暮らせればそれでいいよ」
カレンが俺のランクを上げたい理由は何だったのだろうか?
「そんなことを言っていられるのは今のうちさ」
アーノルドが俺のことを敵視しているのは雰囲気で分かった。
「アーノルド、俺は味方じゃないけど敵でもないぞ。相手を見誤るなよ」
納得してなさそうな顔をしているアーノルド。ルノは何が起きても構わないようストレージから銃を取り出して両手でグリップを握っていた。
前の方で何か進展があったらしく、ルナさんがやってきた。
「何かピリついた雰囲気だけど……大丈夫?」
「俺たちは緊張してるんですよ。低ランクですからね」
「なるほどね。慌てる必要はないわ。真面目に活動していれば一年もすればメタルプレートになれるはずよ。ギルドはちゃんと評価しているはずだからね」
ルナさんがアーノルドたちに向かって言うと、アーノルドたちは少しだけホッとした顔をした。さすがBランクの言うことは違うな。
「貴方たちはまだまだ伸びしろがある。慌てないでコツコツ経験を積んだ方がいいわよ。生き急いでも良いことはない。私はそんな人たちをたくさん見てきた。こんな職業だとしかたがないけどね」
さすがヒーラー。俺とは言葉の重みが違う。しかし、マリアンヌさんがルナさんを睨んでいるように見えるのは気のせいか?
「それでルナさんはどうしたんですか?」
「戦闘が終わったことを伝えに来たの。そしたらピリピリしているじゃない? シノミヤ君が何か言ったの?」
「別に何も言ってませんよ」
ルナさんは「なら良いけど、面倒ごとだけはやめてね」と俺たちに言い聞かせるように言う。俺は何も悪いことを言っていないから気にしないが、アーノルドが何か言いたそうな顔をしていたのが気になった。




