第23話 初体験
「絶対に私では倒せません!」
だったら何なら倒せるんだよ。
「なら、どうするんだ? もし、俺があいつらを倒す依頼を受けたら、お前だって戦わないといけないんだぞ?」
「……その時に考えます」
使えねー。
「お前だって冒険者なんだぞ。俺に何かあったらお前ひとりで生きていかなきゃならねーんだぞ」
「その時はご主人さまの後を追いかけるまでです!」
カッコ良い言い方をしているが立場が逆だろ。
「ウダウダ言ってねーで、とにかく行ってこい!」
俺はルノを押し出すとゴブリンがこちらに気が付いて武器を手にした。それを見たルノは尻もちをついて怯えている。
「あっあわわ……ご、ご主人さま……助けてくださーい!」
「相手は最弱のゴブリンだぞ。腰の剣を抜けばお前でも倒せる相手だぞ」
「む、無理ですよ……怖いです! ほ、ほんとうに助けてくださいよ!」
俺は黙って見守ることにした。現実はそんなに甘くはないのを理解してもらわないといけない。ゴブリンは手に持っているこん棒のような物を振り上げるとルノは慌てて剣を抜いて構えた……が、座り込んだ状態でどうやって戦うのだろうか?
「む、無理……死んじゃうよ……」
歯をカチカチ鳴らしながらルノは言う。ゴブリンはルノの剣を警戒しているのか、様子をうかがっている。
「ご、ご主人さま! 何でも言うことを聞くので助けて!!」
叫びながら剣を振り回すルノ。逆に危なくて近寄れない。
しかし俺は助けることをしないで見守っていると、ゴブリンは何かを叫んでいるようで魔物の気配が増えてきた。もしかしたら近くにゴブリンの巣があるのかもしれない。これ以上はルノが危険かもしれないので助けることにしたが、ただ助けるだけでは成長にならない。
「本当に無理ですー!! た、助けてご主人さまー!」
「——仕方がない、本当に言うことを何でも聞けよな」
ルノの前に立ち、ゴブリン三匹を持ち前のスピードと能力で始末して振り返ると、ルノは頭を抱えて座り込んでおり、地面は湿っていた。まさか漏らすとは思っていなかった。
ストレージからスナイパーライフルを取り出し、サプレッサーを取り付けてスコープを覗き込み魔物の気配がする方を探ってみると、ゴブリンが数匹こちらへ向かってきていたので狙い撃って始末した。
ゴブリンは光の粒子となって消えていき、残ったのは魔石のみになって俺はそれをストレージにしまった。
「ルノ、終わったぞ」
震えながら目を瞑って頭を押さえていたので同じ目線までしゃがみ声をかけると、ルノは恐る恐ると目を開けて声を上げ抱き着てきたが、ルノの足元はびしょ濡れになっていた。
落ち着くまで抱きしめてあげると、しばらくしてようやくルノは落ち着いたらしく力が抜けて眠りにつきやがった。仕方がないのでルノを背負って狙撃で始末したゴブリンのもとへ行き、魔石を拾ってから安全な場所まで移動した。
ルノに生活魔法を使い、取り敢えず綺麗にしてから毛布を掛ける。本当は火を焚きたいがルノを一人にするわけにはいかないため、明かりは星空の光だけである。しかも夕飯を食べ損ねたのは言うまでもない。
夜が明け、ようやくルノが目を覚ましたと思ったら後退った。なんで怯えた目をしてやがるんだ?
歯をカチカチ鳴らしながら震えており、まるで怯えた獣のようだ。
「ゴブリンなら俺が始末したぞ」
「も、もう……怖いこと……しないですか?」
「だから、ゴブリンは全て始末したって……」
「——ち、違います!」
何が違うのだろうか?
「も、もう……一人で戦わせようなんてしないでください! 本当に怖くて死ぬかと思ったんですよ!」
怯えていたと思ったら今度は怒っている。
「分かったわかった。一人で戦わせない。でも、俺の言うことを聞くんだろ?」
唸り声をあげながらジト目で見つめるルノ。こうしている時間がもったいないので俺は毛布をストレージの中へしまおうとしたのだが、ルノの漏らしたものの匂いがしてきたので、俺は深い溜め息を吐いてストレージ内に仕舞い、代わりに剣を取り出して装備した。
「朝飯は簡単に済ませるとして、先ずは先を急ぐぞ」
ストレージからパンを取り出してルノに差し出すと、奪い取るように受け取り急いで食べやがった。俺も食べようとしたのだが、それも奪い取り自分で食べやがった。このしょんべんガールは……。それから何度も話しかけるのだが、ルノは黙って俺を睨んでいる。俺はご主人さまじゃねーのか?
話かけても無視されるため、俺は黙って森の中を歩いていくと動物の気配を感じて足を止める。ルノも気が付いたらしくこちらを見ており、どうするのか聞きたそうな眼をしていた。
ストレージに仕舞っている肉が乏しいのでどうにかして仕留めたいのだが、ルノの眼は「できれば回避したい」という目をしている。この世界の動物は、犬猫以外は狂暴で襲ってくるため討伐対象になっている場合もあり、仕留めた後に掲示板を確認する必要があった。向かいたいが向かいにくい空気が流れており、ストレージからスナイパーライフルを取り出して構える。スコープから見える動物は猪で、今夜は猪鍋が食べあれる可能性があるが、全てはルノしだいだ。
「……ご主人さま、それは何ですか?」
久し振りに口を開いたと思ったらライフルを指差して聞いてきた。
「殺傷能力が高い武器だよ」
簡素的に答えるのだがルノは首を傾げてこちらを見ている。
「ルノ、猪鍋を食べたくないか?」
猪鍋と聞いてルノはお腹を鳴らした。本当に色気より食い気だなこの女は……。
どうやら猪鍋は食べたいらしいのでそのまま仕留めることにしてトリガーを引くと、乾いた音が響き渡り、ルノはしゃがんで身を潜めた。なんだこの生き物は……。スコープを覗き込むと猪は倒れており、どうやらしっかりと仕留められたようだ。
「猪を仕留めたから回収に行くぞ」
「え? え? どうやって仕留めたんですか? それに今の音はいったい……あ! 待ってくださいよ、置いていかないでください!」
質問に答えるのが面倒くさくなったのでストレージにライフルを仕舞い、俺は先を急ぐことにしたらルノは慌てて起き上がり追いかけてきた。銃の仕組みを説明したところでこいつの頭で理解できるとは思えない。それに火薬について説明するのも面倒だ。以前に動物狩りを行った際、どうやって仕留めたのか冒険者ギルドの受け付けで聞かれたことがあって、銃のことをせつめしたらこの世界では魔法が中心となっているため火薬が製造されていないらしく、理解してもらえなかったことがあるのだ。
だからルノに説明しても理解してもらえないはずだから、魔法の武器として認識してもらえばよいだろう。
スタスタと先へ進んでいくと魔物の気配を感じとる。ルノも気が付いたのか俺の背中にへばりつくようにくっ付いてきた。歩き難い……。
「この茂みの先に猪がいるはずだ」
「ほ、本当に仕留めたんですか? どうやって仕留めたんですか! ねぇ! 聞いているんですか!」
こいつは本当に俺のことを何だと思っているのだろうか?
茂みの先に猪は倒れており、ルノは驚きの声を上げて「猪鍋!」と連呼するが、その鍋料理を作るのは俺である。ルノは何のために俺の側に居たいと思っているのだろうか。疑問である……。
猪をストレージに仕舞い込むとルノは「今夜は猪鍋ですか? ねえ! 聞いてますか!」と子供が強請るかのように聞いてくる。元気になるのは良いが、現金すぎる。
「あと数匹仕留めたら猪鍋にしても良いぞ」
「やったぁ!」
こいつの中では確定しているようだが、次の獲物が猪とは限らない。他にも動物は沢山いるんだぞ。
その後は魔物の気配はするが、動物の気配はない。
「そろそろ夕食にいたしませんか?」
「致しません!」
日が暮れるまで先に進んでおきたい。後ろではご飯が食べたいと連呼する残念ガールがうるさいが、俺は朝から何も食べてないのだ。昼だってルノに取られ、水のみで頑張っている。
ブーブー文句を言う奴隷を無視して歩いていると、魔物の気配がしてきたので回避しようとしたが、少し様子がおかしい。
ルノは「あっちは危険ですからこっちへ行きましょう」と言っているのだが、魔物の動きが激しくどうやら誰か戦っているみたいだ。
「ルノちょっと待て、誰かが戦っている」
「え? だ、誰が戦っているんですか?」
そんなの分かるはずが無い。とにかく俺は戦闘をしている方へ走っていく。




