第22話 初めての件
旅は順調に進み魔物や野獣などと出会うことなくマツド村に到着した。依頼主は最後まで俺たちと一緒に食事をしていた。ずっとルノに話し掛けていたので、奴隷と言えど女性がいることは強みになると改めて思った。
依頼主から護衛完了のサインをもらい、俺たちは依頼主と別れたのだが、依頼主は俺たちとの別れを惜しんでくれたが、主にルノと別れるのが惜しいのだろう。
「ご主人さま、このあとはどういたしますか? 村で一泊致しますか?」
少し疲れた顔をしているルノ。なんだかんだ言って俺よりも早く起きていたので、疲れが溜まっているのだろう。
「今日は村で一泊しよう。なんだかんだ疲れたし、食材を確保もしたいかな」
俺の言葉にルノは顔を綻ばせて「了解です」と返事をした。
それから俺たちは宿屋を探すと、かなり古い宿屋しかなく食事も提供してくれないのに宿代が銅貨50枚と、かなり高い。正直言ってボッタクリである。
部屋に案内されて思ったのは、改修する前の家と同じくらいボロいであり、ルノが「明日には旅立ちましょう」と嫌そうな声で言ってきた。あの家が恋しいのだろう。
それから露店を観て回ったのだが全てのものが街よりも高く、ルノは俺の財布を心配してきたが、この程度の金額で俺の財布は破産することはない。
宿屋に戻りベッドで横になろうとして気がついたのだが、布団がかなりヘタっていて寝心地が悪そうに感じると、ルノが珍しく「ご主人さま……どうにかなりませんか?」と聞いてきた。
さすがに俺も無理だと思い、布団を畳んで別の場所に置き、ストレージにしまってある布団を取り出してベッドに敷こうとしたら、ルノが生活魔法をかけてベッドを綺麗にした。
「ここの宿屋は不衛生ですから、この程度やっておかないと……」
俺に同意を求めてきたので取り敢えず頷いておいた。それから夕食を作り、久し振りに二人だけで食べる食事は楽しく、ルノも饒舌になりながら夕食を食べておりルノも楽しいのだと感じた。
布団は一組しか持っていないため同じ布団で寝ることになったのだが、これは何時ものことだから気にしないが、久し振りにシングルの布団で寝ると二人ではやはり狭い。そんなことを思いながら横になっていると、ルノは俺に抱きつきいてきた。背中に胸が当たってると言いたいが、それ言うと機嫌が悪くなるため言わずに黙って寝ることにした。
翌朝になり目を覚ますと目の前にはルノの胸があった。どうやら俺の頭を抱き締めて寝ているようである。これもいつもの事なので気にせず、ルノが起きるのを待つことにしていると、ドアを強くノックされてルノは飛び起きるようにして起きた。
何度もドアは叩いてくるため一体何事かと思いながらドアを開けると、宿屋の店員で立っており早く出ていくように言ってくる。回転率を求めているのならもう少し安くした方が良いと思うんだが……。
「——まだ退出時間じゃないでしょ!」
俺たちの話を聞いていたルノが店員に噛みつく。
『奴隷風情が何を言う!』
その言葉にルノは黙ったが、店員を睨みつけている。
『貴方は飼い主でしょ。躾がなってない……ブベラッ!!』
ムカつくことを言ったので殴って黙らせた。
「ルノ、早く着替えろ。こんな胸糞の悪い場所さっさと出ていくぞ!」
驚いた顔をするルノ。ルノは物じゃないしペットなんかでもない。舐めた口を利く奴は殴り倒してやるに限る。急いで仕度するルノを尻目に俺はチェックアウトを済ませて外に出てルノを待っている間に先ほど殴り倒した店員が斧を持って出てきた。
『きさま! よくも! グハッ!』
喋っている間に再び殴り倒すと、ようやくルノが宿屋から出てきた。
「な、なにをしているんですか!」
「襲い掛かってきたから殴り飛ばしたんだよ。あー鬱陶しい。さっさとこんな村出ていこうぜ」
胸糞悪い村だ。
俺たちは早々に村を出ていくと、ルノが恐る恐る聞いてきた。
「なんで……宿屋の店員を殴ったんですか」
「ムカついたからだ。それ以上でも、それ以下もない。ルノ、お前は物なんじゃねー」
「で、でも……私は奴隷ですよ」
「だから何だ? お前を物のように扱ってよいのは誰なんだ? あの店員なのか?」
「それは……違いますけど……」
「それになぁ俺はお前を一度たりとも物として扱ったつもりはない。二度と自分は物だと思うな」
ルノは返事をしない。何故なら泣きながら俺の後を付いてきているから。しかも声を上げながら泣いている。俺は絶対に慰めるようなことをしない。これは俺の問題ではなくルノ個人の問題だからだ……。
無言のまま俺は歩き続けるとルノは黙っている。泣き止んでいるが何かを喋るわけでもない。
「村で問題を起こしたからもう少しだけ先を急ぐぞ」
「……了解です」
普段だったら飯を食べても良いくらい言いそうだったが、自分のことで揉め事を起こしたので黙っているようだ。
それからしばらく街道を歩いていた俺たちだったが、どうにかして早くシンジュクへ戻りたいので街道をそれて森の中へ入ろうとした。
「ご主人さま、そっちは森ですよ?」
「街道を歩いていたら遅くなるだろ? 俺は早く町へ帰りたいからショートカットするんだよ。お前はどうするんだ?」
どうすると言われてもルノは付いて来るしか選択肢はない。ルノは唇を尖らせながら付いてきていた。
しばらく歩いていると日が暮れてきた。そろそろルノが何か言いそうだったので、今日はここらで休むことにした。
「ご主人さまお腹が空きましたぁ~。食事にしましょうよー」
ほら言ってきた。
「たまには自分で食材を探しても良いと思うんだが……」
「森なんて初めて入ったんですから分からないんですよ! 何が食材なんですか!」
「正直に言って俺も知らんが、大切なことが一つだけある……」
「大切なこと?」
「肉が足りない」
そう、村では野菜は購入することができたが、肉だけは売っていなかった。残っている肉はほんの僅かしかない。あの依頼者と一緒に食事をしていたので減りが早かったが、村で補充できるとおもっていたのが原因だ。
「に、肉が無いんですか!」
「無い訳ではないが、町に帰るまで持たないということだ」
「駄目じゃん! 肉が無いと!」
主人に向かっての言葉じゃないが、食料不足だってことは理解できてくれたようだ。
「そ、それに私は狩りなんてしたことが無いんですよ!」
「知らん。やらなきゃ飯に肉は無いだけだ」
絶望的な顔をするルノ。本当にコロコロと表情を変える奴だ。ルノは剣を抜き動物の気配を探り始める。こいつ、飯の時だけ元気だな。
「えぇい! 肉はどこにいやがるぅ!」
今すぐ無くなるとは言ってないが、ヤル気を出しているからそのままにしておこう。
しかし、肉の事となるとコイツは目を血走らせるな。この間のすき焼きを食べた時も肉だけ食べようとしていた。俺が野菜を食べるように言わない限り食べなかった。
「駄目ですご主人さま! この辺りに肉は居ないです」
言われなくとも気が付いているが、魔物の気配はしている。
「近くに魔物がいるので、そいつは叩いておかないと駄目そうだな」
「だから私は狩りなんてしたことが無いんですって!」
先ほどまでの落ち込みようが嘘みたいに声を上げている。
「大丈夫だ、この辺りで出る魔物と言ってもゴブリンかオークのどちらかだよ」
「だーかーらー! 簡単に言いますけど私は魔物なんて見たこともないんですよ! それなのにどうやって戦えっていうんですか!」
「なら、獣なら大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないですよ!」
なら、何なら大丈夫なんだよ……。
「じゃあ、俺と一緒でも難しか?」
そう言うと、ルノは黙ってしまう。俺はこれでもDランク冒険者なのだ。
「取り敢えず相手が何者なのか探るだけ探ってみようぜ」
ルノは納得していないような表情をしているが、言い返す事はせずに頷いた。
気配がする方法へゆっくりと進んでいくと、ゴブリンが三匹ほどおり、辺りを警戒しているようだった。いったい何に警戒しているんだろうか?
「あ、あれがゴブリンですか……初めて見ました」
こいつ、何処ぞのお嬢様みたいな台詞を言いやがるな。本当に俺の奴隷なのか分からなくなる時がある。
「じゃあ、彼奴らをお前が仕留めてみるか?」
「ちょ、無理ですよ! 私が剣を握ったのは先ほどが初めてなんですよ!」
初めて剣を抜いて肉を連呼していたのか? 馬鹿なのか?
「ご主人さまに手柄を譲ってあげます」
いったい何様でこいつは言っているのだろうか。俺は頭を抱えたくなったのは言うまでもない話だ……。




