第17話 平屋の戸建て
ジョアンは「やはり彼女を選びましたか!」と俺が誰を選ぶのか予想していたらしく、俺はジョアンの手のひらで踊らされていたようだ。
奴隷契約は魔道具ではなく体の一部分に刻み込むやり方らしく、俺の魔法で強制解除ができないようになっていた。
魔法薬の中に俺の血を一滴垂らしてかき混ぜ、ジョアンがルノの肩に奴隷紋を描き入れる。これでルノは俺の奴隷となった。
本来であれば奴隷は物と同じ扱いになるため奴隷商館で購入したての場合、服などは与えることはしないらしいが、今回は特別に羽織る物だけをプレゼントされたが、たいして意味はないように思えた。
ラインハルトのオッサンは奴隷も冒険者登録できると言って近々ギルドへ来るように言い、自分の仕事に戻っていく。
取り敢えず奴隷商館から出ていきたい俺は、ルノを連れて店を後にしたのだが、ルノの歩くスピードが遅い。何故なのか少し考えてみると、ルノは裸足で歩いているため歩きにくそうにしていた。なんで俺はそれに気が付かなかったのだろうか……。
靴を履かせるためメニュー画面を開くと【奴隷】のコマンドが点滅していたが、今はそれどころではないため鍛冶でサンダルを作り出し、それをルノに渡す。
「あ、ありがとうございます……ご、ご主人さま」
あれだけの眼力で訴えてきたのに、今はしおらしくなっている。どういうことだ?
「取り敢えず何処か人目につかない場所へ行くぞ」
「は、はい!」
ルノはサンダルを履き俺の後ろを付いてくる。俺は人目が付かない茂みへルノを連れていき、マジックバッグから俺が着ていた初期の服を渡す。
「こ、これは?」
「そんな格好で街をうろつけないだろ。ここなら人目に付かないし着替えられる。後でもう少し良いものを準備するから、今はそれに着替えろ」
そう言って俺は後ろを向き、先ほど点滅していた【奴隷】のコマンドをタッチした。
ステータス※奴隷
名前:ルノ
種族:獣人ハーフ
年齢:18歳
ポイント:0
Lv:0
HP:20
MP:3
STR:8
AGI:12
DEX:9
VIT:15
INT:4
さすが獣人と言ったところと言いたいが、敏捷や生命力が高いが力は低い。これがハーフだからなのだろうか?
「――あ、あの、ご主人さま?」
どうやら着替え終わったようなので振り返ってみると、なぜか全裸で突っ立っており俺は直ぐに着替えるよう『命令』した。体の隅々まで見てしまった……。
改めて呼ばれたので振り返ると、今度はちゃんと服を着ていたのだがルノは不思議そうな顔をしており、どうしてそのような顔をしているのか理由が分からなかった。
ラインハルトのオッサンがくれた地図の場所は街の外れに記しがあり、俺たちはその場所へ向かってみると今にも壊れそうな古びた平屋があって、玄関を開けようとしたが鍵がかかっていた。
オッサンがよこした鍵を差し込んでみると、玄関の鍵は開き、俺たちは恐る恐る中へ入っていく。
「ご、ご主人さま……ここは?」
「知らねー。ラインハルトのオッサンがくれた地図に記されていた場所と鍵くらいしか分からねー」
「ず、随分と古いようですが……」
「どうせあのオッサンのことだ、ただで譲ってやる代わりに自分の手で直せってことなんだろう。それよりもルノ、俺はジョアンのオッサンにお金を払っていないんだが……」
「そのことなら気にしないで大丈夫ですよ。井戸を直してもらったお礼と言っておられましたので、私は譲り渡された形となります」
「でも、奴隷って高いんじゃないのか?」
「ピンキリとなってしまいますが、最低でも金貨30枚ほどになるかと思います。ですが、今回譲り渡される予定だった私どもですが、みんな『いわくつき』でしたから気にしない方がよろしいかと……」
いわくつきを押し付けてきやがったのかよ。だが、全員可愛かったのに、なにがいわくつきなんだろうか。ルノに聞けば一発で分かるはずだが俺には聞く勇気がなかった。
「さて、俺たちの家も決まったことだし、まずは掃除をして布団など日常品でも作るかな」
鎖骨あたりを搔きながら言うと、ルノが前に立ちはだかった。いったい何がしたいんだろうか……。
「ここは私の出番ですね! 掃除なら奴隷の私にお任せください!」
胸をどんと叩いて自信満々にいうのだが、各部屋を見たところ掃除道具がないし、埃が多すぎて一人で掃除するのは難しい。しかも明かりもないので夜の明かりもどうにかしないといけない。さすが知識が4しかない女。
「じゃあ、ルノに任せようと思うのだが……掃除道具もないこの建物でどうやってルノは掃除をするんだ?」
「へ? ……掃除……道具がない?」
「それに建物が結構傷んでるから何かミスをしたら怪我どころじゃすまないが、その点も問題ないということでいいのか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな一気に言われても頭が追い付かないです! 分かりやすくお願いします!」
流石いわくつきの女。
「一つ目、掃除道具がない。二つ目、建物が古くて変なところを触ったら崩れる恐れがある。三つ目、一人で掃除するには規模がでかい。平屋の一戸建てだからって一日で終わる作業じゃない。以上!」
俺の言葉にルノはポカーンとした顔をしている。処理が追い付いていないのだろうか? 掃除道具があったとしても、一日で終わる量じゃないし下手に触って怪我をしたら意味がない。俺がやるのなら怪我をする必要はないが……この量をやるのは嫌だな。
「どどど……どうするんですか! 掃除道具がない! 危険が伴う! 量が多いだなんて聞いてないですよ!」
「お前がやると言ったんだろ」
本当に残念な頭をしているようだ。
「——一人だなんて無理ですよ! 何か案はないんですか!」
ご主人さまに対する言葉遣いじゃないし、あの眼力はなんだったのだろうか。今からでもクーリングオフはできるのだろうか……。
「とにかく、一度黙ってくれるか?」
「なんでそんなに落ち着ているんですか! ギルドへ文句を言いに行きましょうよ!」
こいつ、自分が奴隷だってことを理解していないのか? ラインハルトのオッサンは無償でこの家をくれたんだから、文句を言うのは間違っている。
「ご主人さまの代わりに私が文句を言ってやりますよ!」
「ちょっと黙れって! 一番最初の掃除に関しては生活魔法で何とかなる。問題は別のところにあるのに、なに興奮してんだよ、お前は」
ルノの頭を叩き黙らせ、後ろへ追いやる。そして生活魔法を使い建物全体を綺麗にさせた。
「おおぉ! あれだけ汚れていたのが綺麗になった!」
一瞬で部屋が綺麗になって、ルノは声を上げた。本当にうるさい奴だ。
残りは家財道具類だろうが、取り敢えず今は寝床の確保をするために布団を手に入れないとならない。メニューから【服飾】を選ぼうとしたのだが、服飾の文字がない。神様がデーターの移行漏れさせてしまったのだろうか。鍛冶と調合があるから服飾系の道具を作るのは問題ないが、一から作るのは面倒くさいしルノの服も作る必要があるので、商業ギルドへ行くことにした。ついでにルノの冒険者登録も済ませてしまった方が良いと思い、ルノに声を掛ける。
「ルノ、お前の服や布団などを作りに行くのと、冒険者ギルドで登録をするから出かけるぞ」
「承知いたしました。行ってらっしゃませ!」
「バカ! お前も一緒に行くんだよ!」
そう言うと、ルノは嫌そうな顔をしてサンダルを履いた。考えてみると、ルノの下着も作らなきゃならないし、女性特有の『月の日』対策もしなければならない。やることが山積みだ。
家の鍵を閉めて歩き出すのだが嫌そうな表情を崩さないルノ。コイツは引き篭もりタイプなのだろうか?
「――ご主人さま、店での扱いはご存知ですか?」
唐突にルノが聞いてきた。
「知らん。興味がない。どうせ物のように扱うとかそんな話だろ。バカらしい……俺はそんなルール知らねーから、この世界の常識を求めるな」
レストランのような場所に行くと、床で食べろとかそんな話だろ。だったらそんな店に行かなければ良いだけの話だし、金に物を言わせ椅子に座って食べさせれば良いだけだ。実にくだらない。
俺の言葉にルノは何も言い返すことはなく、先ほどまでとは異なり上機嫌になった。
商業ギルドに到着し、カウンター内の受付嬢に服飾したいので裁縫場を借りたいと話、銅貨50枚と言われたので支払って裁縫場へと足を運ぶのだが、ルノは周囲を気にしている様子で、少し怯えているように見えた。
「取り敢えず布団づくりからだな。その後にお前の服や下着を作る。それで良いか?」
ルノに問い掛けると、体をビクッと震わせたあとに頷いた。何をビビっているのだろうか。
布団と枕はものの数分で出来上がり、今度はルノの服や下着である。男性物の服は何度も作っていたが、女性物の服を作るというのはあまり経験が無い。
「ルノ、お前を採寸しなければならないからこっちに来い」
少し離れた場所で俺の仕事っぷりを観ていたルノ。アッという間に布団を作り上げてしまったので声を失っていた。ルノに近付くと少し嫌な匂いがしてきたので質問をした。
「お前、最後に体を洗ったのはいつだ?」
「――覚えていません」
その言葉に俺は肩を落としたのは言うまでもない。




