第16話 鮮度が命
腹が立つが言いたいことは理解できる。しかし、あの依頼が終わったら俺はパーティを抜けるつもりだった。それを無視して良いわけがない。
だが、アーノルドたちを追いかけても傷に塩を塗るだけであるし、マリアンヌさんの件もある。うかつにアーノルドたちに近寄ることができない。今はそっとしとくべきなのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、泊まっていた宿屋についてしまった。このままチェックアウトをすましてしまおう。
この後はどうしようか考えた結果、俺は商業ギルドで宿屋ではなく一軒家を借りることにして、商業ギルドへと向かった。
商業ギルドに到着し中に入って受け付けへ向かうと、冒険者ギルドにいるはずのオッサンが商業ギルドにきており、俺は動きを止めた。
「待っていたぞ、シノミヤ」
考えてみれば商業ギルドに行くのは宿屋からよりも冒険者ギルドの方が近い。先読みをされたみたで悔しい。
「お前のことだ、宿屋に住むのをやめて別のところで暮らすつもりだろ?」
「何が言いたいんですか……」
「この間言った良いところへ案内してやる。お前なら大丈夫だろうし、先方から申し出があったんだよ」
「せんぽう?」
誰かからの依頼ということか?
「付いて来るのか来ないのか、この場で決めろ。俺だってそれなりに忙しいんだ」
「……分かりましたよ、付いていきますよ」
そう言うとオッサンはニヤリと笑いカウンターから出てきて歩き始めたため、俺はその後ろを付いていく。
「オッサン、こんなことを言うのはなんだけど、俺は一軒家を借りたいんだが商業ギルドで借りることは可能なのか?」
「一軒家を借りたいのなら、商業ギルドではなく不動産屋へ行け。この角を曲がったところにある」
不動産屋があるのかよ……。
「言い忘れていたが一軒家を借りるとの話だけど、この街に一年間滞在してないと借りることは不可能だぞ」
それを早く言えよ。しかし、これでは一軒家を借りることもができない……どうしたものか。
「これは俺からのお詫びだ」
そう言ってオッサンは俺に向けて何かを放り投げたので、俺は少し慌てながらそれをキャッチして確認する。それは何かのカギと地図だった。
「なんだよ? このカギと地図は……?」
「地図の場所へ行けばわかるさ。一応、お嬢様も知らないことだからな」
カレンも知らない? 言っている意味が理解できない。
その後は黙って後を付いていくと、どこかで見知った風景になってきた。
「なあ、オッサン……もしかして水族館へ行くのか?」
「はぁ? なんだそれは?」
どう見ても水族館があった場所に向かっている。もしかして水族館という名ではないのか? じゃあ、いったい何だというのだろうか。
「今から行く場所はお嬢様の旦那様も御用達となっている場所で、失礼がないようにしろよ。だが、どうしてお前に用があるというのだろうか?」
オッサンも分からないで俺を連れて行っているのか?
しばらく無言となり、俺は自分が直した井戸のあるお店に到着した。
「やっぱり水族館じゃねーか……」
俺の言葉にオッサンは首を傾げ、ドアをノックする。すると、昨日会った屈強な体をした男がドアを開けてきて、オッサンは中に入っていくので俺もついていく。オッサンと一緒に魚を見ても面白くねえーだろうな。
屈強な男の後ろをオッサンと一緒についていくと、昨日入ったと思われる部屋の前に到着し、男は扉をノックして返事を待つと、昨日あったオッサンの声が聞こえて屈強な体をした男はドアを開けると、相変わらず眩しく俺は手をかざして日の光を手で遮る。
「おぉ、シノミヤ様とラインハルト殿! こんなに早く来てくれるとは思ってもいませんでしたよ! あなた方は私の予想を裏切るのが好きなようだ」
一日で痩せるはずもないが、小太りの男が椅子に座ってこちらを見ていう。それにしてもオッサンの名はラインハルトというのか……。似合わない。
「ジョアンさん、言われた通りシノミヤを連れてきましたよ」
「本当にラインハルト殿は仕事ができるお方だ! 昨日の今日で彼を連れてきていただけるなんて! なんて素晴らしい!」
このオッサンの名前がジョアン。顔に似合わない名前だ……。
「それでオッサン、ここはいったい何処なんだよ?」
「ここは奴隷商館並びに娼館だ。今日はお前に素晴らしい体験をしてもらおうと思って連れてこようと思ったのだが、どうやらジョアンさんはお前に用があるみたいだな」
「ど……奴隷商館!! それは犯罪じゃねーのかよ!」
「お前、奴隷は犯罪じゃねーよ。何を言っているんだ?」
そういえばお告げに奴隷制度があると書かれていた気もするが、本当に良いのか?
「シノミヤ様は山育ちとお聞きしております! 町や王都の常識について知らないことばかりでしょう。私はそんな貴方をサポートしてあげたいのですぅぅ!!」
サポートって言われても奴隷商館で何をサポートするというのだろうか……。
「いったい何をするつもりだ!」
「言葉に気をつけろ! ギルドを支援してくれているのは辺境伯様以外でジョアンさんだけなんだぞ!」
ラインハルトのオッサンが俺の頭を押さえながら言う。
「別に構いません! 例の物をここへ」
そう言ってジョアンは指を鳴らすと隣部屋のドアが開き、手に鎖をつけた者たちが入ってきた。しかも女性ばかりで、その中には町ではあまり見ない獣人もいる。
「この中にいる一人をお供として連れて行ってくださーい!! 昨日のお礼ですぅぅ!」
昨日のお礼と言われても奴隷を貰うわけには……。
「全員初物でぇーす! シノミヤ様の好きに扱ってくださーい!」
好きにって言われても、どうして良いのか分からねーって。
「おい、シノミヤ。ジョアンさんは一度言ったら引かない人だから、絶対に選ばなきゃならんぞ」
言い出したら聞かないって子供かよ。決めるにしても、どうやって決めればよいのかわからねーし、ここはラインハルトのオッサンに決めてもらった方が……。
「ラインハルト殿ぉ、助言は禁止ですぞ! シノミヤ様の好みで選んでくださーい! 近くによってもかまいませーん」
ラインハルトのオッサンが口出ししたことで、オッサンに決めてもらうことができなくなった。取り敢えず一人ひとり名前を聞いていくか。
俺は近くによって一人ずつ自己紹介をしてもらうことにした。
全員の名前を聞いたがこれという名が決まらず、年齢も申告してもらうことにしたところ、若くて12歳で、一番年齢が高くても22歳だった。
ジョアンはゆっくりと見てくれと言う。見てくれと言われても何を基準に見れば良いのか分かるはずがなく、俺は狼狽えているだけだった。
「もっと近くで見てくださーい! でも、お触りは禁止でーす」
近くで見ろと言われても彼女たちの服装は薄着……。生地胸の突起物が薄く見えるほど薄いし胸の形も分かるほどでみんながスタイル良くみえる。
誰が良いのか迷っているとどこからか視線を感じた。こちらを見ているのはジョアンだけだと思っていたら、奴隷さんたちの方からも視線を感じて、誰が見ているのか顔を確認すると獣人の子が自分を選べと言わんばかりに見つめてきていた。
たしか年齢は18歳で名前はルノ。背の高さは150センチほどになり、胸は小ぶりで猫のような耳をしており尻尾がある。獣人と言っても耳や尻尾以外は人と変わらない。魔法が苦手な分、人よりも物理攻撃が得意で素早さを生かした戦い方をする。だが、獣人化したらどのような姿に変わるのかは分からない。
「えっと……君は獣人化できるの?」
眼力に負けて声をかけると、少女は首を横に振った。
「申し訳ありません! その子は獣人と人のハーフでして、獣人化することができないんですぅ。しかも魔力も弱いため魔法も使えないときておりますですはいぃ……」
ゲームではありえないことが現実ではあることを知った。そんな設定があると、誰も遊ばないから取り入れなかったのだろう。
「今日は話を持ち帰る……」
「それはできません! 鮮度が命でぇす。今決めてください!」
「だったら、なんで女性ばかりなんですか?」
「使い道が沢山ありまーす! それは言わなくても理解できると思ってまーす!」
嫌な言い方をするジョアン。俺は再び彼女らを見ると獣人の少女は自分を選べと目で訴えかけており、俺はその瞳に負けてしまったのであった。




