第12話 プライドで飯は食えぬ
店主の計らいでアーノルドたちも食事をすることになったのだが、お腹が空いていたのだろうか……飯をほう張るように四人は食べる。
「お前ら、まともに食事をしてないのか?」
疑問に思って聞いてみた。すると、全員は食べる手を止めて固まった。はい、図星。
「はぁー……。アーノルドやロロッソ、ビンセントの三人は男だから良いとして、マリアンヌさんは食べさせなきゃ駄目でしょ」
俺の言葉に悄気る四人。
「いつから食べてないんだ? 宿には泊まっているのか?」
さらに動きを止める四人。
「マジかよ……。まさか訓練後から食べてないのか?」
「違うんだ! 訓練後は食べたんだよ」
アーノルドが否定してきたので話を聞こう。
「訓練後はお腹が空いて……」
要するに、訓練後は町に戻って取り敢えず有り金で飯を食べたのだが、そこで金を使いすぎて宿に泊まる金も無くなってしまったとアーノルドは言う。四人もいるのに後先を考えていなかったのか? 馬鹿なのか?
「それで……これからどうするんだ?」
黙る四人。黙っていても仕方がないだろ。
「まさか訓練を受けていたときの方が良かったなんて言わんだろうな……」
黙る四人。今までどうやって生活をしていたんだと聞きたい。
「店の人に聞いて、部屋が空いているか聞いてやるよ。しばらくは俺も仲間になってやる」
俺の言葉にアーノルドは「施しは受けない!」と言うが、三人はアーノルドの口を塞いで了承した。落ちぶれるって怖いなぁ……。
店の人に空室があるか確認すると、店主が空き室を作ると言ってくれてくれたが一部屋しか空き室を作ることができず、仕方なくマリアンヌさんが空き室を使ってもらい、残りは俺が泊まっている部屋で休むことになった。
一人部屋に四人は狭っ苦しい。しかもアーノルドの機嫌が悪く空気が重い。
「――仕方がないだろ、アーノルド」
重っ苦しい空気をどうにかしたいのかビンセントが言う。ここは三人で話し合ってもらうしかない。
「そうだよ、マリアンヌのことを考えたらありがたい話だろ? それにキョースケは頭が切れるし物知りだ」
ロロッソ、お前って良いやつだな。
「お前らはプライドってやつが無いのかよ!」
プライドで飯を食えるのなら、みんながハッピーになるだろ。
「キョースケもなんか言ってくれよ」
ビンセント、助けを求めるのが早いだろ……。
「別に嫌ならそれでも構わねーけど、これからどうするんだ? 犯人は見つけられない依頼の達成で次の依頼が受けられない。そんな状況でどうやって生活していくんだよ? せめてマリアンヌさんだけでも飯を食わせなきゃ駄目だろ。男なら……」
黙る三人。これ以上話をしても先に進まないため、話題を変えよう。
「それで、誰が床で寝るの? ベッドは一つで布団は二組。一つは床に敷かなきゃならねーけどな。二人一組……」
あれ? 再び室内がピリついたぞ?
「……ジャンケンで決めないか?」
どんな状況でもベッドは譲らないぞ!
「俺はベッドを譲るつもりはないぞ!」
アーノルド、プライドはどうした!
「ルールはどうする?」
ビンセントが聞く。負けた奴が下で良いんじゃね?
「普通に考えたら負けた人が下だよね」
ロロッソが言い、俺たちは頷いた。
「せーの、じゃんけん……」
なぜか俺も参加してしまった。もちろんベッドを死守する……ことができなかった。
翌朝になり目を覚ますと、目の前にはじゃんけんに負けたアーノルドの顔が側にあって、俺は慌てて起き上がった。
「最近床で寝てばかりだな……」
呟きながら着替えて外に出る。いくら一緒に行動すると言っても、井戸を使えなくなった犯人を探さなきゃ俺も他の依頼を受けることができない。
そう思いながら頭を洗うために井戸へ向かうと、マリアンヌさんが井戸に来ていた。
「あれ? マリアンヌさん?」
「あ、キョースケさん。今回は宿を提供していただきありがとうございました」
「ゆっくり寝れましたか?」
「はい、久し振りにぐっすり寝れました! それで、キョースケさんも水浴びですか?」
「たまには頭を洗わないと気持ち悪いんですよ」
ストレージからタオルを取り出し、手押しポンプから水を出して桶に水を溜める。
「キョースケさんは綺麗好きなんですね……」
「俺がいた場所では毎日風呂に入ってましたからね。風呂に入らないと気持ち悪くないですか?」
シャンプーを取り出してポンプを一回プッシュ。手になじませていると視線を感じた。視線の送り主はマリアンヌさんで、俺はマリアンヌさんを見て「どうしたんですか?」と質問した。
「……それ、なんですか?」
「これですか? ただのシャンプーですけど?」
「しゃん……ぷう?」
「シャンプーは頭に使う石鹸です。これで頭を洗うと気持ちいいんですよ。知らないんですか?」
話ながら頭を洗い出すと、俺の頭は泡だらけになった。
「も、もしかしてキョースケさんは貴族様なんですか!」
シャンプーの泡が邪魔しているが、マリアンヌさんが勘違いしていることは分かった。
「アーノルドたちから聞いてないんですか? 俺は山育ちだって」
「――でも! 私たちに宿を提供してくれるし、石鹸なんて高級品を使っているじゃないですか!」
……忘れてた。お風呂は貴族しか使ってないという話を……。だが、俺にはお化けステータスがあり、頭の回転も速くなっている。
「これは俺が作ったんですよ、石鹸は牛油と灰で簡単に作ることができるんです。難しい話じゃないでしょ?」
たしか、牛油と燃やした後に残る灰を使えば簡単に石鹸が作れたはずだ。
「う、嘘……」
「嘘なんてついても得にならないじゃないですか。マリアンヌさんも使ってみますか? シャンプー」
手押しポンプのハンドルをピストンさせ、シャンプーを洗い流す。うん、すっきり! タオルで頭を拭いていると、マリアンヌがモジモジしていた。
「ほら、手を出して……」
そう言うと、マリアンヌは恥ずかしそうに手を出したので、シャンプーのポンプをワンプッシュする。
「それを手になじませてから頭を洗ってください」
マリアンヌさんは俺に言われた通り手になじませて、頭をマッサージするようにマリアンヌは洗い始めるのだが……なぜか泡立たない。マリアンヌさんは不思議そうな顔をして俺を見つめてきた。
何かの本で頭を洗っていない人がシャンプーを使っても泡立たないと記載されていたことを思い出し、不思議そうな顔をしているマリアンヌさんの頭に直接シャンプーをぶっかけると、ようやくマリアンヌさんの頭は泡立ち始めた。
そして、俺がやったようにシャンプーを洗い流してタオルで頭を拭くと、マリアンヌさんは気持ちよさそうに「さっぱりした気がします!」と言った。
マリアンヌさんと別れて部屋に戻るが、アーノルドたちはまだ眠っていた。起こすのも可哀想だからそのままにして再び井戸に向かう。理由はアーノルドたちの依頼をこなすためだ。
再び井戸に戻ると、客と思われる人たちが水浴びをしていたため、邪魔してはいけないと思い食堂へ向かった。腹が減っては戦はできぬと言うしね。
食堂に到着すると、マリアンヌさんが座っていたので近くに行くと、マリアンヌさんは俺に気が付いたようで、手を小さく振ってきた。
「キョースケさん、あとの三人はどうしたんですか?」
「まだ部屋で寝てますよ」
マリアンヌさんは残念そうな顔をしながら笑った。だが、どうしてマリアンヌさんが食堂にいるのかは謎だ。
「先に朝飯でも食べますか?」
先ほど頭を洗ったからマリアンヌさんの髪はサラサラになっているようで、マリアンヌさんは毛先をイジりながら「はい!」と返事をした。
マリアンヌさんはアーノルドたちと同い年の18歳。村娘の女性で18歳は行き遅れと言われているらしく、それが嫌になってアーノルドたちと冒険の旅へ出たと言うことらしい。アーノルドたちも18歳らしく、俺は年下にタメ口を話されていると言うことのようだ。もう少し年上を敬え!
アーノルドは剣士、ビンセントは僧侶、ロロッソは斥候、マリアンヌさんは魔法使いというパーティらしい。
食事が運ばれてきて俺たちは食べ始める。昨日みたいにマリアンヌさんは慌てて食べるようなことはなく、ゆっくりと落ち着いて食べており心が満たされていることが分かる。
「――マリアンヌさん今後について少し考えていたんですが、一度商業ギルドへ行ってみませんか?」
食事をしながらマリアンヌさんに聞いてみた。
「商業ギルドですか?」
食べる手を止めて俺を見る。
「井戸の修繕は商業ギルドに依頼したらしいんですよ。そこから誰に商業ギルドが依頼したのか調べるんです」
俺の言葉にマリアンヌさんは少し驚いた顔をしていた。
「あとは罠を仕掛けるために、全ての井戸へ行かなければなりませんし、それに明日の宿を確保しなければならないッスね。男四人は狭いですから」
男四人は狭いと言うか、起きた瞬間に顔が目の前にあるのは女性が良いだけだ。男の顔があるのは気持ち悪い。マリアンヌさんは笑っているが、笑い事ではないのだ……絶対に。
俺としても早くこのメンバーから別れたい気持ちがある。マリアンヌさんやアーノルドたちは悪い奴らではないが、のんびり暮らしたいのだ。




