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第11話 井戸の改修

 ウジ虫、ゴミ野郎、豚野郎など、汚い言葉で罵られながら俺は六日間を過ごした。他のメンバーは俺より先に訓練を受けていたため解放されている。

 解放された瞬間、全員は歓喜の涙に包まれており抱き合いながら喜んだ……が、俺はどうして解放されないのかエレンに問い掛けると一日遅れているからだと言われ、膝から崩れ落ちた。それを見ていたカレンは嬉しそうに笑っていやがった。

 俺の絶叫は歓喜の声でかき消され、俺の存在を忘れたかのように仲間だと思った奴らは帰路についた。俺は一人で誰もいない六人部屋にあるいつも使っている布団で眠りについた。

 六日間はそれほど苦にはならなかったが、最後の一日は本当に苦行と言ってよい一日だった。

 朝早く木剣でカレンに叩き起こされ、食事すらさせてもらえずに基礎体力作りから始まったが、カレンとマンツーマンとなっているため苦しい表情を見せると、カレンが本気で木剣を振り落としてくる。俺はそれを避けながら言われたメニューをこなすのだが、俺が必死になっている姿が嬉しいのかカレンは大笑いする。マジでマゾだと思った。

 午後のメニューは今まで他の訓練生と素振りなどを行ってきたが、最終日はカレンとエレン、セリナの三人を相手にトレーニングをさせられる。実際は楽勝なのだが、苦戦している演技をしなければならないため普段以上に疲れた。

 最後の訓練が終わった時、エレンやセリナが優しい言葉をかけてくれて俺は本当に嬉しくなって涙が溢れてきたが、カレンが泣きそうな顔をしているのを見て涙が吹き飛んでいった。

 カレンにお礼を言うと、カレンは涙を流し顔を隠したのだが「明日から誰を叩けばいいんだ……」などと言い感動していた自分がバカだと思った。

 首に付いてあったチョーカーを取り外され、帰路につくことを許されたため引き留められる前に馬車に乗って帰路についた。

 シンジュクの町へ戻ってきてすぐに俺はいつも泊まっていた宿屋へ向かったのだが、今日は満室らしく別の宿屋を探すことになった。どうやら新人冒険者たちが泊まっているらしく、俺と一緒に訓練を受けた奴らではないだろうか気になったが、勝手に調べるのは野暮だと思い、何軒か宿を回って同じくらいの値段の宿に泊まれることとなった。

 今日くらいは風呂に入りたいと思っていたのだが、どうやら井戸のロープが切られてしまっているらしく水浴びすらできないと言われ、俺は仕方がなく生活魔法で体を綺麗にした。

 翌朝になり俺は目を覚ましたが、訓練がないことを思い出して昼までのんびりしていると、突然ドアをノックされ、俺は体が飛び跳ねるくらい驚いた。


「だ、誰でしょうか……?」


「お休みのところ申し訳ありません、宿屋の店主でございます……」


 宿屋の店主と聞いて俺はホッと息を吐きドアを開ける。


「……どうかされたんですか?」


 恐る恐る訪ねる俺。


「大変申し訳ありません、シノミヤ様は冒険者だと従業員に聞いたもので……」


「たしかにそうですけど、それが何か?」


(うち)の者から店の井戸について聞いておられると思いますが……」


 困ったような顔をしている店主。


「ロープが切れて使えないって話ですよね? たしかに聞いておりますが……」


「はい……その通りなんですが、実はこの辺り一帯の井戸が、何者かによってロープを切られているんです」


 と言うことは、最初に泊まっていた宿の井戸は、まだ直っていないということか……。


「えっと……立ち話もなんですから、中へどうぞ」


 そう言って店主を部屋の中へ招き入れ、詳しく話を聞くことになった。

 俺はベッドに腰掛けると店主は椅子に腰掛けた。


「えっと、取り敢えず詳しく話を聞かせていただけますか?」


 困った顔をしている店主。結構深刻なのだろうか?


「これは一週間くらい前の話なんですが、ここいら一帯の井戸なんですがロープを切れていることがありまして、商業ギルドに修繕の依頼を出したのです」


 冒険者ギルドに依頼を出したのではなく、商業ギルドに修繕の依頼を出したのか。商業ギルドに顔を出す必要があるな。


「それで?」


「その日に修繕しにギルドの人が来てくれたんですが、それから……」


 数日もしないうちに再び切られていたとのこと。不審に思ったギルドの職員が冒険者ギルドに調査依頼を出したが、このような依頼を受ける冒険者がいないらしく俺に相談してきたようだ。


「取り敢えず俺が修繕というか、井戸を改修しても良いですかね?」


「使えるようになるのなら修繕でも改修でも構いません! お願いできますか?」


「分かりました、その依頼を受けます」


 そう言うと、店主はお礼を言って部屋を出ていった。俺は外に出て井戸のある場所に向かうと、アーノルドたちと鉢合わせた。


「あれ? キョースケじゃないか。訓練は終わったんだね」


「よう、俺は昨日からこの宿屋にお世話になっているんだ。お前たちはどうしたんだ?」


「僕たちはギルドで井戸の調査依頼を受けたんだよ」


 どうやらギルドは新人向けに依頼を出していたらしい。


「店の人に井戸が使えないって言われてね、見に来たんだ」


「そうなんだ……。僕らが調査した限りでは誰かにロープを切られているようなんだ」


 知ってるよ。どうやらそのくらいしか分からないみたいだな。


「アーノルド、足跡とかは調べたのか?」


「足跡?」


 駄目だこりゃ……。複数の現場を行ったようだが、一番最初に調べるところを踏む荒らして移動してるようだ。


「井戸の周辺をよく見ろよ。あっちこっちに足跡があるだろ。この中には犯人と思われる足跡もあるはずだ」


 俺の言葉に感心しながらアーノルドたちは足下を見てみるのだが、自分たちの足跡で証拠がなくなっていることにようやく気がついた。


「調査するやつが現場を荒らしてどうするんだ? 訓練でも言われただろ……」


 あきれた様子で俺が言うと、アーノルドたちは落ち込んだ表情をして俯いてしまった。他の場所で気を付けてみればいいだけの話だが、落ち込みかたが半端ないのが気になる。


「まさか……ここが最後って訳じゃないよな?」


 苦笑いしながら俺を見るアーノルド。


「やっちまったことは仕方がないから、次は気をつけるんだな。俺はここの井戸を改修するから、見ていけば?」


「改修? 修繕じゃないのか? キョースケ、何をするつもりなんだ?」


 アーノルドの仲間である、ロロッソが聞いてきた。


「店主に言われてね、直す代わりに改修して良いって言われたんだよ。暇なら見ていくか? これ以上の調査もできないだろ」


「改修って、どうやるのさ?」


 ロロッソは興味津々のようだ。


「ここら辺の井戸は『釣瓶式井戸』っていって、ロープで桶を汲み上げるやり方だろ? それだと今回みたいに壊されちまう可能性があるから『手押しポンプ』ってやつに変えるんだよ。銅や鉄だったら壊すのが難しくなる」


 俺は説明しながらストレージ内にある手押しポンプと配管を取り出して、井戸に鉄板の蓋をして手押しポンプを設置する。時間的には10分程度である。


「これだったら釣瓶式の井戸よりも全然力を使わずに水を汲み上げることが可能だ。マリアンヌさん、水を汲み上げてみてください」


 俺に言われ、アーノルドの仲間で唯一女性であるマリアンヌ。恐る恐るハンドルを掴んで動かし始める、マリアンヌは「うわ、軽い!」と言ってハンドルを上下に動かすと吐き出し口から水が出始めたので、吐き出し口のところに桶を置いて水を桶に入れた。


「凄いよキョースケ!」


 驚いた顔をしながらアーノルドが言う。


「こんなの高校で真面目に勉強していたら理解できるだろ。上下運動で吸込管とシリンダー内の空気が排出されるから……って、ここに高校があるわけじゃねーから説明しても分からねーか……」


 俺の説明に不思議そうな顔をしている四人。この世界は中世レベルの文明って神様が言っていたことを思いだした。


「まぁ、取り敢えずこれで依頼は達成だな。店主に報告するか……」


 飯代くらいはタダにしてもらわなきゃな。四人を尻目に俺は宿屋の中へ入っていき、店の人に井戸が使えるようになったことを伝えると、慌てて店主に報告しに行った。俺は井戸のところへ戻ると、アーノルドたちがまだ井戸に居た。


「まだ居たのか? 犯人探しは大丈夫なのか?」


「いやぁ……この後どうなるのか知りたくてね」


 苦笑いをするアーノルドたち。先ほど言ったばかりなのに速攻改修したということで、店主は慌ててやって来た。


「シノミヤ様! 井戸が使えるようになったって本当ですか」


「本当ですよ。改良してあるんで確認してもらえますか?」


「もちろんですよ!」


「じゃあマリアンヌさん、もう一回やってもらえますか?」


 俺の言葉にマリアンヌは頷きハンドルをピストンし始め、吐き出し口から水が出てきた。店主は自分でも試し、喜びの声を上げた。


「ポンプの中が錆びないようにしてありますから安心して使えますよ。これで何かしたら大きな音がするはずなんで、簡単には壊せないはずですよ」


「キョースケそこまで考えてたの!」


 アーノルドが驚きながら聞く。


「当たり前だろ。簡単に壊れたら直した意味がない。報酬はギルドに報告と飯代をサービスしてくれたら助かりますが、如何ですかね?」


 店主は「安すぎる!」と言うが、顔は綻んでいた。

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