第10話 訓練生
必死に拒否をしたのだが、ギルドのためだとオッサンは言い張る。最終的には俺が折れる形で明日から訓練に参加する事となり、カレンに新人冒険者が泊まっている宿舎へ連れて行かれ、六人が寝泊まりしている部屋に押し込まれたが、他の新人冒険者たちは食事しているのか部屋には居なかったし、俺が寝る布団がない。
「カレンさん、俺の布団や食事は?」
「これから用意させる。明日が楽しみだな!」
嬉しそうな顔してどこかへ行く。楽しみなのはアンタだけだ。
しばらくしてメイドの格好した人が食事を運んできて、執事の格好をした人が布団を用意してくれたのだが、他の六人はベッドで俺は直で床。扱いが雑じゃね? アンタ等が無理矢理参加させたくせに……グスン。
食事を終えて、六人の邪魔にならないよう布団を敷き風呂に入っていないことを思い出す。
「どうにかして風呂に入らねば……」
独り言を呟きながらスキルでどうにかならないか探していると、ゲームの時には意味が分からなかったが、生活魔法というのがあったのを思い出し、生活魔法を唱えてみると、手など汚れていた箇所が綺麗になった。マジックバックと同じ意味だったな。
それからしばらくして訓練に参加していた冒険者たちが戻ってきたが、その表情は疲れ切っていた。
「……あれ? 君は?」
一番最初に入ってきた新人冒険者が俺に気が付き、疲れ切った顔をして聞いてきた。
「俺は四ノ宮京介。姓が四ノ宮で名が京介。明日からみんなと一緒に訓練する。よろしく!」
先ずは自分から名乗ってみた。
「あー、君が教官たちが言っていた『逃げた』奴か……」
逃げた? どういうことだ?
「俺、逃げてないですよ? 募集受け付け終了してしまったから、参加できなかったんです」
他の冒険者たちは興味無さそうに中へ入っていく。俺に話かけてきた奴も「よろしくー」と言って、自分のベッドらしき場所に腰をおろした。
しかし、訓練が嫌になって逃げた扱いをしていたのには驚いた。
翌朝、銅鑼のような音が鳴り響いて目を覚ました。銅鑼の音は一発だけではなく、何回も叩かれたように鳴り響きとてもうるさいため目を覚ました。
「うるせぇなぁー。朝っぱら誰だよ……」
廊下ではいまだに銅鑼らしき物を叩いているらしく、音が鳴り響いている。
「朝だぞ! 起きるんだ!!」
カレンの声がする。アイツがやっているのか?
服を着て廊下に出てみると、カレンが小型の銅鑼を持って嬉しそうに叩いていやがった。
「朝っぱらからどうしたんですか……。まだ日が昇り始めたばかりではないですか」
「おはようキョスケ! さぁ早く準備をして朝飯を食べるんだ! ほーらみんな朝だぞ! 早く起きるんだ!!」
全員が起きるまで銅鑼を叩き続けるカレン。みんなは眠たそうな顔して起きてきて、まるでゾンビのように食道があると思われる場所へ歩き始める。
その集団の中には女性もおり、訓練を受けているのは女性もいることがわかった。
集団に付いて行き食堂へ到着すると、訓練生たちは眠たそうな顔してモソモソとパンを食べていて、少しだけ恐怖を覚えた。どんな訓練をしているのだろうか……。俺も早く食べた方が良いな……。
「食事が終わった者から外に出ろ!」
カレンが全員に言い放つと、訓練生たちは食べるのを止めて外へ向かうので、俺も追いかけるように外へ向かった。
外に出る途中で気が付いたのだが、みんな首にチョーカーのような物を付けており、それが何なのか不思議に思った。
みんなの後に付いて行くと、グラウンドのような場所に到着した。みんなは横一列に並び、誰かが来るのを待っているようだが、どう考えても変だ。どうしてみんなは規律よく動いているのだろうか?
その疑問はカレンがやって来て解決する。
「キョスケ、訓練生を見分けるためにコレを着けるんだ」
そう言って差し出してきたのはみんなが着けているチョーカーらしき物。俺はそれを受け取り、言われた通りに取り付けると、カレンは指を差して笑い始めた。
「キョスケ! それは奴隷のチョーカーだ! 一週間は取れないように設定してある魔道具だ。これお前は逃げることができなくなった! 私の命令に聞かないと、チョーカーが自動で締まるぞ」
何処かで読んだことがあるセリフを笑いながら述べるカレン。バカみたいな手に引っ掛かった俺だが、実際はスキル効果でデバフや呪の類に関して無効化されているからチョーカーが締まることもない。それに魔法で解除も可能である。みんなはそのようなスキルが無いため嫌々指示に従っているだけのようだ。
一通り笑い終えたカレン。用意された台上に乗って訓練生の俺たちを見る。
「さて諸君! 今日も楽しい訓練の時間だ」
絶対に楽しくないと隣にいる訓練生が呟く。
「先ずは基礎体力を上げるため、走り込んでもらう!」
言い終わると全員は元気よく返事をして走り始める。これもチョーカーの影響だろう。だが、基礎体力を付けるという点は間違っていない。
「キョスケ! お前はアレを背負って走るんだ」
カレンの指差す方を見ると、背負いやすいようロープで結ばれている丸太があった。丸太を背負えと言うのか? バカなのか?
「きょ、教官……丸太を背負うんですか?」
「早く背負うんだ! このウジ虫!!」
相手は言うこと聞くと思っているので言いたい放題だ。チョーカーが締まると思わせるためカレンの言うことを聞き、ロープを掴んで丸太を持ち上げる。これは意外と重いが、ステータスお化けの俺には関係ない。だが、少しでも重そうに演技をしなければ、さらに無茶な要求をしてくるかもしれん。
重そうにしながら丸太を背負うと、カレンは嬉しそうに笑いやがった。
丸太を背負いながらみんなと同じスピードで走るわけにはいかないので、キツそうな演技をしながらグラウンドらしき訓練場を走って行くと、何人もの訓練生たちが追い越していくが、追い越す瞬間にみんなが「がんばれ」と声をかけてくれた。しかも女子まで応援してくれて俺は少しだけ仲間意識が芽生えた。
訓練場を10週したところで走るのをやめるよう言われ、俺は疲れた演技をしながら座り込む。すると、カレンがやってきてみんなに「よい根性だウジ虫ども」と声をかけるのだが、顔は笑みを絶やさない。
今度は腕立て伏せを行うよう言ってきて、全員で声を合わせながら腕立てをしているのだが、俺だけ背中にセリナを座らせた状態でやらされている。
ステータスお化けだからセリナ一人乗せても重さは感じない。むしろセリナのお尻の感触が背中に伝わってくるのがご褒美に思えるが、ここでも演技しなければならない。
必死にダウンしないよう演技をおこない、100回やったくらいで腕立て伏せは終了。みんなが心配そうに声をかけてくれたのは嬉しいが、この程度で疲れが感じないと言うことは、この訓練は乗り切れるということだろう。
腹筋は邪魔なしに行われたが俺だけ200回もやらされ、その間、訓練生たちは一時の休憩をする。俺だけ休憩なしで次の訓練に移る。これは苛めにちかい。
次はスクワットだが、セリナを背負うのかと思っていたが丸太を背負うように言われ、走らされた時と同じ丸太を背負わされてスクワットを200回やらされるが、ほかの者たちは丸太なしの100回、待ち時間という休憩あり。一人で行っている時、みんなが声をかけてくれるのがもの凄く励みになる。しかし疲れてはいない。
スクワットが終わったら再び腕立て伏せをやらされ、このセットを5セットもやらされて、ようやく昼休憩となった。
この訓練は男女あわせて三十人ほどおり、俺のように疲れていない者は誰もいない。みんながグッタリしながら休憩をしているため、俺もみんなのように真似た。すると、隣に座っていた奴が話し掛けてきた。
「今日は君のおかげで楽な方だが、君は大丈夫か?」
「なんとかね……君は?」
疲れた演技をするのが疲れてきたくらいだ。
僕僕、アーノルドっていうんだ。君はキョスケだっけ?」
「俺の名前はキョウスケ……あっちが間違えて覚えているんだよ」
「そうなんだ……キョースケは教官たちと知り合いなのか?」
「……同じパーティなんだよ。俺、冒険者登録して一週間も経っていなくてね。パーティ募集の張り紙を観てお試しで入ったんだけど、何故か付きまとわれてる」
そう言うと、アーノルドは苦笑いをしていた。
「アーノルドは仲間とかいないのか?」
「いるよ。他はあっちでグッタリしてる」
アーノルドが指差す方を見ると女性一人と男性二人がダウンしていた。
「僕らはヨヨギ村出身でね、三人とも幼なじみなんだ」
ヨヨギ村……ここはシンジュクの町で規模としてはかなり大きい町になり、ヨヨギ村の側にはシブヤの森が広がっている。王都はトウキョウ都となっており、日本地図を縮小した世界となっている。
「俺は森育ちでね、親がいないから町へやってきたんだけど、一人だと寂しくてパーティ募集に食い付いたんだけど、だけどあんな奴等だとは思わなかったよ」
訓練は楽勝だったが、友達を作るのは難しい。俺はこの世界に来て初めての友達を作ることに成功した。




