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第0話 プロローグ

 目を開けると、俺は噴水の前に立っていた。

 ここは、ニューゲームで始めたときのスタート地点だ。

 どうやら周囲の人達は、俺が突然現れた事に気が付いていないらしく、何事も無かったかのように人々は歩いていた。

 俺は噴水の水面に顔を映して自分の顔を確認してみる。


「顔は以前と変わんねーか……」


 顔の変化はなく、次は服装や装備品を確かめてみた。


「げ、初期装備じゃん。ここはゲーム時のままじゃねーのか。お金も銀貨1枚に銅貨5枚しかない……。本当に初期のままだな」


 初期装備とは、布の服とナイフ一本、それと銀貨一枚、銅貨五枚のみ。

 初めてゲームを始めた時を思い出して、俺は絶望に満ちた溜め息を吐いたが、金策はすでに頭の中で構築されているため、それほど悲観することは無い。

 問題は、自分のステータスがどうなっているのか分からないことだけ、俺があの話を信じれるのならば、ほぼ全てのスキルがカンストしているはずである。

 それに、能力が引き継がれているのなら、外の魔物なども簡単に始末することができるし、魔王ですら、このような装備でも、赤子の手を捻るかのように仕留めることが可能のはずだ。


「俺の種族だけど、ゲームの設定通りなら『エルダードワーフ』のはずだけど、どうなんだろうか?」


 水面に映る姿では、自分の姿が人種と変わらないように見えるため、判別することができない。

 このゲームを始める際、性別のほかにも種族を選ぶことができるのだけれど、配合から選ぶことができるのである。

 選べる種族は人種のほか、エルフ族、ドワーフ族、獣人族の四種族。

 エルフは魔法や弓矢を得意としており、多種族に比べて力が弱いが素早さは種族で最高。薬学に優れている。

 ドワーフ族は筋力が高くて防御力は種族で最高。手先が器用で鍛冶能力に優れている。

 獣人族は筋力が一番高く、ドワーフに続いて防御力も高い。更に素早さも高く格闘能力に優れ、獣化することで能力が増強され戦いのスペシャリストとなる。

 だが、各種族の配合によって能力が引き継ぐ事ができない場合もある。

 エルフ族通しの配合では、ただのエルフが生まれるのだが、稀にハイエルフが生まれて高度な魔法を行使できるようになるほか、レイピアのような細身の剣以外も装備することができるし、弓矢などの飛び道具なども秀でているのだが、配合確率は宝くじで1等を当てるのと変わらないほど難しく、諦める人が多いため、普通のエルフ族が多い。

 ちなみに人種とエルフの配合だと、ダークエルフかハーフエルフになり、人種通しだと人種しか生まれることができないが、人種しか勇者の称号を得ることができないため、伝説の武具は人種しか装備ができない。

 また、初期の設定で色々な種族を作ることがるのだが、エルフとドワーフを配合しても人種しか生まれることがないはずだった……のだが、天文学的な確率で超が付くほど貴重種が生まれ、それは『エルダードワーフ』と呼ばれる者である。

 エルダードワーフは、ハイエルフの能力と、ドワーフ族の能力を併せ持ち、伝説級の武具を装備できるだけではなく、ドワーフ族特有の鍛冶技術のほか、エルフ独自の魔法や、薬学にも優れて、ほとんどの武具を装備できるスペシャルな人種となる。

 俺は何度かリセマラをして、奇跡的に引き当てることに成功したのだった。


「能力に関しては後で調べるとして、先ずはギルドハウスへ向かうとするか……。冒険者登録と商人登録をして、先ずは金策に励まなきゃな」


 自分の姿を確認した後、俺は記憶の中にある地図を思い出しながらギルドハウスがある方へ歩き始めたのだった。


 何故、俺がこの世界にいるのか。

 それは神様って奴の手違いで、この世界に転生した。

 元々、地球の日本国で生まれて大学に進学するまで地元に住んでいたが、現在は親元を離れて都会へ上京しており、仕事は大学の時に始めたFXで生計をたてており、定職に付かなくとも生活ができるまで稼いでいた。

 そんな生活を続けていたところ、あるニュースが俺の耳に入った。

 それは、これまでのVRゲームでは革命的な代物で、これまでは作られることのなかった、フルダイブ式のゲーム機であり、仮想空間で人生が楽しめるゲーム機が発売されるとのことだった。

 俺は興味本位でそのフルダイブ式のゲーム機を購入してしまうと、どんどんと仮想空間のゲームにのめり込んでいくことになった。

 その中でも、俺はMMORPG『ファクトリーアース』というゲームにハマり込んでしまい、トイレや食事以外の時間は、全て『ファクトリーアース』に費やしていて、気がついた時は、ゲーム内で五本の指に数えられるまでの実力者となってしまっていた。

 しかし、ゲーム内で色々な人がレジェンドクラスの俺を求めてやって来て、色々なお願いをしてくるようになってきたため、人付き合いが面倒になり始め、特定の人しかやって来れない場所でひっそりと暮らしていた。

 ゲーム内では順風満帆な生活を送っていたのだが、現実は違う。

 食事を摂らなきゃ人生が終わってしまうし、トイレにも行かなければならない。

 お金はFXで稼いでいたため老後まで問題ないが、一番の問題は食事や運動である。

 ゲームばかりやっていると、動く事が少なくなってしまうのと、食事をするにも食材を買いに行かなければならないのであるし、トイレットペーパーなどの生活雑貨だって必要である。

 そのため、俺は体を鈍らせないようにするため、朝と晩の二回に分けてランニングを始めることにしたのだ。

 そして、天気は快晴。

 俺は皆さんが必死に通勤している時間帯に、いつものように走っていると、コンビニから一人の男が飛び出してきた。

 何が起きているのか理解するまでに、少しだけ時間が掛かった。


『強盗だ!』


 あとから出てきた店員らしき男が叫び、俺は逃げる犯人を追いかけるために駆け出すと、突然体に強い衝撃が走り、俺は吹っ飛ぶように意識を失ったのだった。


 意識は徐々に戻って体を起こしてみると、辺りは真っ白で何も無い空間で、ここが何処の場所なのかも分からない。

 普通に考えるのであれば、病院のベッド上なのだろうが、現実は違うと言わざる得ない。


「――ここは何処なんだ?」


 周囲を見渡してみても、何も無い。

 ただ、真っ白な空間だけが広がっている。


「いったい、あのときは何が起きたんだ?」


 思い出そうとしても、体に強い衝撃があった事だけしか思い出せず、首を傾げることしかできない。

 座っていても仕方がないので、俺は立ち上がった。


『――おぉ! どうやら目が覚めたようだな』


 立ち上がったと同時に、真後ろから声が聞こえて俺は驚きの声を上げながら飛び上がった。


「だ、誰だ!」


 後ろを振り返りながら、頭の中に浮かんだ言葉がそれだった。


『ふむ、私はお前さんが言うところの神だ……』


 白髪で古びた杖の様な物を手にした爺さんが、自分は神だと言い出して、俺は疑いの眼差しを向ける。


『何じゃ、信用しとらん目をしておるな……』


 当たり前である。

 自分の事を神だとぬかす奴を、どう信じれば良いというのだろうか。


「――それで、神様が俺に何用だと言うんだ?」


 取り敢えず爺さんの話に合わせることにした。


『ふむ、実はな……』


 どうせ俺は夢でも見ているのだろうと思いながら、神と名乗った爺さんを見つめる。


『――間違って、お前さんを殺しちゃった!』


 突然の台詞に頭が追い付かず、俺は間の抜けた声を上げた。


『本来であれば、コンビニ強盗に雷を落とすところが、間違ってお前さんに落としてしまったんじゃ』


 何を言われているのか理解が追い付かず、俺は後頭部ら辺の頭を描きながら、強盗を追い掛ける前を思い出す。


「おいおい爺さん、あのときゃ天気は快晴で、雲一つ無かったはずだぞ」


 確かに天気は快晴だった。

 雲一つないのに雷が落ちるのは、どう考えてもあり得ない。


『神の裁きに雲なんて必要無かろうが。お前さん、青天の霹靂という言葉も知らんのか?』


「それは(ことわざ)で、実際に起きるはずねーだろ」


 なにが青天の霹靂だよ。


『神の力は人智を超えておる。それに、この空間はどうやって説明するんじゃ?』


 真っ白な空間で、どこまでも遠くが見え、壁が見当たらない。


「どうせ、これは夢だろ。現実味がないじゃねーか」


 俺の言葉に爺さんは、途轍もなく深い溜め息を吐きやがった。

 失礼な奴だ。


『ならば現実ってやつを見せてやろう……』


 爺さんはそう言うと、持っていた杖をかざす。

 眩い光が辺りを包み込み、俺はその眩しさから腕で目の前を覆い隠した。


『もう良いぞ』


 その言葉に腕を退かして周囲を確認してみると、何処かで見たことのある風景だった。


「ここは?」


『ここは、お主が死んだ場所じゃ。あそこを見てみぃ』


 爺さんが指差す方に顔を向けて見ると、人間らしき人が倒れており、コンビニ店員が腰を抜かしている場面だった。

 倒れている人物に近寄ると、かなり火傷をしていて顔が酷い状態になっている。

 今まで見たこともない光景を目にして、俺は吐き気を催したのだが、何も出ずに涎だけが口から垂れる。


『どうじゃ? これで信用できたじゃろ』


 横たわっている男を再び見るのは正直きついが、恐る恐る目を向けてみると、ボロボロになっている服は、たしかに俺が着ていた物で間違いない。


「……お、おい! ちょっと待て、このあと俺はどうなるんだよ!」


 爺さんに向かって叫ぶように言う。

 本当に死んでしまったというのなら、俺はあの世って言われている場所へ行くことになるのだろうか。

 正直、やり残したことが沢山ある。

 結婚どころか彼女すらいないのが心残りの一つでもある。


『ふむ、ようやく現実を理解してくれたようじゃな……』


 顎を擦るかのように手を動かしながら爺さんは言う。

 現実というよりも、現状を把握しただけで、何一つとして解決はしていない。

 俺こと『四ノ宮(しのみや)京介(きょうすけ)』は、若干24歳の若さでこの世と別れを告げさせられたのである……。

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