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「……おい」
翌朝――というかフレックスタイム制なので出社したのは昼だが――虎尾さんに詰められた俺は、冷や汗を流していた。
壁際に押し込まれ、虎尾さんの細い脚が事務所の壁を蹴っ飛ばす。
「歌用の調整してねぇんだからまだ歌うなっつったよな」
「はい……」
「忘れてたのか? そのちっせー脳みそはもう容量が限界か? 何度も何度も同じこと言ってあげないと分かんねぇ鶏かなんかか?」
「はい……俺は鶏です……」
「鳥風情が人の言葉を喋るな」
「コケー……」
冗談だったのに思いっきり腹パンされて流石に痛い。これは本気で怒ってるパターン。
悶絶する声に気付いたのか、社長室の扉が開かれる。
――昨晩の元凶とでもいうべき、社長もとい光コウの登場だ。
「あれ」
「アァ?」
「怒ってる系?」
「ったり前だろ。歌用の設定してねぇしマイクも出してねぇし歌うための部屋じゃねぇし、そもそもアタシが居ない状況で歌うなっつってんの聞いてねぇコイツが悪い」
「えー、でも煽ったの私だよー?」
「関係ねぇ。イチ視聴者に煽られた程度で歌うなっつってんだ。みにえるに似せて歌う練習なんてしてねぇだろ。そもそも収益化前のことなんて知らねぇはずだし」
「…………」
ぐうの音も出ない正論に、返答が詰まった。
その当時のことは、本当に知らないのだ。過去に歌を投稿していたこと自体はファンコミュニティで話してる人が居たので知っていたが、虎尾さんや五十治さんのような事情を知ってる人から詳しい話を聞いたわけではない。
つまるところ、『権利上の問題で消した』――というのも口から出まかせなのだ。実際のところどうなのかは知らないのに、勝手に創作してしまった。怒られて当然だろう。
虎尾さんはこちらに背を向けて大きな溜息を吐くと、「コウ」と呼びかける。
「うん?」
「こいつ借りてくぞ。最低でも1週間は配信させねぇ。言い訳考えとけ」
「オッケー、出社は?」
「あっちにさせる」
「りょーかい。頑張ってねー」
ひらひらと手を振る社長を横目に、首根っこを掴まれ引きずられる俺。
さて、これからどうなるのだろう。釜茹だったら嫌だなぁ……。




