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父が遺したVのガワ  作者: 衣太
共犯者
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2

「――イト君、エイト君?」


「へ? あ、ごめんなさい」

「大丈夫?」

「あ、はい。なんとなく社長に既視感覚えた理由が分かったので、スッキリしました」

「ユーシさん関係かな? ま、自分の仕事子供に話したことくらいあったかな」

「ですね、全然いつのことだったか覚えてないですけど……」


 そもそも、自分は父と同居していない理由すら知らないのだ。海外赴任していたというのが嘘なら、叔父まで騙して何をしていたのか。


 聞いて、良いのだろうか。聞く覚悟が、あるのだろうか。

 社長なら、聞けばきっと答えてくれるだろう。しかしそれを聞いて受け止める覚悟が、果たして今の自分にあるのか。


 ――分からない。なら、まだ聞かない方が良いだろう。

 あちらも話してこないのだから、覚悟が決まってから聞くことにしよう。


「あ、そうだ。企画の話だけどさ」


 微妙な空気になったのを察した社長が、手をぱんと合わせて話を逸らしてくれる。


「あ、はい」

「むら君と一緒に出来そうな企画、考えられたりする? ほら、前に出して貰ったのって一人用の企画だったでしょ」

「えっと、コラボでってことですか?」

「そうそう」

「えっリンライクって社外コラボアリなんですか!? ならボクみにえるお兄さんとお歌うたいたいですっ!」

「別に私から無しって言ったつもりはないんだけどねぇ」


 社長が虎尾さんの方に目を向けると、虎尾さんは溜息を吐いて返した。


「社外だと権利関係がめんどくせぇ。どっちのチャンネルでやるかで投げ銭持ってく方が変わるし、どっち主体でやろうにも金のやり取りが発生してクソめんどくせぇ」

「というわけで、企画が通っても法務から止められちゃうんだよね。でも個人勢――それもみにえるならぶっちゃけ社内だし、そのへんはどうとでもなるんだよね。なんかあの時発表しなかった企画でコラボに使えそうなのあったりする?」

「お歌! ボクみにえるお兄さんとお歌うたいたいですっ!!」

「歌歌うるせぇ! バ美肉にキャラ維持したまま歌わせんのどんだけめんどくせぇと思ってんだ!? せめてライブ配信ではやめろ!!」


 虎尾さんに怒鳴られてビクリと震えるむら君。ごめんね、この人ずっとこんななの。


「昨日みたいに、偶発的に見にいく――みたいのは無しですか?」

「それはどっちでも良いよ? 面白ければ」

「んー、なら……」


 虎尾さんの方をちらりと見ると、視線に気付いて「ンだよ」と返される。ガラ悪いなぁ見た目女子小学生なのに……。


「無難ですけど、ゲームの協力プレイですかね? どっちかがゲーム配信してるところに飛び入りで参加してボイチャに混ざってくる、みたいな感じはどうでしょう」


 放送事故企画に比べたら無難すぎるが、ボイチャを繋いだ相手が偶然にも好きなVTuverだった――よりはリアリティがあるだろう。

 それに、この企画の良いところは、台本など特に作らないでも普通にゲームをしてるだけで良いというところにある。ゲーム中は配信画面を直視出来ないため投げ銭は少なくなりがちだが、コメントや視聴者数はそれなりに稼げるし、話題もそれなりに取れる。

 特に大天使みにえると豊穣むらはかなりジャンルが違うこともあり、お互いのファン層が被っていないので、どちらのファンにとっても新鮮に映るだろう。


「え、でもみにえるおじさんってゲーム得意じゃないですよね?」

「うん、だからまぁ、弱くても映えるゲームにするか、推理ゲーにするかだけど……なんかあるかな、ガンシューは駄目だよ」

「ガンシューは……駄目ですよねっ!」


 みにえるが一番苦手なゲーム、それがガンシュー――所謂FPSやTPSと呼ばれるジャンルだ。特にバトルロワイアル系の、どこに敵が居るかも分からず自分以外全部敵のゲームが壊滅的だ。見せ場なんて特にないまま1時間死に続けるのを見守ることになるので、必然的にコメントもお通夜になる。


「あ、なら人狼系はどうー? 最近わたしがキャラデザしたやつ、えっと、なんて名前だっけな……?」

「『成谷(なりや)』ですか?」

「あ、そうそうー。『汝はコレクター成谷』だー。色々デザインやりすぎてごっちゃになっちゃってんだよねー」


 五十治さんは自嘲気味に笑う。『汝はコレクター成谷』とは近頃配信者界隈で地味に流行り出している人狼系のゲームだ。

 役職をロールプレイして人狼――『成谷』を探す推理ゲームではあるが、他の人狼系ゲームと明確に違うところがあるとしたら、やはり成谷の存在だろう。特定条件で成谷に殺された者は、死んで成谷へと変わる。通常は毎日人数が減り続ける人狼ゲームにおいて、人狼側が増えるという現象が起こるのだ。


「あっ、3期生の先輩がよくみんなで一緒にやってるやつですよね! 配信見にいったことあります!」

「……あれ声ゴチャるから音響としてはかなりめんどくせぇんだが」

「そういえば3期生って全員五十治さんデザインか。そりゃ五十治さんがデザインしたゲームやりたがるよな……。あっ、デザインの件で社長に質問あったんですが」

「うん?」

「みにえるのデザインが五十治さんなのは、確定情報として話しても良いんですか?」

「良いよ? ユーシさんがしてなかっただけだし」

「了解です。なんでだろ?」

「あー……わたしってルクス時代は本名で活動してたからかなー?」

「えっ、そうなんですか」

「今のPN(ペンネーム)になったのってみにえるのデザインしてからだよー。だから気遣ってくれてたんじゃないかなー?」

「なるほどなぁ……。じゃ、次の配信でそのへんの話もするとして、二人とも五十治さんのデザインだからゲームの選出自体は問題なさそうですね。あと適当な数人はもうランダムで集めちゃって良いですかね?」

「つーかそれ、ランダムじゃなくて視聴者参加型にすりゃいいだろ」

「良いね良いね。でもどっちかの配信見てたら推理ゲーって成立しなくない?」

「確かアレ、ルームの初期設定で最初に入った何人を犯人にしないって設定あったはずだぞ。3期毎回そうやってるし」

「いいねいいねー。じゃそんな感じで。みにえる側で募集掛けて、同じタイミングでライブ配信してるむら君が飛び入りで参加してくる、みたいな感じで良いかな?」

「ボクはオッケーです! みにえるお兄さんの配信にちょっとコメしただけでチャンネル登録めっちゃ増えましたし!!」

「元々むら君のが圧倒的に多いんだけどね……」

「でもライブ配信の視聴者数はいっつもみにえるおじさんのが多いんですよね。リンライクってほら、デビュー前からチャンネルとかアカウント作って貰えるから、動画見る前にチャンネル登録するファン多いんですけど、結局見るところまで辿り着くことあんまないんですよね」

「だよねー、ま、数多いしね……」

「VTuverのファンってそのまま企業自体のファンになること多いので、そっからどれだけ自分のファン作れるかって話になるんですよねー。難しいなぁ……」


 むら君がそう言うと、社長がうんうんと頷いた。

 自分の認識もそうだった。やはりブランド力とは偉大で、大手であればあるほど同ブランドの他VTuverにも興味を持ちやすい。みにえるのような個人勢であればそのような集客効果は見込めないが、豊穣むらはれっきとしたリンライク所属のVTuverだ。


「……一応聞いておくんですが、投げ銭ってどっちがどのくらいですか?」


 社長に目配せをしたが、社長の視線はそのまま虎尾さんに向く。いや知らんのかい。


「豊穣むらが先月300行かないくらい、みにえるが普段100くらいだな」

「んー、ま、そんな感じか。……あれ、昨日いくらだったっけ」

「170万」

「…………虎尾さん、常に顔出ししない?」

「しねーよ!!!!」


 全力で脛を蹴られた。痛いよ。


「でも絶対次の配信って絶対顔出ししろって言われるからスタンバイしてくれたり……」

「し、ね、え、よッ!!!!」


 鳩尾にパンチを食らった。痛いよ。


「月一回は顔出そっか」


 ――ここで援護射撃。社長からの一言!


「ハァ? 嫌だが?」


 ――だが虎尾さんにはノーダメージ! アンタ誰にでもその態度なのな!


「社長命令でも?」

「…………」

「ボーナスの割合増やしちゃおっかなー?」

「…………4割」

「オッケー。なら会社3.5のエイト君2.5ね」

「月一回だからな」

「うんうん、そのうち毎週にしようね」

「しねーよ!!!!」


 良いように丸め込まれた虎尾さんだが、流石に社長には物理攻撃をしないようだ。明らかに地団太踏んでるが。


「ぼ、ボクは!? 顔出しても良いんですか!?」


 何故か手を挙げて質問するむら君。うーん、顔は可愛い系だし全然出せると思うんだけど、VTuverだしなぁ。いやそれ言えばみにえるもそうなんだけど。


「むら君は駄目だよ」

「はいっ!!」

「つーか規約にあんだろ死んでも顔出すなって」

「はいっ!!!!」


 良い返事だね。っていうかそういう規約もあるんだね。まぁそりゃそうか。

 中の人が顔出しに耐えられる顔をお持ちかということと、顔出ししていいかは別の話である。

 みにえるのように個人勢ということになっていれば話は違うが、豊穣むらが企業所属VTuverとしてリンライクのブランドを背負っている以上、契約上の会社員でなくとも会社の都合というものがある。

 タレントがノーメイクのジャージ姿で生活しているところを、本人に知らせず隠しカメラで映したものをテレビに晒せるかという話が近いだろうか。勿論番組として面白く出来るなら別かもしれないが、イメージダウンは避けられまい。


 今回は当日開始の企画ということもあり、そこまで細かい台本作りをせず、そのままノリだけで本番を迎えることとなった。

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