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アークの涙 -転移した者たちの戦争物語-  作者: 臼田クロ
第弐章 イグニス帝国編
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大海を知らず

「兄弟の仲良し隠れんぼはお終いだ。早く出てこい。」

カールは布で切られた腕を押さえ、止血した。

「あぁ。分かってる。もう覚悟は決めた。」


壁から姿を現したカールの目は変わっていた。

「小僧、腹括ったか。さぁ兄弟心中と行こうか。」

「心中は…お前ともだよ!」


カールはそう言うと、勢いよく飛び出しルドクを殴ろうとしたがやはりエリックに防がれた。


「無駄だ。どうしても諦めないというのなら、

エリック!やれ!氷炎牢(ブレイザリク)!」

そう言うとエリックは、ルドクの足元から氷でできた炎を纏ったピラミッドのような建造物を作り、その頂上に玉座を建て、ルドクはそれに座った。


「高みの見物か?」

炎が邪魔でルドクを攻めることができない。この炎は冷気の性質も持っている。つまり、ルドクが直接出しているわけではなくエリックの死体を介して間接的に放っている。


ということは、エリックを倒さないと前に進めない…。


「気付いたようだな。大人しく目の前の肉親を倒すといい。まあお前には無理な話だがな。」

「最初からそうするのも覚悟の上だ。お前を攻撃したのはただの確認だ。」


「さあ、ここからだ。始めよう、兄貴…。」

2人は雪と氷のアークで攻防戦を繰り広げた。


それは周囲数キロの地形一帯を巻き込む激しい戦いだった。互いの戦力は拮抗するかに思えたが、エリックの氷のアークで炎を纏った槍による攻撃は次第にカールを追い詰めていった。

炎によってゆっくりと溶けていった雪と氷は、涙のように徐々に流れた。


エリックが氷で火を纏った巨大な2匹の蛇を放ち、カールに襲いかかる。カールは左右の2匹を左手で殴り、氷を砕いた。だが2匹の後ろからもう1匹の蛇が来た。

蛇が噛み付こうと口を大きく開ける。すると口の中からエリックが出てきた。エリックは矢先を炎で纏った槍でカールを攻撃した。

カールはかわしたが、脇腹に少し当たってしまった。


激甚千雪崩(アバランチグラッシェル)ッ!」

カールは真っ直ぐ上に手を伸ばして勢いよく手を下げると、上から雪崩を起こしてエリックと距離をあけた。


「クソ野郎が…腹が立ってきたなぁ!」

「この下僕は我に絶対忠順だ。来い。」

そういうとエリックはすぐに玉座の前に来た。


「なにをしようが何一つ言わぬ完璧な兵だ。見てみろ」

そう言ってルドクはエリックを思い切り殴った。殴ったエリックの顔はすぐに回復した。

「いくら殴ろうと我のアークによって回復する。永遠という美しさをしかとお前の(まなこ)に焼き付けよ!」

ルドクはエリックを何発も殴った。


「もう言いやめろッ!髭面野郎…絶対に、殺してやる…!」

ルドクは殴る手を止めた。

「もう言い下がれ。生意気な弟を殺してやれ」

ルドクは高く飛んで玉座から降りた。


炎宿大樹木(ミスティルテイン)。」

アークでルドクは不気味な炎の剣を創り出し、それをエリックに投げて渡した。


「こいつを殺したのはたしかこの剣だったな。とっととそれで愚弟を惨殺しろ。」

エリックは炎の斬撃をカールに飛ばした。


聖なる護符(ジュピターズフォール)!」

雪の壁を作ったが防ぎきれない。攻撃はカールに当たってしまった。

「くっ…立て直さなくちゃ…!」


カールは大きなクロスボウを雪で作り、矢をエリックに射た。エリックは炎宿大樹木(ミスティルテイン)の炎の斬撃を飛ばし、氷の大きな尾の黒い鷲を出してその鳥に炎を纏わせた。


矢と鷲はぶつかり合い、消えたがエリックはすぐさま次の攻撃に入った。

大きな氷の槍が、横に降る雨のようにカールを攻めた。


カールはいくら壁を作っても、左拳を大きくしてもエリックの槍によって破壊されてしまう。


だが、カールは足に吹雪の推進力を使い、エリックの大きな氷の槍を避けた。そのままその槍に飛び乗り、走ってエリックとの距離を詰めた。


「雪華の暴乱(アイシーブラスト)!」

カールは大きな雪の結晶を手裏剣のように飛ばしエリックの頭を斬り裂いた。


「兄貴を思い出しちまうから、この技はずっと使わなかったんだ。じゃあな…。」


霧雪が晴れたそのとき、倒したかに思えたエリックは氷の彫刻のような姿だった。


「こ、これは…! 氷の分身?!」

そう言った次の瞬間、後ろからエリックの炎宿大樹木(ミスティルテイン)がカールの心臓を貫いた。


ルドクが大きな声で哄笑する音が氷の大地に響いた。

「こりゃ傑作だ!w 大好きな兄に背中から刺される弟!ww 笑いが止まらないッ!www」


カールは背中にエリックの槍が刺さったまま倒れた。

「実に滑稽だ!もっと地面にあいさつして見せろ!その面をガレノス様に見せるのだ!」

「復讐は…そう簡単に果たせないか…。」

カールは静かに目を閉じた。息は無かった。

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